第1話:白鯨と凍てつく海
202X年、**「時の間」**の日本は、我々の知る歴史とは異なる道を歩んでいた。ソビエト連邦は健在で、東西冷戦は終焉を見ず、国際社会は依然として緊張の糸を張り詰めている。アメリカは度重なる経済危機と国内の分断によりその覇権を弱体化させ、一方で中東情勢は常に世界の火薬庫として燻り続けていた。エネルギー資源を巡る大国の思惑が交錯する中、日本の生命線であるシーレーンの安定は、極めて喫緊の課題となっていた。
そんな緊迫した国際情勢の最前線で、防衛強化型超護衛艦ヤマトは活動していた。史実の沖縄特攻を免れ、戦後の「魔改造」を経て奇跡的に生き残ったその艦は、もはや日本の防衛の象徴であり、最強の盾であった。
ヤマトの艦体は、旧来の煙突を完全に撤去したことで得られた広大なスペースに、最新鋭の兵装が惜しみなく搭載されていた。主砲は30mm12連装リニアバルカン砲が艦前部に2基、艦後部に2基の計4基に増設され、その圧倒的な火力は敵艦隊を一瞬で塵と化す。副砲の連装対艦対地滑空弾発射機、光速で敵機を焼き払う連装レーザー対空火器も健在だ。そして、艦体の随所に配置されたVLS(垂直発射システム)には、長射程対空ミサイルから極超音速対艦ミサイル、精密対地巡航ミサイルまで、あらゆる脅威に対応する多種多様なミサイルが満載されている。さらに、偵察・攻撃・電子戦を担う多数のドローンと、ヘリコプター及び垂直離着陸機が各1機、常に発艦準備を整えていた。その全てを駆動するのは、艦内に安定したエネルギーを供給し続ける核融合発電と、静粛かつ強力なエレクトリックモーター駆動である。
物語は、ヤマトが数隻の大型タンカー群を護衛し、ペルシャ湾から日本へ向かう重要なシーレーンを航行している場面から始まる。
艦橋には、ヤマトの艦長である**高杉**とそのクルーたちが、慣れた様子で任務を遂行している。主計科では長期航海の献立に頭を悩ませ、機関科では核融合炉の安定稼働に目を光らせていた。彼らにとって、ソ連の潜水艦や中東のならず者国家による襲撃は日常茶飯事であり、ヤマトの圧倒的な防御力と攻撃力は、常に彼らの心の支えだった。
しかし、その日は違った。
インド洋の公海を航行中、突如として全艦を巻き込むような強烈な揺れがヤマトを襲う。それはまるで、巨大な何かが海底から突き上げてきたかのような、信じられないほどの衝撃だった。緊急警報が艦内に鳴り響き、クルーたちは訓練された動きで各部署に散っていく。レーダーには異常なノイズが満ち、通信も途絶。外部ディスプレイは、荒れ狂う波間に、あり得ないほどの巨大な光の柱が海中から立ち昇る光景を映し出していた。
「艦長!深度五千メートル級で、大規模なエネルギー反応を確認!これは……いったい!?」
通信士の叫びが響く中、ヤマトの船体全体が奇妙な共鳴を始める。それは、これまで経験したことのない、不穏な「時」の歪みを感じさせる振動だった。ヤマトのクルーたちは、自分たちの艦が、彼らが守るべき世界から切り離され、未知の**「間」**へと引きずり込まれつつあることに、まだ気づいていなかった。
光の柱が頂点に達した瞬間、ヤマトはタンカー群、そして彼らの知る世界から切り離され、白く輝く光の中に包み込まれていく。艦橋から見える景色は、瞬く間に光と闇の混じり合った混沌へと変貌し、クルーたちの誰もが、自分たちの身に何が起こっているのか理解できないまま、意識を失うのだった。