表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
59/67

58:支えてくれた手が、光を導いた。


不意に落とされたアリセアの言葉に、ユーグストの心がわずかに波打った。

アリセアは、ユーグストからの視線から逃げるように、つい、目を逸らしてしまった。


「アリセア……」

ユーグストは驚きに目を見張る。

アリセアのその言葉に、ユーグストは胸の内が温かくなるのを感じた。


(あの時。確かに彼女は……心を揺らしてくれたんだな)


ユーグストは彼女に気が付かれないように、そっと微笑んだ。




アリセアは、自然とユーグストに背を向けていた。


「フォートが出場するから応援すると、わたしが言ったから、きっと、言い出しにくかったんですよね……今なら分かります」


けど、何故だか寂しくて。


ユーグストが出場することが分かっていたなら、真っ先に応援の言葉をかけたかった。


そこまで考えてアリセアはふと我に返る。


(真っ先に応援って……え、それって、単なるわがままなのでは??……あ……私……)


それに、出場するかしないかなんて、彼からしたら報告する義務はない。


(こんなこと言って困らせるなんて、ユーグストに嫌われてしまうんじゃ……)


そこまで考えついて、アリセアの顔が真っ青になる。


その時だった。


「アリセア……こっち向いて」

ユーグストの手が肩に置かれて、びくりと身体を震わせた。

彼に促されるようにして見上げる。


「ご……ごめんなさい。変なこと言って……ユーグに報告の義務はないのに」

けれど、すぐにいたたまれなくなって、伏し目がちになる。



「いや、俺の方こそ、ごめん。黙っていたのは……今思えば拗ねていただけかもしれない」

「え?」



思わぬ言葉に視線をあわすと、彼は照れたように微笑していて。



「……本当は、アリセアに1番先に伝えて、応援してもらいたかった。……でも、言えなかった。……君が、フォートを応援すると聞いて……俺、格好悪いね」


「そんな、……ユーグは悪くないから……」


ドキッと胸が高鳴った。



(彼の一言が、こんなにも嬉しく感じるなんて……)


心がじんわりとほぐれていくのを感じた。



けれど。




突然ーー視界が揺れた。




「あっ、……」


胸の奥がぎゅっと脈打ち、足元に力が入らなくなり、


思わず、その場に座り込んだ。


「アリセア……!?」

頭上から、ユーグストの焦った声が聞こえる。


(まさか……また……!?)

アリセアの心に、不安がじわじわと広がっていく。


こみ上げる熱。

暴れ出す魔力の気配。


“魔力暴走”――それは、確かにあのときと同じ、嫌な予感だった。



確かに、昼間、魔法を使った。


(もしかして……このまま魔力暴走しちゃうの?)


髪の毛が、さらにプラチナ色に変わってきたのが視界に入る。


「っ、……これ」



ーーその時だった。


アリセアの髪の色に呼応するように、心の奥からふわりと広がる、懐かしく優しい温もり。


風に揺れる白い布。


田舎の草原を吹き抜けるような、柔らかな風。


見たことがないはずの景色。


『…………、』


誰かがーーでも、アリセアではない名前を呼んだ気がした。


現れては、すぐに遠ざかったその声に、なぜだか涙が出そうになる。


きゅうっと心臓がまるで掴まれたかのように。


(あの人のもとへ……帰りたい)


その温もりに、風景に、どこまでも惹かれていく。



あの人が……誰かなんて分からない。


……なのに。


(何……?この不思議な気持ちは)


それは、“今”のアリセアではなく、もっと深いところに眠る――なにかの記憶が疼く感覚だった。



それと同時に、不安と戸惑いも胸を締め付ける。



「アリセアの髪が……! 大丈夫か!?」


即座にユーグストも屈み、アリセアの顔色をうかがう。



(今のは……なに?)



けれど、今は気にする余裕もなくて。


「っ……身体が熱くなってきて……」


心臓を抑えるようにして俯くアリセア。


その頬は赤く。


息を乱し、汗をかいていた。


「また、魔力暴走か……!?」


低く、真剣な声。

アリセアの背をそっと支えるユーグストの顔には、強い不安と焦りが浮かんでいた。


「でも……いつもより……軽い気がするんです」


確かに、熱は体を包んでいる。

だけど、いつものように焼かれるような痛みはない。


息苦しさはあるものの、芯から破壊されるような感覚が、和らいでいるような……。


(どうして……?)


ポケットの中で、ふと、熱を帯びた感触。



震える手で取り出すと、水晶のブレスレットが、まばゆい白い光を放っていた。


黄色や透明だったはずのそれが、今は、希望の光のように。


「んっ、……これ……もしかして」


これのおかげ?



その時、ブレスレットから、ふわりと大地の香りが広がっていく。

地面にしっかりと根を張るような、静かな強さ、しかし、柔らかな脈動が伝わってくるようなーー


あの時の、エルリオの声が、蘇る。


『この水晶には、(いにしえ)の加護が宿っていると言われているんだ。困難の中でも、希望が芽吹くような運命をもたらす力がある』



「古の加護……?」

私の熱と痛みを……ひきとってくれている?


「……エルリオの? まさか……」

私の言いたいことが、ユーグストには伝わったらしく、息を呑む。



「アリセア、魔力調整するから、触れるよ」


ユーグストがアリセアの手を握ろうとした時、彼の腕をそっと抑えた。



「待ってください。ずっと、考えていたんです。っ、……自分で2つの……魔力の調整が……出来ないか……試してもいいですか?」


「けれど……今もアリセアは辛いだろう?」


眉を寄せて心配してくれるユーグストに、アリセアは笑って見せた。


額には汗がでて、息は乱れる。


けれど、今ならやれる気がした。


「ユーグがいてくれるから……きっと、大丈夫。……でも、もし一人でも、私は……乗り越えたい。皆から……勇気を貰ったから」



いつも本当は、日常の中でも、ふとした瞬間、恐怖を感じていた。



恐れて、考えないように距離を置いて……きっと無意識に、誰かに頼ることばかり考えていた。


でもそれじゃ、きっと本当の意味で“私”を取り戻せない。


(私が、私自身の力を受け入れない限り……)


今日のフォートの真っ直ぐな戦いぶり。


ユーグストの揺るがぬまなざし。


エルリオから受け取ったこのブレスレット。


皆がくれた……「大丈夫」の証なようで……。


それがどんなに勇気をくれたことだろう……。


心がふわりと軽くなり、強い気持ちが溢れてくる。



「んんっ……っ、」


身体から力が抜ける……身体が内側から焼ける……でも。


アリセアはゆっくりと、目を閉じた。


自分の魔力と、もうひとつの魔力に集中する。


「もう、くよくよ悩むのはやめたいの。前を……向くんです」


「アリセア……」


ユーグストが、彼女の苦痛を帯びた声に、そっと手を伸ばす。



魔力暴走は、最悪の場合……植物状態。


その言葉が頭をよぎる。


ーーしかし。


ぐっと、そのまま、震える拳を握る。


(どんな思いでその言葉を発したのだろう)


苦痛に震えながらも、気丈に振る舞うアリセア。


彼女の葛藤や強い想いに触れた気がして……。


ユーグストは深く息を吸って、吐いた。


「アリセアを信じる。 けれど、無理だと判断したら指輪を使う」


(俺が、彼女を信じなきゃ、誰が信じるんだ)



「はい……!」


ユーグストがそばに居てくれるだけで、アリセアは奮い立つことができる。


自分の魔力と、上乗せされた魔力が、相性が悪いのだと思っていたけれど。


もしかしたら……わたしが、無意識に怖がってるから、魔力暴走が起きる要因にもなっているのかもしれない。


ふーっと息を吐く。


大丈夫、大丈夫、大丈夫。



内なる魔力は、静かな泉のよう。


けれどそこに混ざる“もう一つの力”は、力強い大地の熱を孕んだマグマのようだった。



それがまるで、蛇のように暴れ狂っている。


相反する二つの魔力が、まるで、互いに拒絶しあうように波うつ。



けれど私は……両手を広げてその両方を包み込みたかった。


(お願い……おだやかに……一緒に、流れて)



「っ、……」



額から冷や汗が垂れる。


どのくらい、時間が経っただろうか。


いつの間にか、痛みや熱が徐々に引いてきて……。


「あっ、……」


「アリセア!!」


身体がふわりと傾き、力が抜ける。

ユーグストが即座に抱きとめた。


「……魔力暴走、おちついた……みたいです」

アリセアは、心配してくれていたであろうユーグに微笑んでみせた。


その言葉は、誇りと、安堵と、ほんの少しの涙を含んでいた。


自分で魔力暴走を納めたとはいえ、身体が酷くダルく。


(少しだけ……眠い)


「心臓がとまるかと思った……もう、無理はしないでくれ」


私よりもユーグの表情が、痛みを堪えている気がして、そっと頬に手を当てる。


「ふふっ、……すみません。……私、やれたんですね」

その手に、ユーグが自身の手を重ねる。


「あぁ、さすがアリセアだ。自力で魔力暴走を抑えてしまうなんて……」

ユーグストが、安堵した……その時だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ