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陰キャ非モテの契約結婚  作者: 舞波風季


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第21話 エピローグ

最終話です!

「うみのすけくん、かわいいーー!」


 今日は摩衣李の七歳の誕生日だ。

 摩衣李は生後四ヶ月の海之佑(うみのすけ)を抱っこして、すっかりお姉さん気分だ。


 俺と菊菜は摩衣李の誕生日にお呼ばれしてここにいる。俺達二人の息子、海之佑(うみのすけ)と共に――――



 二人の気持ちを確かめ合ったあの夜を境に、俺と菊菜は本当の恋人同士になれた。

 俺にとっては生まれて初めての本当の恋愛体験だ。


 俺と菊菜は会える時はほんの短い間でも会った。

 休みの日は二人で出かけることもあったが、摩衣李を連れて遊びに行くこともあった。


 俺はすぐにでも菊菜と結婚したかったが、あまり性急にして菊菜に引かれたら元も子もないとも思った。


(ここは焦らずじっくりいかなきゃダメだ、多分……)


 そして二ヶ月が経とうとした頃、俺はそろそろ我慢の限界が近い事を悟った。

 そして、菊菜にプロポーズをしようとした。


 すると、あろうことか、

「ちょ、ちょっと待って……」

 と、菊菜は俺を拒否したのだ!


「え……?」

 まさか、この期に及んで「いいお友達でいましょう」ルートとは……

 酷いではないか。

 婚約指輪も準備したのに。

 神も仏もいないのか。

 もう、俺は何も信じられない……


「あ、違うの……」

 文字通りがっくりと肩を落としている俺の腕に、菊菜はそっと手を触れて言った。

「……え」

 力なく答える俺。


「之々良さんとの結婚が嫌ということではないの」

「ほ、ほほ本当!?」

「うん」

「はぁーーよかったぁーー……」

 俺は急に力が抜けてその場で崩折(くずお)れそうになった。


「でもね、プロポーズは、その、ちょっと恥ずかしいかなって……ごめんなさい」

「いや、そんなことないよ、全然オーケー」

 俺は菊菜の気持ちを考えてなんとかその場を取り繕った。


 正直言って、プロポーズは俺にとっても大きなプレッシャーだ。

 でも、というかそれだからこそ、男を見せる大一番なのではないだろうかとも思うのだ。


(だとしたら、どうすればいいだろう……)

 俺はホッとした気持ち半分、拍子抜け半分で考えた。


 プロポーズとまではいかなくても、それなりに形は整えたいとは思う。

 そしてそれは菊菜の気持ちに沿う形である必要がある。


「なんか、ごめんなさい、面倒な事言って……」

 申し訳なさそうに菊菜が言う。

「いや、そんなことないよ、面倒だなんて……」

 と言ったところで、俺はふと思いついた。


(面倒……面倒、か……)


「之々良さん……?」

 急に黙り込んでしまった俺に菊菜が心配そうに声をかけた。

「あ、ごめんなさい、考え事してて」

 俺はそう言った後、今思いついたことを頭の中で整理した。


「緋之原さん、一緒に行ってもらいたい所があるんだけど、いい?」

「うん、いいけど……」

 と言う菊菜は少し心配そうだ。


「変な所じゃないから」

「変な所じゃないって、どこ?」

「当日のお楽しみ」

「全然楽しみじゃないんだけど」

 そんなやりとりをしてその日は別れた。


 そして当日。

「ここって……」

「うん、契約結婚相談所」

 しれっと答える俺。


 俺はあの時菊菜が言った「面倒」という言葉から、面倒といえば手続き、手続きといえば契約、契約といえば契約結婚と連想したのだ。

 そして、契約結婚の手続きの体裁ならば菊菜も抵抗なく俺のプロポーズを受けてくれるのではないかと思ったのだ。


 職員の女性に案内されて、俺と菊菜はお見合い会場ならぬ打ち合わせ室に案内された。


「それでは始めましょう」

 お互いに席に着いたのを確認して、俺はできるだけ事務的な態度を装って言った。

「はい」

 菊菜も真面目な顔で答えた。


「結婚の詳細は標準雛形の通りでいいですね?」

「はい」

「それでは特記事項の項目を決めましょう」

「はい」


(よし、ここからが大事なところだぞ!)

 俺は気合を入れた。


「何か特記事項に入れたい項目はありますか?」

「……すぐに思いつく事は、ありません」

「では、私から項目の提案があります」

「はい……」


 俺は小さく深呼吸をした。


「『お互いに隠し事はしないこと。どんなに些細なことでも話し合うこと。何か問題が起きた時は二人で力を合わせて解決すること』」

「…………」

「この三つを特記事項に入れたいと思います。依存はありますか?」

「ありません」


 菊菜が穏やかな笑顔で答えた。

 俺も菊菜に笑顔を返した。 


「それともう一つ」

 と、俺は芝居がかった仕草でポケットから一枚の紙片を取り出した。

「?」

 菊菜は意表を突かれたような表情をしている。


「これを付記事項として追加しますか?」

 俺は取り出した紙片をテーブルの上に置いて菊菜に見せた。

 それは俺が後生大事に取っておいた【性行為同意申請書】だ。


 菊菜はそれを見て目を大きくして驚いた。そして下を向いてクスッと笑った後、俺を優しい目で見て言った。


「ううん、いらない」


 その時俺は、天にも昇る気持ちというものを初めて味わった。


「それでは、これで私たちの結婚が決定したものとします。よろしいですか?」

 そう言って俺は、テーブル越しに婚約指輪の箱を菊菜に差し出した。

「はい」

 菊菜はそう言って、俺の手に自らの手を重ねた。


 これが俺の菊菜へのプロポーズになった――――



「うみのすけくんは、あたしのおとうと?」

 海之佑を抱っこしながら摩衣李が聞いた。

「うーーん弟じゃないなぁ、従兄弟(いとこ)か?いや再従兄弟(はとこ)……いやいや又従兄弟(またいとこ)か?」

「今度調べておくわね」

 俺が頭を抱えて考えてるそばで菊菜が答えた。


「あたし、おんなのこもほしいなーーいもうとのいとこ。ねえーーうみのすけくんもほしいよねーー?」

 摩衣李は海之佑の頬に自分の頬を当てながら言った。


「そうねえ、妹は無理だけど女の子の従姉妹なら」

 ユウノが意味ありげな顔で俺と菊菜を見て言った。


 摩衣李は、ユウノと鞍人の身体がアンドロイドで、普通の人間とは違うのだということを少しずつ理解し始めているようだ。


 菊菜が心持ち頬を染めて俺を見た。

 俺はそれをGOサインと受け取った。


「任せてください。頑張って摩衣李の従姉妹をたくさん作ります!」

 俺は何の迷いもなく皆の前で宣言した。


 その直後、

「グッ……!」

 俺の脇腹に鋭い一撃が入った。

 菊菜の肘打ちだ。

「もう……!」

 菊菜が顔を赤らめてそっぽを向いた。


「「はは……」」

 ユウノと鞍人がバツが悪そうに笑っている。


「きくなちゃんとうみちゃん、けんかしてるの?」

 摩衣李が心配そうに聞いてきた。

「ううん、喧嘩してないよ、摩衣李ちゃん」

 菊菜が素早く笑顔になって言った。

「よかったーーねーーうみのすけくん!」

「ぶぅーーーー」

 分かったのか分からないのか海之佑が摩衣李に答えた。


(こんな日が来るなんて思ってなかったな……)


 そもそも陰キャ非モテの俺は、結婚どころか恋愛すら諦めていた。

 それが、契約結婚という制度のおかげで結婚ができた。

 だが、それもつかの間、結婚相手の緋之原菊菜とはまともな夫婦関係を築くことができなかった。

 摩衣李という義理の娘ができたが、結局菊菜とは離婚することになってしまった。

 そして、別れた菊菜と再会し、色々ありながらも気持ちを通じ合わせることができ、二度目の結婚ができた。


 菊菜を見ると、まださっきのことを怒っているようだ。

 俺は恐る恐る菊菜の手に俺の手を重ねた。

 パシッと手を(はた)かれるかと覚悟したが、それはなかった。


(ごめん、調子に乗って)


 俺は心の中で菊菜に謝った。

 でも、それも許してほしい。何と言っても俺は三十八歳まで童貞だったのだから。

 その俺が初めての経験で授かった命が海之佑だ。


 俺はそっと胸に手を当てた。

 上着の内ポケットのパスケースの中に、一枚の紙片を入れてある。

 俺にとってはある意味お守りのようなものだ。


 それは、菊菜と結婚し最初に迎えた夜のこと。

 菊菜に笑われながらもサインを書いてもらったあの書類だ。


 そう、それは綺麗に折りたたんだ、俺と菊菜のサインが入った【性行為同意申請書】だ。


 これのおかげで海之佑が生まれてくれたと俺は思っている。

 俺にとっては卒業証書であると同時に幸福を届けてくれたまさにお守りだ。


 菊菜に海之佑を申請書ベビーと呼ぼうと言ったら引っ叩かれた。


(けど、ここ一番の時は書いたほうがいい気がする、験担(げんかつ)ぎで!)


 俺は摩衣李が待ち望む二人目の実現に向けて、密かに決意を固めたのだった。



           ―――おわり―――

読んでいただき、ありがとうございました!


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