4-26『マナの信条〜人間と魔族〜』
「ねぇ、君は本当に俺たちに勝てるとでも微塵も思ったのかぁ? なら、俺たちもナメられたものだなぁ。俺たちは魔人で君たちはそれ以外ぃ……その時点で種としてのスペック差っていうものが生まれるわけだぁ。自分の力を信じるぅ、それはいいことではあるが信じすぎるとこんな風に命取りとなるぅ。少なくとも俺を止めるべきじゃなかったぁ。俺を止めなければ君たちの相手はハイドだけで済んだのにさぁ?」
でも、お前を行かせたら街の被害がとてつもないことになるだろう。それだけは阻止しなければいけなかった。
ゼルドガルがまだこの街に居るとは限らない以上、こいつらは俺らこの街に居るメンバーだけで対処しなければいけないんだよ。
「すごい目をするねぇ……その目だけで人を十人は殺せそうだぁ。そんなに君はこの街を守りたいのかぁ? でも、君って魔族だよねぇ。戦ってみて分かったよぉ? となると、そっちの彼女もそうなのかなぁ? ねぇ、なんで魔族なのに人間の味方をするのかなぁ? それっておかしいと思わない? 自然の摂理として人間と魔族というのは千年以上にも渡って戦争を繰り返してきた。だと言うのに、どうして君たちは人間を助けるんだぁ?」
俺は人間で、魔族だとカモフラージュしているからと言うのがあるが、マナに関してはこの街を助けるメリットというもの、そして義理は全く無い。
だから、俺はマナがこのままこの街を見捨てて帰ったとしても何も文句を言う権利なんて持ち合わせていない。だって、それが普通だから。
ここまで一緒に戦ってくれていたと言う状況がそもそもおかしいんだから。
「……私ね、人間って結構好きなんだ」
マナが静かに語り始めた。
その口調は何かを懐かしむような、慈しむような、そんな優しい声色で、こんなにピンチだと言うのに心が落ち着くような口調だった。
「部下の前で何言ってるんだって話になるかもしれないけど、エシュドなら私の考えを受け止めてくれると信じて話すよ。確かに昔、私は人間のことが嫌いだった。たくさんの同胞を殺されたし、命を狙ってくるし……」
人間の中で魔王は悪であり、必ず滅ぼすべき相手と幼い頃より教育されているから、人間である限り誰もが彼女を殺そうと考えているだろう。
俺が特殊なだけなんだ。
「だけど、勇者だけは違った。確かに、勇者も私の仲間を殺すし、私を殺そうとしてきたけど、あの子は最後の最後まで私と和解をしようとしてきたんだ。私たちが闘う必要なんてあるのかって、どうして争わなきゃいけないのかって。魔物と違って魔族は別に人間を襲う必要なんて無い。ただ、好戦的って言うだけなんだ」
でも、そんなやつは人間にだって居る。
俺だって強い相手と戦うのは好きだし、ゼルドガルだって俺を見つけた瞬間に攻撃を仕掛けてくるほど好戦的だ。
だから――
「そんなのは争う理由になんてならない。勇者に言われて初めて気がついた、どうして私は人間と戦っているのだろうって。いつの間にか人間と戦うということが当たり前だと認識していたけど、私には人間に強い恨みというものがない。確かに同胞はたくさん殺されたけど、同胞をいっぱい殺したのだって私たちも同じ。私たちも大勢の人間を殺してきたから。私だけ人間を恨むのはなんか違う」
初めて昔の勇者の話を聞いた。
冒険者学校でも、先代の勇者の話なんて聞かされることはないから、俺たち人間も彼女がどういう人物で、どういう思想を持って行動していたのかということを全く知らない。
でも、話を聞くだけで先代勇者がいい人だったというのが伝わってくる。先代勇者の話をするマナの表情はとても柔らかく、まるで旧友を思うかのような表情だから。
「結局、私たちは殺し合わなければいけなかった。その戦いで私は力のほとんどが封印されてしまった。今では魔力が少なくなってこんなちんちくりんな姿になってしまった」
魔族の姿は保有魔力量による。
魔力が強い魔族程大きく、そして凶悪な姿となる。
バルゼットが良い例だ。
「だけど、彼女の言葉、生き様はまだ私の中に残っている、生きている。だから、私は人間たちの事をよく知りたいと思い、旅をするようになった。定期的に人間の街に行っては人間たちの営みを観察するようになった。想像以上にワクワクだったよ。今まで私の知らなかったことがたくさんあって、すっごく楽しかった。それと同時にもっと私の中でどうして戦わなければいけないのかという疑問が膨れ上がった。いつの間にか私は人間のことが好きになっていたから。戦わなきゃいけないならこれからも戦い続けるし、私は人間の敵であり続けよう。だけど、人間を救えるのなら私は救いたい」
初めて聞いたマナの本音。
マナは今まで人間と戦いつつ、マナなりに人間に歩み寄ろうとしていたんだ。
だからこうして部下に内緒で旅行を……。
ますますどうして人間と魔族が争わなきゃ行けないのかが分からなくなった。
「ふーん……変わってるねぇ。そんな風に思う人は他に居ないと思うよぉ? 誰に言っても理解はされないと思うんだけどぉ、それでも君はその考えを曲げないのかなぁ?」
「えぇ、これが今の私、大事な信条だから。これを曲げたら私は自分で考えるって言うことをやめちゃうと思うから。人間だとか魔族だとか関係ない。私は助けたいから助けるのよ」
そう言い放ったマナの表情は今まで見たマナのどんな表情よりも活き活きしていた。
そして同時に頼もしいとも思えた。




