㉕身体中が熱くてたまらない
「今日も、よろしくね、フォート」
「……あぁ」
あれ以来、私たちはぎこちないままだ。
けれど、魔法演習では同じチーム、ペアになることも多く、話さざるを得ない場面が続いている。
……なのに、まだ聞けていない。
どうして、あんなことをしたのか。
フォートの表情を見ていると、タイミングを逃してしまう。
問い詰めるには、あまりにも遠い目をしていて。
「アリセア、この前も言おうと思ってたんだけどさ、髪の色大分変わったね」
ふいに、彼が髪を見つめながら言った。
その声音は、以前の柔らかさを少しだけ思い出させて、胸の奥がきゅっと締めつけられる。
本日の魔法演習は、学園の敷地の外。
裏山に場所を移しての郊外演習だ。
深い森が続く広大な木々に、生徒たちは2人1組で魔物を狩る訓練を行っていた。
魔物と言っても現代には非常に数が少なくなっており、普段は人々の生活を脅かす存在ではなくなっている。
いたとしても、近隣の国との境にある、最奥の山々で。
普通に生活をしていたら、まず遭遇はしないものの、危険な存在であるのは確かなので、この国の教育プログラムに組み込まれていた。
しかし、今回の魔物は、先生方が作った教材用の幻影であるが、魔物と同じような攻撃を繰り出してくる。
攻撃が当たっても、衝撃は伝わるが、血が出るような大きな怪我は起きない。
1人は後方で待機、周辺を索敵。
もう1人は主に攻撃を、担当する。
トリバス学園は、元々は魔物退治に特化した学園だったと聞く。長い歴史を経て、科が増えて、今の学園となって行った。
アリセアは、フォートから髪の色の指摘を受けて頷く。
ここは誤魔化さず、真実のみ話そう。
「私も不思議なの。どんどん自然に変わってきてしまって」
困った表情になってしまったのは演技ではない。
初めは毛先3センチ、今は6センチ程の毛先がプラチナになって来ている。
ユーグスト殿下の髪色に憧れはあって、1度染めてみたいなとは思っていたのだけど。
このままでは全部の髪がプラチナになりそうだ。
ユーグとも話していたのだが、おそらく私の身体に、違う人の魔力が入ったことによる変化ではないか。
そう、話していたところではある。
それを、そのままフォートに伝えるわけにもいかず。
アリセアの答えに、ふーんとフォートは気のない返事をした。
まただ。
最近、目を合わせてくれなくなった気がする。
話す時も、そらされている気がしてならない。
私と殿下が話してると、ふいっといなくなる。
こうなってしまったのは仕方ない、だけど。
あれ。私……。
なんだか、傷ついてる?
心が、じくじくと痛い。
クラスメイト達もバラバラになり、私とフォートは2人で探索をする。
演習終了まで残り1時間。
あちこちに先生が監視の目をつけてくれているとはいえ、やはり緊張感のある演習である。
膝丈まである草木、枯葉で多い茂る大地に対応する為、今日はロングブーツの出で立ちである。
「アリセア、前方攻撃」
フォートの低い声に、
「わっ」
何も考える暇もなく詠唱し、風魔法を放つ。
私の手の平の先の小さな魔法陣から、風が勢いよく飛び出て、飛び出た先で、音が鳴り響く。
前方に、一瞬蜃気楼のように空気が歪み、隠れていた魔物が正体を表した。
大きなイノシシの姿だ。
「え?」
アリセアは、イノシシ型の魔物に驚いたのではない。
自分の魔法の威力に驚いたのだ。
いきなりの事に呆然としたアリセアは、思わず自分の手を見る。
あれ?
「アリセア!今は集中しろ!」
フォートからの鋭い声に、ハッと我に返る。
風魔法で獣型の魔物を切り刻み、倒すことに成功した。
倒された魔物は、黒い霧となって消えた。
「やったな!」
不敵に笑うその笑みは、いつものそれで。
「フォートのおかげね!探索が本当に得意ね」
アリセアは、以前の関係に戻れた気がして、嬉しくなる。
それにしても、さっきの威力。
復帰してから、魔法演習を何度もこなしてきたので、身体がやっと慣れてきたのかな?
「今度はアリセアが後方で索敵を頼む」
「任せて」
これなら何体も倒せるかもしれない。
今まではフォートに助けてもらってばかりの私だったけど、少しは恩返しが出来るかもしれない。
意気込みを見せようと、精神を集中させる。
体内の魔力を各神経に巡らせ、アリセアは瞳を閉じた。
敵がどの方向に、何体隠れているのか、索敵を、使えば分かるのだが、かなりの集中力がいる。
いた!
「上空、右斜め上!一体」
「りょーかい!」
フォートは手のひらをその上空へと向けた。
『ネフィアの精霊よ、その清き聖水を集え……』
彼の詠唱が、言い終わらないうちに、手の上に、展開された魔法陣が、光り出す。
大きな衝撃波とともに、水が勢いよく吹き出してきた。
「すごい……」
アリセアは思わず見とれる。
発動の早さ、威力、精度――すべてが群を抜いている。
少しでも、追いつきたい。
少しでも、恩返しがしたい。
何度私も演習で助けられたか分からない。
空からパラパラと、小さな水滴が落ちてくると共に、飛行タイプの羽を持つ魔物が、グシャッと音を立てて落ちてきた。
そして、ゆらりと姿がぶれて、霧となって消失する。
1度でトドメをさせるのも、フォートの強みである。
「姿隠してたのに、一発で当てるなんて凄いわね」
「アリセア、褒めすぎ」
口元に浮かぶ微笑みは、照れ隠しのようで……私も、つられて笑った。
それから何体かの魔物を倒して、残り15分の時のことだった。
2人で学園の方に向かって歩いていた時。
ドクン。
……あ。
心臓の鼓動が早くなる。
身体が熱い。
内なる魔力が暴れ出すのが分かった。
魔力が、暴れてる……?
あのときと、同じ反応……。
魔力の暴走だ。
ユーグが言っていた。
たぶん、私はあのとき、魔力の拒絶反応を起こしていたのだと。
そして、調整してもらったから、もうしばらくは安定すると思っていたのに……。
なのに、こんなに早く……また……。
「……ッ、は……っ」
全身から血の気が引いて、膝が崩れそうになる。
魔力の相性が悪いと、まれに拒絶反応を引き起こすことがある。
こんな所で倒れてしまっては、皆に迷惑をかけてしまう。
でも、凄く苦しい。
体の中が焼け落ちそう。
誰か……ユーグ。助けて。
「っ、……、あっ、」
体から力が抜け、ガクンと膝から崩れ落ちる。
薄れゆく意識の中、最後に見たのはフォートの驚いた表情だった。
夜更新予定です。




