4-29『ハイドの猛攻』
なんであの二人がここに!?
いや、それよりもこの場所に来たらマズイ。ルリハは今、魔法が使えない状態だし、ハクちゃんに関してはまだまだ成長途中。
どう考えてもハイドとの戦いに着いてこれるわけがない。
マズイマズイマズイ。
可能性はあった。
この街にはルリハも居るんだし、これだけ騒いでいたら勇者パーティーであるルリハは居ても立っても居られなくなって様子を見に来るんじゃないかって。
だけど、なんでハクちゃんまで一緒にいるんだよ。
正直、あの二人をかばいながら戦う余力なんて無いぞ。
「逃げろ! 二人共、全力でこの場から逃げろ! あいつは魔人だ、全力で逃げろ!」
「え!?」
突然言われても驚くのは無理もないだろう。
なにせ、魔人が現れた何ていう一大事。この街が滅ぼされたとしてもおかしくない非常事態だ。
あと、ここに居るのがゼルドガルじゃなくて俺だって言うのも驚愕ポイントの一つとなっているだろう。
本来、この街を魔人から守るのはゼルドガルの役目だ。
ゼルドガルならば、魔人が街に現れたらいち早く察知して飛んできそうなものなのだが、結構な時間戦っているけど、未だにゼルドガルが来る気配が微塵も感じられないというのも気になる。
なにか非常事態でもあったのか?
何にせよ、ゼルドガルが来ない以上、俺がなんとかするしか無い。
「逃げろ、でなければお前らはみんな殺されるぞ!」
必死に叫んでハイドの動きを観察する。
すると、ハイドの姿は突如ぶれて俺の眼の前に一瞬で移動してきた。
「安心しろ。あの二人を葬るのはお前を殺した後だ」
放たれる拳。それを咄嗟に腕をクロスして防御したが、その瞬間骨が砕かれる衝撃が腕に走り、そのまま俺殴り飛ばされ、無様に地面へ転がり込んでしまった。
「ぐあ、がああああ」
腕が砕かれる痛み、これほどの痛みを味わったのは久しぶりだ。
防御したからこの程度のダメージで済んだが、防御をしていなかったら胸を貫かれていたかも知れない。
あいつの前では俺の魔力など、一般人と変わらない程度となる。そうなれば俺の肉体強度は一般人よりも鍛えていると言う程度になってしまう。
俺の肉体強度なんて魔力による防御ありきのものだ。
直ぐに『治癒』で腕を治すが、防御をしてもこれほどの一撃を受けてしまうということを身を持って体験した。
やはり一撃たりともハイドから貰っちゃダメだ。
次の一撃も耐えきれるとは限らないのだ、下手したら今の攻撃で死んでいた。
立ち上がってハイドを見据える。
今あいつは俺を殺すまでルリハとハクを殺さないと言った。つまり、俺が死なない限りはあの二人は安全だということ。
ならば死ぬわけには行かない。
人を騙すと言う行為にあれほど怒りを覚えるハイドが俺のことを騙してくるということは考えにくいから、俺を殺すまでは本当に殺さないのだろう。
「おいおい、どうした? 賢者様の本気ってその程度だったのかぁっ?」
「っるせぇ……」
俺だって直ぐにあいつを片付けてギルドへ加勢しに行きたいものだが、エイフィルのように俺の切り札が全く通用しなかった例がある。
魔物や魔族、魔人には罪悪感というものが存在しないケースが多い。
ガルガは魔人になったばかりだから罪の意識というものがあったけど、相手が魔人である以上、俺の切り札は効かない可能性が高いと考えても良い。
だから、別の手段を考えろ。
「詐欺師が大人しく俺に殺されろ!」
「嫌だ!」
どれだけ惨めでも良い。
どれだけみっともなくても良い。
最終的に立っていたやつが勝者なんだ。
ハイドの拳を回避しつつ、機を伺って立ち回る。
俺が今まで戦ってきた中で、トップクラスの厄介さ。切り札の凶悪さだ。
木の後ろに隠れるが、一瞬で木を消し炭にされてしまう。『守護』で防御をしても一瞬で破壊されてしまう。
ハイドの前ではすべての防御が無意味に終わる。
「おいおいおい、逃げ回っているだけじゃ俺に攻撃できないぞ」
「ちょっと黙れ!」
あまりにも突破口が無さすぎて嫌になってくる。
一応効くか分からないけど、切り札だって試してみたい。だけど、切り札を発動させるためには一瞬だけでも隙を作らなければならない。
なにか、一瞬で良い。一瞬だけでも隙を作ることが出来れば、俺は切り札を発動できる。
一撃をもらうだけでこのダメージなのだ。このダメージを全て跳ね返す一撃をぶち込むことさえ出来れば、流石のハイドも一溜まりもないはず。
俺に対して高威力の攻撃を繰り出すというのはそういうことだ。
だからどうにか一瞬だけでも隙を――
「『ファイアボール』」
その時、ハイドの真横から『ファイアボール』が飛んできた。
その位の攻撃ならば、ハイドは簡単に手で触れることによって消し去ってしまえる。だからハイドにとっては何の問題もない攻撃だろう。
だが、その攻撃を放ったのは、ルリハだ。
手には新調したであろう杖が握られており、その威力を抑制しているのだろうが、現在の彼女の魔力回路はぐちゃぐちゃだ。
そんな状態じゃ、いくら抑制しているとは言え、魔力回路を使うなんて無茶だ。
魔法を放った後、ルリハは膝から崩れ落ちてしまい、膝立ちで杖を地面につけることでなんとか地面に倒れ込まずに済んだという様子。
俺にとっては気が気じゃなかった。
今すぐにでもルリハに駆け寄って診療所に引っ張って連れていきたいところだったが、今はしようと思っても出来ない状況。
ハイドを倒さない限りは俺を逃がしてはくれないだろう。
だが、ルリハのお陰でハイドはルリハの魔法を打ち消すために一瞬だけではあるが、動きが鈍った。
折角身を挺してハイドの隙をルリハが作ってくれたというのに、このチャンスを逃すわけにはいかない。
「切り札『業』」




