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因習の胎動 ー「因習村」は、どのようにして生まれるのだろうかー  作者: 無機色


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五. 会議、打診

 おトヨが太一の様子をコッソリ見るようになってから数日経ったが、その容態は一向に変わらなかった。


「なあ、アンタ。太一のことなんだけどね、どうもなかなか治らないようなんだよ。ずっと寝ているのに、熱もあんまり下がっていないみたいだし……」


「そうか……。前も言ったが、あまり根を詰め過ぎないようにな、おトヨ」


「そうだよ。母さんまで倒れちゃァ元も子もない」


 夫の一郎太だけでない。太一の兄、長男の豊一郎までも私のことを気に掛けてくれている。

 その優しさに、おトヨは嬉しいような、息子が大変なんだから私がしっかりしなくてはという面目ないような想いが胸に広がった。


 そうはいっても、太一の異変には皆が不安を募らせていた。

 特に、一郎太と豊一郎は、"太一が見たものの正体が分かれば、彼が少しでも安心するだろう"とも考えた。

 山で見たという「何か」を確かめたい、山に行ってみようと話すうち、二人はついに自分の足で向かう決意を固めたらしい。


「行きたいのはやまやまだが、俺たちでは些か不安だ。少し噂もされているが、本当にクマが出たのかもしれない。行くとしても明るいうち、浅いところまでだな」


「父さん、俺は化け物にだってクマにだって喰われるのはゴメンだぜ」


 などと、どうにも軽い気持ちで"今は危険かもしれない"と言われている場所に行こうとする二人に、おトヨは口を挟んだ。


「それなら、弥平やへいに同行してもらってはどうかい?ほら、向こうの角の、おこうさんとこの息子の。あの若者なら力も強いし、頼りになるだろう」


 その提案に二人は「あの青年ならいいな」、「弥平の兄さんには小さい頃から世話になってたしな」と口々に調子のいいことを続ける。


 ため息をつくおトヨを尻目に、善は急げと二人はそのままの足でバタバタと弥平の家を訪ねて行った。


 ――


 かどの家に近づいていくと、おこうと弥平の親子が畑の脇に並んで座っているのが見えた。農作業の休憩でもしているのだろう。


「あれ、お巷さん、弥平君お揃いで。今日はちょっとうちの太一のことで相談があってな……」


 一郎太が同行を打診すると、彼は「ああ、太一のことか。おトヨさんが話しているのを耳に挟んだよ。なんでも、山で化け物を見たとか。俺でよければもちろん、力にならせてくれ」とすぐに快く承諾した。


 やはり噂が広まっていることに一郎太は少々驚いたが、頼りがいのある青年の姿に、これで幾ばくかは安心だろう、いざという時に武器になるようなかまやなんかも持っていこうなどと話し、三人は共に山に分け入ることとなった。

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