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第3話:玄界の白鯨、反撃の狼煙

福岡市は、もはや生者の街ではなかった。南海トラフ地震による瓦礫の山は、新たなる血の染みと無数の死体によって穢されていた。南北統一国家の兵士たちは、抵抗の意思をへし折るが如く、市民の虐殺を躊躇わなかった。天神の地下街には、逃げ惑う人々が獣のように追い詰められ、博多の港からは、積み上げられた遺体の悪臭が潮風に乗って街中に広がる。生き残った者は、ただ息を潜めて敵の目を逃れるか、絶望のあまり自ら命を絶つか。九州は、まさに生きたまま地獄の業火に焼かれる島と化し、自衛隊の散発的な抵抗も、焼け石に水だった。本州からの救援は途絶え、九州は完全に孤立し、見捨てられた。

その時、玄界灘の水平線に、再び常識を逸脱した現象が始まった。

鉛色の空が低く垂れ込め、荒れ狂う海面に、空間が歪むような異様な輝きが生まれ、白い亀裂が徐々に拡大していく。その亀裂の奥から、闇を吸い込むような巨大な影が滲み出てきた。稲妻が閃光を放ち、その一瞬、白く輝く、見たこともない形状の船体が夜の海を切り裂いた。

「艦影確認!しかし……これは、何だ!?」

敵の偵察艦から上がった報告は、混乱と恐怖に満ちていた。レーダーに捉えられたその巨大な存在は、数日前、南海トラフ地震の直後に日本の南沖で一瞬だけ姿を現し、嵐の幻影として消え去った、あの異形の船影そのものだった。あの時は、混乱の中で半信半疑に語られた「幻の艦」が、今、確かな実体を持って、血と絶叫に染まる九州の目前、玄界灘に現れたのだ。それは、防衛強化型超護衛艦ヤマト。

ヤマトは、玄界灘の荒波をものともせず、静かに、しかし圧倒的な存在感をもって進んでくる。その巨体から放たれる異質なオーラは、敵兵たちに本能的な恐怖を抱かせた。その艦橋から、艦長・高杉の冷徹な声が響き渡る。

「ドローン発艦、全機展開!目標、九州主要都市の敵占領部隊!掃討を開始せよ!」

ヤマトのVLSハッチが一斉に開き、無数の小型ミサイルが夜空へと打ち上げられた。しかし、それらは攻撃ミサイルではなかった。ミサイルの先端が分離し、そこから数千にも及ぶ小型ドローン群が、まるで飢えた猛禽の群れのように、福岡の空へと解き放たれたのだ。

ドローン群は、ヤマトの高度なAIと連携し、瞬く間に九州上空へと展開する。光学センサーと熱源センサーが、瓦礫の陰に潜む敵兵や、建物に立てこもる部隊を正確に捕捉。武装ドローンは、30mmリニアバルカン砲のミニチュア版とも言える小型機関砲や、精密誘導ミサイルで、次々と敵兵を無慈悲に、そして機械的に掃討し始めた。

市街地に響き渡るドローンの駆動音と、断続的な銃声、そして爆発音。それはもはや抵抗の音ではなく、一方的な虐殺だった。敵兵たちは、空からの見えない、そして逃れることのできない攻撃にパニックに陥り、阿鼻叫喚の声を上げて崩れ落ちていく。彼らの通信網はヤマトの電子戦ドローンによって完全に寸断され、組織的な反撃は一切不可能だった。

福岡の惨状は、血と炎の地獄から、今、血と鉄の殲滅戦場へと変貌しつつあった。ヤマトのドローン群は、夜明けまで休むことなく、九州各地の敵兵を徹底的に掃討し続ける。それは、絶望に沈む日本に、**「時のときはざま」**から現れた白鯨がもたらす、容赦なき反撃の狼煙だった。

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