孟達
何故こんなことになったのか、
俺の居る新城の周りは敵軍、魏の軍に囲まれている、
旗印は司馬、
知将司馬懿その人だ、
敵将が城に向かってなにかを叫ぶ、
あれは確か…名将徐晃…
敵陣に隙は無い、
それに比べ我が軍に戦の準備は出来ておらず
攻めても、勝機はなく、逃げようにも、隙はなく、守っても、守り切れるはずもなく、援軍も無い、
俺は、ここで死を悟った、一人の猛将も百の兵にはかなわない、
ましてや、敵軍を率いるのは知将…
何故、このような事態になってしまったのだろうか、
事態は…もう、何年前まで遡るだろうか、
あの頃私は、君主様の義理の息子の劉封殿の下、上庸の守備についていた…
反乱を鎮めたり、兵を鍛練したり、忙しいながらも、充実した日々であったー
しかし、あの時から全てが狂い始めた、
…東の名将、関羽殿が敵軍を攻めたのだ、途中まではうまくいっていた、
猛将、ホウ徳を斬り、名将、于禁を捕らえ、
敵城を落とす寸前までいったのだが…
後方より攻め寄せた別の国の敵軍に侵攻を受け、部下の裏切りにもあい、窮地にさらされたのだ、
関羽殿は連戦連敗し、とある古城に立て篭もった、兵力差はいかんともしがたく、落城は目の前だった、
そんな時、関羽殿から、救援依頼を持った、関羽殿配下の将、廖化殿が来た、
彼は劉封殿にあい、救援を依頼した、
劉封殿は兵を出そうとしたが、俺は劉封殿を止めた、
私は軍の兵は僅かに3000程、対する敵軍は数万…
勝ち目は無い、ここで攻めては、上庸まで危なくなる、
ここが取られると、本国まで危なくなるのだ、
俺は劉封殿にこの地の大切さ、兵を出す無意味さを説き、この地を固めるように進言した、
劉封殿はなおも迷っていたみたいだが、遂に折れた、
廖化殿は喰い下がったが、彼を説得した、彼は納得できない様子であったが、無駄だと判断したのか、馬を駆け、本国まで救援に向かっていった、
俺は、これで良かったのだ、と、自分に言い聞かせた、
そして…関羽殿は捕らえられ、打ち首になったという話が…伝わって来た…
そして、暫く時が過ぎたある日、劉封殿が綿竹という場所に移駐を命じられた、
それ自体を不信には思わなかった、移駐は問題なく終わりったが、ある人から、衝撃の事実を聞かされる、
君主の劉備様が俺を殺そうとしているのだと、
理由は明らかだった、
援軍を出さなかったからだ、
何たることだ!
劉備様が…
しかし、考えて見れば無理も無いことなのかもしれない、
関羽殿は劉備殿の義兄弟、
弟を見捨てたとなると…
しかし、あの時仕方が無かったのだ!
俺は誰に言うでもなく、叫んだ、力の限り叫んだ!
しかし、いくら叫ぼうとも、劉備様の考えが変わることはなく、俺の運命が変わるわけでも無い、
俺は悩んだ、
…俺は、敵国である魏に降伏した、
自分の支配下にあった土地を手土産に、
もう…こうするしか無かったのだ…
こうするしか……
そんなある日…既に敵国となったかつての祖国、蜀の国から劉封殿…いや、劉封が攻めて来た、
俺の名を叫びながら、
近隣の村々を荒らした、
やむなく俺は出撃する、手に矛を持ち、腰に弓を提げ、劉封軍と対峙する、
劉封が俺に叫んだ…なにかを叫んだ、
なにかは、俺には聞こえなかったが、俺を罵倒しているのだろう、
彼は頭に血が上っていたのか、真っ直ぐに突っ込んで来た、
…俺は彼に応じるかのように、真っ直ぐ突っ込んだ、
何も考えず、ただただ、真っ直ぐ、
劉封軍は弱かった、彼は…とても名将と呼べる器では無い、
そこに、後方から味方の夏侯尚軍と徐晃軍が現れた、
どうやら、戦に気付き救援に来たのだろう、
俺はうっとうしく思いながらも、彼等の援軍を追い返すことも出来ず、このまま、劉封軍を徹底的に叩き潰した、
翌日も、また翌日も、彼は兵を纏め挑んで来た、
その度に、俺は彼を叩き潰した、
そして、俺は彼に使者を送った、二人送った、降伏するよう、手紙を添えて、
しかし、一人しか使者は帰らなかった、
使者が言うには、彼は烈火の如く怒り、
「先には義叔父の情義を誤らせ、今度は親子の間を裂こうと言うのか」
と叫び、
手紙を引き裂き、使者を切り捨てたと言う、
彼は…悲しいくらいに真っ直ぐだった…
だから俺は、彼に対する礼儀として、彼の軍を叩きのめし、彼を本国まで撤退させた、
後に、彼が劉備に斬られたと言う話が風の噂で聞こえて来た……
そして、時は過ぎた……
蜀では劉備は没し、息子の劉禅が劉備の跡を継ぎ、
最高位である丞相にはかの諸葛亮(孔明)がついた、
そして彼、諸葛亮は今は亡き先主、劉備の意思を継ぎ、魏国に対し所謂、北伐を開始した、
何度か北伐を行うものも、国力差はいかんともしがたく……
その時俺は決心した、
祖国、蜀に帰ろうと!
今ならば、劉備様もおらず、殺されることもないだろうと…
飢餓のため、益州(蜀)に移住し、長らく過ごした蜀の地…
俺は…望郷の念に捕われていたのかも知れない…
俺は思い立ったら、すぐに行動した、
まず、友人であった李厳の息子、永安の李豊に手紙を出し、丞相から了解を受け、
上庸太守申耽を誘い、挙兵の準備をした、
しかし、俺の読みは甘かった、
何者かが司馬懿に情報を流した、
司馬懿は新城に急行し、我が軍は包囲されてしまった…
外では相変わらず、徐晃が叫んでいる、
俺は、弓を取り出し、
徐晃にわけのわからない言葉を叫び返しながら、彼を一矢で射殺した、
敵軍は動揺したらしく、この隙をついて、蜀まで逃亡しょうと、軍勢を揃えようとしたが、
城内から鬨声がする、
その声は次第に大きく、なった、
兵が一人、
「報告」
と叫んで現れた、背中には矢が刺さっている、
しかし、彼の報告を聞く前に状況は理解できた、
後ろから、弓を持った申耽が現れた、
俺は…
裏切られたのだ…
兵の背中に、もう一本、矢が突き刺さる、
俺は無我夢中で腰の剣を抜き、彼の名を叫びながら、彼に切り掛かっていった、
体中に何か突き刺す感覚がある、
そして、俺の刃はやつに届くことはなく…
俺の生涯は幕を閉じた…
最後までお読みいただきありがとうございましたm(__)m盛り上がりにかけますが…気にしないでください(^^ゞ