4-25『運否天賦』
「切り札ぉ…………『運否天賦』ぅ」
出現したルーレットのてっぺんにはキラキラ光るカードが存在し、それがルーレットの当たりを指し示す役割を果たしている。
間違いなくこれはガラドの切り札の効果によるものだろう。
なにか嫌な予感がする。なんとかこの切り札の発動を阻止しなければ。
「っ!?」
う、動けない。
手足を動かすことは疎か、視線をルーレット以外の場所へと向けることも出来ない。首に力を込めて振り返ろうとしても、強引に視線をルーレットへと向けられているような感覚だ。
このまま動けなかったらハイドに殺されてしまう。
魔力だってそうだ。
さっきの魔力封じ状態とは違って魔力自体は動かせるというのに体の外に放出することが出来ない。
意識はあるし、魔力は体内では動かせる。考えることも可能。だと言うのに全く動けないと言う状況。感覚的には生きたまま透明のコンクリートの中に封じ込められたかのような気分だ。
「くく、くはは、くーはっはっは! お前ら、気がついてるか? 今、お前らは非常におもしれぇ顔をしてるぜ! 大方、指先一つピクリとも動かすことができなくなって驚愕しているんだろう」
何だこいつ、さっきまで間延びした気だるげな口調で喋っていたと思ったら急に生気を取り戻し、饒舌でハイテンションな様子で笑い始めた。
様子があまりにも変わりすぎて不気味だ。
目がイッている。さっきの気だるげな様子はどこへやら、目をカッと見開いて、白目の部分を真っ赤に充血させ、興奮している様子だ。
「俺の切り札である『運否天賦』はその名の通り、全てを運に任せると言う効果だ。何が怒るのかは俺も選ぶことは出来ねぇ! だが、この状況に最適な効果を引き当てることができりゃあ、脳汁が止まらねぇってもんだろうよ!」
「お前、相変わらずイカれてんな」
あまりの変容っぷりに仲間であるハイドも流石に呆れている様子だった。
「おぉっと、抵抗しようとしても無駄だぜぇ。このルーレットに姿を捉えられた奴らは全員ルーレットに夢中になる。身体を動かす信号をルーレットを見るという行為にしか使うことが出来ない生粋のギャンブラーとなる。一度俺のルーレットに囚われたら最後。もう逃げる術は無いんだぜぇ!」
「なんで、効果を俺たちにバラした」
「言っても問題ないからだぜぇ! よくよく考えてみろぉ。一度ルーレットに掴まったら逃げられないというのに、どうやって対策をするっていうんだ? 目を閉じても、目隠しをしても、俺のルーレットからは逃れられない! そんな状態で何をどう対策するんだ? 出来るものなら教えてもらいたいくらいだなぁ、おい!」
確かにガラドの言うとおりだ。
ルーレットの効果範囲に入ってしまったら動くことも出来ない。そんな状態では何をすることも叶わない。
目を閉じても、目隠しをしても、俺たちの脳波はルーレット観戦に全力を出すことだろう。だから、自分で対策のためにした目隠しも、ルーレットを見るために自分で外してしまうのだと考えられる。
そして運否天賦の運ゲーに全員が巻き込まれてしまう。
実力でどうにかならない分、質が悪い。
今もガラドの話を聞きながら全力で抜け出そうとしていたが、一切抜け出せる気がしない。
「さぁて、俺の切り札を分かってもらえたところで〜そろそろイッちゃいましょーっ! ルーレットぉぉぉぉぉぉ、すたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁとぅ!」
ガラドの謎テンションで告げられたスタートの合図でガラドの頭上のルーレットが高速で回転を始めた。
枠は赤、黄、白、紫、黒、緑の六つ。
六つの候補の内、どれか一つが発動すると言ったところだろう。
どんな効果が発動するのか全く想像もできないから、ルーレットが終わったら直ぐに動けるように準備しておかなければ。
「さぁさぁさぁさぁ、どれがでる。何が出る。来い来い来い、この状況で最適な能力よ、発動しろ!」
何がラインナップされているか分からないけど、俺はとにかくこの状況においてガラドが有利にならないような効果が出るのを祈るばかりだ。
そして願い続け、やがてルーレットの勢いも弱くなり、カードが指し示したのは黄色の枠だった。
それを見てガラドはにやりと口元を歪めた。
「ごめんなぁ? いやぁ、君には可哀そうだと思うんだけどさ。でも、これは運だから。悪く思わないでくれよ」
ガラドがそう言った次の瞬間だった。
全身にほとばしる激痛。稲妻が体内を貫き、この肉体を焼いていく感覚が俺を襲った。
「が、あ、がああああああああああああああああああああああああああ」
「うおぉぉぉぉぉぉおおおお、脳汁、脳汁が止まらない。君のその苦しそうな表情を見ていると、俺は脳汁が止まらなくなるよ! あ、あぁあああ、なんて凄まじい脳汁何だ。脳がそのまま解けて無くなってしまいそうだぁっ!」
「な、にが……」
もう肉体に自由は戻ってきた。
動くことも出来る。
だが、痺れすぎて全く身体を動かすことが出来ない。魔力を放出することも出来なかったものだから、俺は今、魔力による防御もなくまともに電撃を食らった。
これほどの激痛、久しぶりに感じたかもしれない。
意識が飛んでしまうかと思った。こうして意識を保てているのが奇跡なほどの威力だった。
「あは、あはははっはっは、ふーはっはははははは! は、は、はぁ……どうだ小僧……俺のスパークの味はぁ……身だけじゃなく、骨まで焦げるようだろう……」
ルーレットが消滅し、ガラドのテンションがもとに戻る。
眼の前に居る。俺を自分の体の上から下ろし、しゃがんで俺が倒れ込んで動けなくなっている様を見下ろしてきている。
手を伸ばせば簡単に殴れる距離だ。だが、痺れて手足を動かすことが出来ない。
くそ、殴ってやりたい。
そのニヤけ面をどうにかして歪めてやりたい。
悔しい。




