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53:その手が選んだのは、勝利じゃなかった

50話挿絵いれてます


試合が終わった。

わあああと歓声が上がる。


ユーグストは剣を下ろし、息を整えながら、対峙していた相手――フォートに視線を向ける。


そのフォートの肩もまた、大きく上下しながら、まるで何かを堪えるように震えていた。


先程の、戦いの最中、走りながら詠唱していた彼が、気を取られたことに気がつき、その隙を狙ったのだが。


ユーグストには分かった。


彼は俺の攻撃を読んでいた。


それでも、何かに手を伸ばし、守ろうとしていた。


まるで、反撃することを諦めたかのように。


彼がアリセアに向ける気持ちは本物だった。


だが、その戦いを蹴ってまで、何を守りたかったのか。





それにしても。


「フォート、本調子じゃないな」



ユーグストの言葉に、フォートがふいっと視線を逸らす。



「だったらなんだ」



いつもの敬語が完全に崩れたフォートの憎まれ口。


ユーグストは眉を寄せた。


(これが、本調子なら……この、戦いはどうなっていたのか)


様々な名のある指導者と手合わせしてきた身の己だが、フォートはその中でも抜きん出ている。


鋭い洞察と魔法の応酬。

どれほどの高位詠唱でも、走りながら、躊躇なく詠み上げてみせるその姿。


とにかく瞬時の判断が早く、また、魔法行使速度が並外れていた。


柔軟な思考力もあり、また、それを実現させる力もあることから隙をまったく見せなかった。


けれど……ユーグストは戦いの中で彼の異変に気がついていた。


最初はコンマ1秒の遅れ。


それが、時間が経つにつれて伸びてくる。


疲れとも違う。何か。


額に汗を浮かべ、歯を食いしばりながらも、なお食らいつく彼の姿に、ユーグストは深い畏敬の念を覚えた。


彼の燃えるような闘志を、ユーグストもまた、感じ取っていた。


ふと、彼が飴玉の包み紙を、持っているのに気がつく。




無意識だろうか、ぼうっとしながら、彼はそれを指で弄っていて。


一瞬、その包み紙から顔を覗かせた透明な飴玉が、キラリと輝いた気がした。


それを見た瞬間、フォートの瞳にかすかな動揺が走った気がした。


彼はその包み紙を見つめながら、小さく溜息を吐いて、大切そうにポケットにそっとしまう。


まさか、試合中、空中で拾ったのは、飛び出た飴玉……?


(いや、そんなハズない。アリセアより飴玉なんてーー)


「いい試合だったよ、フォート」



フォートの、アリセアに対しての態度は思うところがたしかにある。




あの日、フォートに。




「アリセアを守れないなら、俺がもらう」




そう言われた時の激情は、まだ、心の奥に燻っている。


それでも、今日の戦いを経て思う。


フォートの想いが真剣であることも、


実力が本物であることも、否応なしに伝わってきたのだ。



(フォートの……この強さ。簡単に断ち切れる想いじゃないな)


それに、この彼の強さ……やはり。




この戦いは、ユーグストにとっても、彼にとっても負けられない戦いだった。


それでも、今日この日の最善の実力は、お互いに出せたはず。





****


「あぁ……戦えて……良かった」

フォートは、1度深く瞑目し、溜息を吐き、立ち上がった。

歓声の中にあっても、フォートの瞳はどこか遠くを見つめていた。



(アリセアがお守り石を軽い気持ちでくれたとしても......俺にとっては大事なものだった)


試合中、服から飛び出た"飴玉”

それを見た瞬間、もう何も考えれなくなった。



飴玉がアリセアと重なって見えた。


無垢で、儚くて、ほんの少しの衝撃で――壊れてしまうような。



そう思った瞬間、詠唱のことなど頭から抜けて、咄嗟に手を伸ばしていた。



攻撃が来ると分かっていても。


それでも、守りたかった。


今回は負けた。


だが――


アリセアへの想いは、決して負けていなかった。



フォートは、静かに笑みを浮かべた。

「……俺って、諦め悪かったんだな」




*******



「フォート!ユーグスト殿下!良い試合だった!」


明るく声を上げたのは教員のひとりだった。


ユーグストはその声に振り返る。


続けて数人の教師たちが駆け寄り、ふたりを労うように声をかけた。



「先生たち……いつの間に」

フォートが少し気まずそうに笑い、ユーグストもつられて苦笑を返す。


その時だった。


――空気が変わる。


まるで、そこだけ時間の流れが違うかのように。


人混みの中、ひときわゆっくりと歩み寄る姿があった。


白髪を整えた、気品ある老人。


ユーグストは、思わずその場で背筋を正す。




「……学園長」




ユーグストの前に、学園長が立ち止まった。


「お疲れ様、実に、良い試合だった」


柔らかな皺を刻んだ顔に、穏やかな笑みが浮かんでいた。


その笑顔に、不思議と心が落ち着いていく。


「ありがとうございます」


労いの言葉に、ユーグストも微笑する。


その顔を見て、学園長はふっと含みある微笑をした。


「今回の対抗戦は、気に入って貰えたかね」


「......え?」


「ふふっ、開催したかいがあったね。......今日はゆっくりと休むといい」


そのまま、何かを語ることもなく背を向け、歩き去っていく。


残されたユーグストは、その背を見つめながら――

胸の奥に、微かなざわめきを感じていた。



(まさか......)


偶然かと思われたこの試合。



(……仕組まれていた?)



ユーグストは、ちらりと彼を見ると、フォートは、まだ教師と話しをしているところだった。


(学園長は......どこまで知っているのか)



じっとそのままフォートを見ていると。



彼はそっとアリセアの方に顔を向けた。



一瞬、切なげな表情を浮かべる。



まるで、届いてほしいのに届かない願いのように。


ふわりと口は微笑むも、すぐに閉じ。


フォートの顔に、一瞬、陰りが見えた気がした。



その後、静かに選手集合場所へと歩み去った。



「……君でも、そんな顔するんだな」





しばらくそのまま瞑目し、心をおちつける。


言葉では届かない想いが、あの瞬間、たしかに交差した。


彼の強さと真っ直ぐな気持ちが、胸に染み込んでくるようで――


けれど、きっと俺の想いも届いている。


そう信じている。



そっと視線を向けると、アリセアと目が合った。


柔らかな風に髪をなびかせ、

彼女は涙を浮かべながらも、穏やかな微笑みをたたえていた。


そうして、胸ポケットから取り出したハンカチを掲げる。



彼女は優しく笑って手を振ってくれた。


笑ってくれた彼女が、今はただ愛おしかった。




―終わりを知らぬ愛を、願ったー

―始まりを信じて、手を伸ばしたー

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