【幻風景】幽木の憂鬱
公園にある桜の老木が、危ないということで、ついに切り倒されることになった。
それは仕方ないと思っていたが、切られて数ヶ月後。そこに桜の幽霊が生えていることに気づく。
残業で遅くなった帰りだ。駅からマンションまでの帰路、公園の近くを通る。そこで初夏の季節外れなのに、春の香り。桜が咲いている。
するとあの桜の切り株があった場所から、透けた幹が延び、朧気な枝葉が夜空に展がっている。そして月光に照らされて、淡く光る花を咲かせているのだ。
この桜の幽霊。いかにも幽霊らしく、日の光の下では消えてしまう。また自分しか見えてないのか、他に誰も気づいていないのか。誰も噂しない。
ただ季節関係なく桜が愛でられるのは、ありがたい。
僕は帰りの遅くなった時、また夜のコンビニへの散歩途中。幾度となく桜の幽霊をぼうっと眺めた。
ある夜、公園のベンチに座り、コンビニで買ったビールを開ける。そこで僕は桜の幽霊に問いかけた。
「無念でもあって幽霊になったのかい?」
樹木にそんなものあるはずがない。毎年のように花を咲かせようとして、気づいたら幽霊になっていたとの返答。
「それなら仕方ない」
ただ無念があるとしたら、夜にしかいられないので光合成できない。昼になると自分は消えてしまう。これだと気が滅入る。
「なるほど、一理ある」
今度、投光器でも人から借りてみるかな。そしてライティングしてやるのだ。
夜闇に浮かび上がる、幽霊の桜。天へ向けた投光器はきっと風の代わりとなって、桜吹雪が空へ舞い上がる。そして何枚かは星となって輝き続けたら良いのに。




