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~記憶喪失の私と魔法学園の君~甘やかしてくるのはあの方です  作者: ヒカリノサキヘ
それを恋という
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㊻アリセアの試練


魔法壁に手を当てたアリセアが、一瞬沈黙する。

静かに詠唱を、唱え始め……そっと自分の魔力を込めた。


魔力を扱うことーー心の奥で小さな波紋が広がる。

また暴走の嵐が訪れるのではないかと、冷たい恐怖が胸を締めつけた。

けれど、私の傍にはユーグスト殿下もいて、ヤールもいる。

それに、私も自分に負けたくない。

やるなら……いまだ。


「すごい……」

ヤールが無意識に呟く。


それは彼女らしい、繊細な展開だった。

難しくも、きめ細やかに、魔力を調整して、魔法力として変換し、放出する。

まるで針に糸を通すような……ふんわりとしたレースのような魔法力。


アリセアは、魔法壁全体に、指の代わりに魔法力で触れた。



「アリセア……体調は大丈夫か?」



ユーグストが、背後から心配そうに、そっと声をかけた。

「大丈夫……やれます」


今度は消えずに次々に浮かぶ古代文字……。


ユーグストやヤールは、初代学園長がかけたこの結界の凄さに、目を見張る。


アリセアも、浮かび上がった文字を見つめて言葉を失った。


古代文字が、まるでパズルのようにバラバラに表示されている。 ……どこかに規則性を見つけなければいけない。


だけど……。


不思議と解読方法のコツを、身体が覚えている。


アリセアは、目の前の単語に集中した。


「試練を、……」


それは今は失われた言葉で書かれていた……。



「太陽が……みちる時……試練を、与えんとす」


アリセアがそう解読した刹那ーー。


「きゃあっ」



眩い光が、アリセアを包み込んだ。



「アリセア?!」



ユーグストの叫びが聞こえて……一瞬で意識を失った。







ーーーーー夢と現実の狭間







「え……ここ、は?」

アリセアが気がつくと、そこは真っ白な世界だった。



自分の声が反響する……まるでホールのような空間。


「さっきまで……私、地下にいたはずなのに」


周りを見渡しても誰もいない、何も無いーーはずだった。


「お姉さん……あなたは、誰……?」

その声が聞こえるまでは。




「え?!」


アリセアが驚きながら振り向いた。


そこに立っていたのは、水色の髪を腰までたなびかせた、白いワンピース姿の少女。


年の頃は……12歳くらいだろうか。


氷のような煌めきがある……そんな瞳。


「あ……私はアリセアよ」


少女の問いかけに、一瞬の間を置いて、アリセアはなんとか声を絞り出した


これってもしかしてーー。


魔法壁に記載されていた……『試練?』


アリセアの手が緊張で少し震えたが、意識して息を吐く。

不思議と時間の感覚がないような、この場所に奇妙な感じを覚えた。


「私……悪いことしちゃったの」

ポツリと呟かれたその言葉は、アリセアの心に響いた。


「え?……」


「だから、……ここにとじこめられてしまって」


伏し目がちのその瞳は、切なそうに揺れる。


「ここに?……寂しくないの」


「うん……寂しい。外に出たくて……たまらない。けれど」


そう言って少女はそっと顔を上げた。


「あの人が決めたことだから」


「あの人って、どこにいるの?」


その瞬間、少女の背後に、いくつもの小さな鏡が現れ、ゆっくりと周った。


「えっ……!?」


驚きに目を見張っている間に、


それぞれに、映像が映し出された。


ひとつは……赤ちゃんが泣いているところ。


もうひとつは8歳くらいの少年が走り回っているところ。


そして、アリセアと同じくらいになった青年が魔法の練習をしているところ。


さらに……大人になった男性が、目の前の少女と笑いながら鏡に映っているところ。


他にも、いくつもの鏡に、同時に動く映像が、映し出されていた。


……見ていて、なぜだか。


ぎゅっと、心が引き裂かれるような思いに駆られる。


相手の顔はなぜだかぼやけたように映っているのに、そこには確かに幸せな時間が流れているのが分かる。


まさかこれって……。


「これ……貴方の過去の記憶?」


「そうだよ。ほら……こっち」


少女がすっと右手の人差し指で、あるひとつの鏡をさす。


「氷で、作られた……像?」


それを認めた時。


急に、自身が居た、あの白い空間が、外の風景に切り替わる。



足元は……土の上ーーまるで私もここにいるかのように、靴を動かすとジャリっと音が鳴る。



昔の……学園?



今と、木々の様子も校舎の外壁も……少しずつ違う。



目の前にある風景は、おそらくーー昔の学園の校庭だ。


アリセアがいる目の前に……巨大な、塔のように氷で形作られた像が作り出されていた。


「ねぇ、これって」



彼女が振り向いて、先程の少女に話しかけようとしたら。


どこを見渡してもそこには少女はおらず。


少女の姿が消えたことに気づいた瞬間。



空気が変わった。


冷たさじゃない。


もっと、重く……圧し掛かってくるような――。



視界の端で、何かが揺れた。


風もないのに。


振り向くと、そこに、青年がいた。



「あ……あなた」


青い髪の男性……どこかで?


アリセアは言葉につまった。


既視感ーー。


どこでだったか……。


「あの子は……ただ、喜ばせようとしただけなんです」



「え?」



あの子って……。






もしかして先程の少女のことだろうか。







「私が焦ったばかりに……」





「貴方は一体……」






「これは借り物の姿ですので……私の本来の姿はとてもじゃないが……恥ずかしくてお見せすることはできません」




胸に手を当て、眉を寄せ切ない声で彼は語る。


「あの子は……私にとって大切なーー」


彼がそう言って私を見た瞬間。





『危ない!!!』





私たち以外の、誰かの声が鳴り響く。




どこからから、軋む音が聞こえた。



アリセアが、見上げた時にはもう……。



氷の像が揺れ動きーー。



目の前に雪の像がゆっくりと落下してきた。


倒壊するーーー!!


「きゃああぁっ」


ーーーーーーー


「いやっ……!」


「アリセア!!」

身体がびくりと跳ねると同時に、心臓の鼓動が早くなる。

気がつけばアリセアはユーグストに覗き込まれていた。


彼の腕の中に抱えられて、私は涙を流していてーー。


「え……?」

現実に……帰って、きたの?

周りを見渡すと、先程までいた入口前の広場だった。


「アリセア、大丈夫か!?」

「アリセア様!」


「はっ……っ、ゆー、ユーグ。怖かった……!」

身体全体でぎゅっと彼の胸にしがみつく。

まだ、手が震えてる。


「一体何があったんだ」

アリセアを抱きしめるようにして抱えなおし、ユーグストは落ち着かせようと背中を撫でる。


「っ……あ、」

体の震えが止まらないけれど、徐々に冷静になってくるのが分かる。


「話すのはゆっくりでいい……ひとまずここから出ようか?」


「だ、……大丈夫です」

なんとか首を振る。

せっかくここまできたのだ。



「君が倒れてから、まだ5分も経っていないと思う」


「……私の身体は……ここにありました?」


「あぁ。少しだけうなされていて……様子を見ていたんだが……」


「多分、意識だけ、別の空間に、引っ張られたと思うんです」


しばらくして、やっと落ち着いてきたアリセアは、2人に今まであったことを、ポツポツと語る。


「まさか……」

ユーグはアリセアの経験に言葉を失った。


「怖かっただろう」


そっと涙のあとを拭われ、ユーグはアリセアを抱えたまま立ち上がる。


「あっ……ユーグ、自分で立てます」

「せめて落ち着くまでこうしているよ」


「アリセア様……よく頑張られました。……ですが、ミクリヤ球の部屋に入るだけで、これほどの試練が与えられるものなのでしょうか」



ヤールは訝しげにポツリと呟く。


「……この学園の生活エネルギーを支えているのが、圧縮された魔力核――いわゆる“ミクリヤ球”だ。悪用されれば、学園全体が吹き飛ぶくらいの力を持っている」



「ふ、……吹き飛ぶ」

アリセアはそれを聞いて怖くなる。


「けれど、おそらく通常は試練と言っても、こんなに恐怖を感じることはないだろう。学園長も、人によると言っていたが、そんなに深刻な表情ではなかった」



「……では、アリセア様の今回の件は……」


「うん。すごく珍しい事例だと思う。もしかしたら……誰かの記憶を追体験したのかもしれない」


「試練か……」

ヤールは真剣な表情になる。


「今回のアリセア嬢の魔力のことと言い、試練の内容は繋がっている可能性が……ある?」

ヤールの言葉に、ユーグストはゆっくりと頷く。


「そうだね。そして、相手によって試練は変わる可能性がある。……頭に入れておこう。ーーアリセア」

ユーグストはふわりとした笑顔でアリセアを見る。


「は。はい」

「君が頑張ったおかげでーー魔法壁が解除された」

「あ……」


ユーグに促され、目線をそちらに移すと。


先程の白い魔法壁は跡形もなくなっていて……。


果たして……地下の広い空間が現れた。



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