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~記憶喪失の私と魔法学園の君~甘やかしてくるのはあの方です  作者: ヒカリノサキヘ
それぞれの想い
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㉟強制送還

その日、フォートに、ふと脳裏に蘇る声があった。


『そろそろヤツを見つけよ。……あれがおらぬと均衡が崩れる』

(……またか。あの声は、時々ふいに俺の中に現れる)


あれは、1週間前。



アリセアの介抱をして、医務室から出てユーグスト殿下と対峙したあとの事だった。


俺がそのまま1階の回廊を歩いていた時。




「うわっ……!」




不意に、一陣の強い風が吹く。



「っ……これは!」



フォートはこれがただの風ではないと、瞬時にわかった。


周囲の木々の葉が、擦れる音が鳴りひびく。



風の強さに思わず目を閉じ、次に開けた目を瞬間。


そこは見慣れた“場所”だった。


荘厳な柱、祈りの場のような静かな空気。




目の前に立つのは、白銀の髪を持つ男。


威厳と神秘をまとい、無言のまま視線だけを向けてくる。



「……まじかよ」



無意識に、背筋が伸びていた。





生まれ育った故郷に、

フォートは、強制的に連れてこられたのだとそこで知った。





(……強制、送還かよ)






「いつまで遊んでいる。お前には任を与えたであろう」



そんなフォートに、男は当たり前のように話しかける。



目の前に佇むのは、白いローブ姿の浮世離れしている男性だ。


男性の髪は白銀で、その表情は強い意志を持つ瞳。


それに加え、神聖で厳かな雰囲気を持つ。


周りの調度品の美しさの数々にも、フォートはいつものように、圧倒される。


苦く笑いながらも、フォートは頭を垂れる……。







「……お久しぶりです





ーー精霊王」







「お前が戯れているから、忠臣どもが……

まったく、老骨に耳鳴りが絶えんわ」


低く、けれどその声は、頭に直接響くような、不思議な感覚だった。


「それは……、申し訳ありません」



「お前に任せたのは、忠臣を納得させる為でもある。


私の命さえこなせないなら、……お前を、


このーー精霊界の理から、逸脱させることになろうな」




「っ……それだけは」




(……嫌だ)



胸がぎゅっと痛んだ。




そんな結末は、……考えたくもなかった。


この理から外れたら……もう二度と、



大切な人を追うことも、ーー触れることも出来なくなる。






あの日の、


花束を貰って喜ぶ大切な彼女が……脳裏に蘇った。




そんな思考を遮られるように……。





「だがしかし、お前が何故、遊んでいたのかは……

ふっ、知るところではあるが」

そう言われ。


「……っ、……知ってたのですか」


フォートは顔を上げ、驚きに目を見張る。




「ワシを誰だと思っている。」




彼は目を細め、微笑んだ……。



一瞬、優しさが滲むも、フォートは気が付かない。



それは、全てを見通しているかのような眼差しでーー。






「お前を精霊界に"迎えいれた”者だ」






その言葉が、やけに頭の中にハッキリと響く。


そう言って精霊王は杖をかざす。


その杖の軌跡が流星のようにひかり輝き。



「この先、何があろうとも……お前に、光あれ」




その祈りのような言葉が、フォートの耳に届く前に――


意識は、闇に落ちた。




――次に目覚めたのは、見慣れた天井だった。


「……いてっ」


いつもの寮のベッドの上。


無造作に転がされたような姿勢。




「……帰されんのかよ、また強引に」


文句を漏らしつつも、心のどこかでほっとしていた。


精霊王……。


彼の言葉は……絶対だ。



その、精霊王の声が頭に残っていた。





『理に背く者として理から外す。』






それはつまり、「精霊界としての在り方を捨て、人として生きよ」ということ。


一度限りの命。

記憶も、想いさえも風に散り、来世ではもう、彼女の姿を追うことさえできない。



(……一度きりか)


フォートは、初めて、自分の“終わり”を意識した。




けれど。

ふと顔を上げ、机の上の魔道具型の時計をみる。


「くそ……1週間も経ってるのかよ」


日付を見て、思わず天井を仰ぐ。


長いため息が漏れた。


アリセアと、あんな別れ方しておいて。


また忽然と消えたことになるなんて。



しかし、彼がすぐに帰してくれただけ、有難いと思おう。


これが年単位ならゾッとしたところだ。


「あーぁ。一体何してんだか、俺は」


彼女を守る。


その覚悟はあるのに。


こうして少し揺さぶられるだけで過去に引きずられてしまう。


窓の外は、暗く、激しい雨だ。


「まるで……俺の心みたいだな」

※㉝

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