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~記憶喪失の私と魔法学園の君~甘やかしてくるのはあの方です  作者: ヒカリノサキヘ
この手に触れてしまったら
23/67

㉒それだけ魅力的だから

季節は6月。


私たちは昼間に、トリバス学園を探索してみる事にした。


あれから、顔を見る度に、私が真っ赤になってしまうのを見て、ユーグストはからかうような笑みをしてきて。

なんだか、距離が一気に縮まった気がして、ドキドキが強くなる。



でも、今はとにかく集中しないと。


「アリセア、こっちに行ってみよう」



ユーグの声に、私は導かれるように歩き出した。


今日は動きやすい黒色のショートブーツに履き替え、長い髪を、ポニーテールにしてみた。


魔法塔から図書館への道のりは、意外と距離は近い。


歩いて5分もかからない、と思う。

あの時思い出した記憶の中で、何かの気配がした塔の周辺エリアは、今は特に異変もない。



「今日は、むしろ爽やかな風がふいてます」

「そうだね、心地よいくらいだ」



気持ちの良い風が吹き、小鳥が木々の上で歌う。

倒れていた場所の回廊の周辺も異常なし。



「特に異常はない……かな」

ユーグが周りを見渡しながら呟いた。



「振り回してごめんなさい、ユーグ」

せっかくのお昼休みを探索に費やして、申し訳ない気持ちに支配される。



だが……。



「アリセアとこんなに学園内を歩くこと自体、あまりないから、"俺は”実はデートのつもりで来ているよ。だから、気にしなくていい」


「……えぇっ?!」



自分でも知らずしらずのうちに、今回の件を思い悩んでいた。


だけど、そのユーグの意外な言葉に、肩の力がすーっと抜けていくのを感じて。


きっとユーグは、"大丈夫だ”って、私を励ましてくれているのだろう。



彼の温かい笑顔と優しい気遣いに、アリセアは感謝した。

ユーグが婚約者で良かった。


次に向かった先は、小川。



魔法塔から出て南東の位置には、小いさな川が流れており、花々がその両岸を彩っていた。



その小さな川には可愛らしい古い石畳のアーチ状の橋がかかっていて、その場所から小さな魚が泳いでいるのが見える。


川が澄んでいて美しい為、この周辺を、憩いの場として、昼間も過ごす生徒が、ちらほらいた。



川辺の景色を、写生してる人もいるのね。

……あ!


「可愛い」


アリセアが、橋から少し身を乗り出してカラフルな小魚を見ていると、ユーグが淡く微笑む。


「ほんとだ、可愛い」


まただ。


「……うぅ」


ユーグは魚を見ておらず、私をまっすぐ見つめて言ってた。


ユーグの言葉に対しては、素直な反応を表現したいとは常々おもっていたのだが、やはり限度というものがある。


私に記憶が多少戻ったからか、この前のキス……の事があったからか、ユーグは私に対して遠慮がなくなってきたようにも思える。


今までは自分のことを、"私”とよんでいたユーグだったけれど、

会話をしている中で、たまに出る俺、に、ドキッとする。


気を許してくれたのかもしれないと、アリセアは内心で嬉しく思っていたのだけど。


それと同時に、殿下もやっぱり男性なのだと実感して、ドキドキしてしまう。


ユーグストは、こういう甘い言葉を、自然に惜しみなく捧げてくるようになった。


むしろ、今まで記憶をなくした私に遠慮していた反動なのか、おそらくだけど、さらにパワーアップしている節があるのではないだろうか。


今はいないけど、先程居たヤールが、私たちの会話を聞いてこっそり笑うくらいだものね。


ユーグストは何度私を赤面させてくるのか。

はっきり言って心臓が持たない。



「つ、次行ってみませんか?」

「あぁ」


誤魔化すように、ユーグの背中を押して次の場所へと移動する。

だけど、またしても笑ってるのバレバレですからね!


川の近くの塔を起点とすると、東側に図書館と貴族校舎がある。

その奥は魔法演習施設。


初日にアリセアが魔法演習を行った施設である。

塔から見て西側には平民用第2校舎もある。


貴族校舎正面前は例の芝生のある噴水広場があるものの。

今はあの事件のせいで噴水の水はとめられていた。




そしてさらに翌日。

今度は放課後の学園。


同じように髪を後ろの高い位置にまとめたが、今回は両サイドから編み込みも加えてみた。


今度は茶色のリボンで髪を彩る。


昨日、ユーグにデートのつもりで来ているという言葉を意識した訳では無い。

……決して。

なんて言いつつも、今日もまた、可愛い動きやすい、色違いの茶色のショートブーツを履いてきた。

やっぱり意識しちゃってるよね?




「アリセア、疲れてない?」

「大丈夫です!」

連日色々動いてるので、疲れを心配してくれるユーグに、私は問題ないと笑って見せた。

心配掛けないように、むしろ体力をつけておかなければならない。


塔から北方面には騎士科の演習施設と広場がある。

厩も左手にあり、アリセア達が近くを通ると、馬が嘶く鳴き声がした。


騎士科の前を通るときは、なんだか魔法科とは違う熱気を感じる。

男性主体の騎士科だからかな?


女性もいるけど数が圧倒的に少ない。

また違った雰囲気なのだ。


通り過ぎる生徒は、魔法科生徒よりも体格が良い人が多い気がする。

ちらっと隣にいるユーグを見やる。


アリセアでも、制服の上から彼の引き締まった体格がみてとれた。


「ここは来たことないです」

「用があるときは、いつも"私”がアリセアの教室に行くからね」

「そうですね」



ソワソワするような、少し浮き立つ気持ちが湧き上がる。

騎士科に所属しているユーグストは、やはりここでも人気なのか、騎士科の生徒たちがちらちらとこちらを見てきた。

さすが殿下。



人気の高さに凄いと素直に感心していると、いきなりグイッと身体を引き寄せられた。


「ひゃっ、いきなりどうしました?」


「やっぱり夜に来ればよかった」


「よ。夜?!」


私は夜の方が不気味で様子を見に行ける自信がないのですが。

アリセアが戸惑うも、ユーグは歩みをとめない。


結局、わけがわからないまま、ユーグに腰に手を添えてエスコートを受けた。


次々に騎士科の施設内に案内されるものだから目まぐるしい。


武器、防具部屋、実習室、室内演習場、3階にあるユーグの教室、いくつもの部屋を、みてまわったのだが、それぞれの場所に生徒がいて、こちらを見る視線が痛い。


「あの、ユーグ」


ユーグの、普段とは違う強引な行動に、私は戸惑いを隠せない。


さらに声をかけようと見上げると。

「アリセア、ここで最後だ」


ユーグは左胸のポケットから魔法鍵を取り出し、鍵穴にさして解錠した。


「ようこそ屋上へ」


騎士科の屋上に足を踏み入れるのは、初めてだった。

けれど、遠くに見える魔法科の校舎も、図書館も、魔法塔も、どこかで見慣れた風景が、ここからはまるで別世界のように広がっていた。


学園全体を包むような静かな風が吹き抜ける。


「わぁ……すごい」


思わず口から出た感嘆に、隣にいたユーグストが、微笑んだ。


「ここからだと、景色が一望できるんだ。アリセアが気にしてるようだし、俺も一度、騎士科を案内したかったのもあって、ちょっと連れ回してしまったかな。歩き疲れただろう、ごめん」


「普段、ユーグがどんな所で過ごしているのか見てみたいっていう、私の気持ちに気がついてたんですか?」


どうして?

私のソワソワ感を、見透かされていたなんて、恥ずかしすぎる。


アリセアは、頬が熱くなるのが分かった。


「見ていたら分かるよ」

「え……」



静かに微笑む彼の言葉に、またもやくすぐったさや、嬉しさが込み上げる。

なんてことのない私に、どれだけ深い愛情をくれるのだろうこの人は。


やがて彼はそっとアリセアの耳元で囁く。

「今度、もし俺とデートしてくれる時は、項をかくした髪にして欲しいな」


「え?」

「アリセアの魅力的な姿は、他の奴に見せたくない。さっきだって、皆の視線が、君に釘付けだった。……アリセアはそれだけ可愛いからね」



「っ……、ユーグ」



ユーグの台詞に、私は今度こそ心をグズグズに溶かされ、甘やかされた。






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