四. 日常、熱
太一の母〔トヨ〕
私は、次男の太一が事あるごとに畑仕事を抜け出して裏山に遊びに行っていたのは知っていた。
それが本人には息抜きになっているみたいで、もう小さい子ではないのだから、と分かっていても、つい甘やかしてしまう。
でも、あの日は一体どうしたのだろう?
真っ青な顔で逃げるように帰ってきて、玄関を開けるなり狭い部屋に飛び込んで。
それから、あの子は食事を満足に食べなくなった。確かに普段からたくさん食べているわけではないけれど、それにしても食欲がない。
粥を一杯食べただけで「もういい」だなんて……。
それに、今まて夜は皆で寝ていたのに、わざわざ1人で物置きに籠っているし、魘されている声が夜な夜な聞こえてくる。
私も、夫も、上の子も、皆どうすればいいのか分からなかった。
でも実は、夜にコッソリ様子を見に行ったことがある。
太一は眠りが浅いようで、私が戸を開けた音にピクリと反応した。一瞬起こしてしまったかとも思ったけれど、その後も動きはしなかった。
顔を覗き込むと、髪が汗で顔に張り付いており、はぁはぁと浅い呼吸をしていた。
そっと額に触れると、焼けるように熱い。続けて首筋や胸元にも手を添えてみるが、どくどくと脈打っている。けれど、その胴は額の熱さとは裏腹に冷たく強張っていた。
『何かの病かしら……?』
そう思うも、きっかけに思い当たるところはない。流行病がこんな山間にまでくるのも考えにくい。
翌朝夫にその太一の様子を話してみると、
「おトヨは、とにかくできることを、太一に上手い飯を食わせてやってくれ。外の仕事は俺たちがやるし、角のお巷さんにも何か手を貸してもらえないか声を掛けてみたらどうだ?」
と言われた。
家族だけで何とかしようと思っていたけれど、もしこれが病で、移るものだとしたら村中の問題になる。
「ありがとう、そうね、アンタ。お巷さんにも話してみるわ。年の功で何か知ってるかもしれないし」
あの子はきっと何か大きな動物を見たのだと思うけれど、怪我はなかったことだし、もしかしたらそこまで悲観する必要も無いのかもしれない。
こうして、私の頭の中で詰まりそうになっていたことが、少し開けてきた。




