第4話:玄界の海戦、鋼鉄の咆哮
艦橋に、眩いばかりの光が満ちた。激しい揺れの後、視界を覆っていた白煙が晴れると、高杉艦長の目に飛び込んできたのは、荒れ狂う玄界灘の鉛色の海原だった。
「現在地確認急げ!損害報告!各部、状況を伝えろ!」
高杉の静かだが確固たる声が響き渡る。計器類は正常な稼働を示していたが、クルーたちの顔には疲労の色が濃い。インド洋での不可解な空間転移から、彼らの意識はわずか数分前に覚醒したばかりだ。
「艦長!現在地、特定しました!日本の玄界灘、宗像市沖です!座標から判断するに、こちらは202X年9月…我々がいた時間軸と一致しています!」
航海士の報告に、艦橋に微かな動揺が走る。
「通信、どうだ!?周辺宙域の情報収集急げ!あらゆる電波を傍受し、インターネットにもアクセスを試みろ!」
高杉の指示に、通信士がキーボードを叩きまくる。ヤマトの超高性能情報収集システムは、瞬く間に膨大なデータを吸い上げ始めた。数秒後、通信士の顔から血の気が引いていく。
「艦長!信じられません……日本全土に壊滅的な地震と津波の被害!そして、九州は……九州は現在、北から侵攻した南北統一国家に占領されています!多数の民間人に対する虐殺行為も報告されています!」
高杉の表情に、かつてないほどの硬い光が宿った。彼は自らが守るべき「日本」が、この世界で地獄絵図と化していることを知った。脳裏をよぎるのは、故郷の家族や友人たちの安否。しかし、今は私情に囚われている場合ではない。ヤマトは、何らかの理由でこの世界に飛ばされてきた。ならば、この絶望的な状況を打破する義務がある。
「機関科、主機出力最大!戦速を上げろ!航空隊、ドローン全機発艦準備!」高杉は迷いなく命じた。「九州全域に展開、占領下の敵兵を掃討。生存者の確認と、可能な限りの救助を優先する!弾薬は惜しむな!」
ドローンは、ヤマトのVLSから次々と夜空に打ち上げられ、九州の夜の闇へと吸い込まれていった。艦橋の大型ディスプレイには、ドローンが捉える九州各地の惨状と、無慈悲に敵兵を殲滅していく様子が映し出される。リニアバルカン砲のミニチュア版が火を噴き、敵兵が次々と倒れていく様は、艦内のクルーに複雑な感情を抱かせた。彼らは、自分たちの「日本」を蹂躙する敵に対する、憤怒と復讐の念に駆られた。
しかし、戦端はそれだけでは終わらなかった。
「艦長!敵艦隊接近!多数の艦影!我が艦を包囲する勢いです!」
レーダーに、九州北部沿岸に展開していた敵艦隊がヤマトへと針路を向けているのが映し出された。敵はヤマトの正体を知らないながらも、空からの異常なドローン攻撃の発生源を突き止め、排除しようとしていた。
「よし。来るか……」高杉は静かに呟いた。「主砲、30mm12連装リニアバルカン砲、全4基スタンバイ!副砲、対艦対地滑空弾発射機、射撃準備!VLS、対艦ミサイル、対空ミサイル、同時発射シーケンス開始!」
艦内に戦闘配置の号令が響き渡る。ヤマトの巨体が、決戦の場へと針路を取った。核融合炉の轟音が艦底から響き、エレクトリックモーターが唸りを上げる。
玄界灘に、ヤマトの反撃の咆哮が木霊しようとしていた。