4-24『被害を最小限に』
木の上から少女の魔人が下りてきたことによって俺たちの目の前には今、三人の魔人が並ぶことになってしまった。
ハイド一人だけでもかなり厄介だったというのに、ハイドだけではなくもう二人も魔人が出てきたら俺とマナの二人で勝てる可能性は限りなくゼロに近い。
そもそも、魔人なんて一体居れば賢者一人で辛勝できるかどうかというレベルの相手だ。それが三人も居るとなると話が変わってくる。
魔人は誰でも簡単に倒せるような雑魚魔物じゃないんだぞ。それがこんなに集まるなんてどうにかしてる。
さすがにこの状況は絶望以外の何物でもない。
「さて、ガラド、テライ。遅れてきた分、しっかりと働いてもらうぞ」
「ハイドはぁ、どうすんだぁ?」
「俺は目の前の小童どもを殺してから向かう」
「おっけー、じゃあ先にギルドに行ってるね!」
いや、あいつらは俺らを殺すことに全力を尽くしているわけじゃない。
俺らを殺すのはハイド一人で充分だと考えているんだ。だから、ハイドが俺たちと戦っている間にもこの街の壊滅作戦を進めようとしている。
あいつらにとって俺たちはその程度の存在だっていうことだ。というよりも、この少人数相手に負けるわけがないという自信の表れと言ったところか。
ハイドはこの短時間の戦闘でそう判断したらしい。
俺が本気を出すことさえできればもうちょっと話は変わってくるんだが、それをするためにはマナと別れて戦う必要がある。
「そんじゃーまず手始めにギルドをぶっつぶそー!」
「…………」
「ちょっとぉ、ガラドノリ悪いよ~」
「おぉ……とでも言えばいいのかぁ?」
「もうっ、もうちょっとテンション上げようよ」
「無駄にエネルギーを使うだけだぁ」
今にもガラドとテライと呼ばれた二人の魔人はハイドをここにおいて冒険者ギルドへ走って行ってしまいそうだ。
確かに冒険者ギルドには数多の腕っぷし自慢の冒険者が存在していて、この街の冒険者ならば複数人集まれば魔人を討伐できる気がしないでもないのだが、二人とも行かせてしまうというのはかなり不安だ。
さすがに二人も魔人が居るという状況では冒険者たちも不利なことこの上ない。ギルドマスターのオーズはめちゃくちゃ強い人だし、今ならゼルドガルも居る可能性があるものだが、さすがにリスクが大きすぎる。
そう簡単に行かせるわけにはいかない。
快活少女のテライはお気楽な声で「えいえいおー」といい、ガラドが気だるそうにズボンのポケットに手を入れ、ため息をつく。
どうにかあいつらの進撃を、どちらか片方だけでもいい。最悪もう一人はギルドの人たちに対処してもらうとして、どちらか片方だけでもこの場に留まらせることが出来れば、街の被害はまだ抑えられるのではないか?
俺らが勝てるかどうかは後々考えるとして、とりあえずどちらか片方だけでもこの場所に留まらせる。
「ガラド、ギルドまで競争ね!」
「めんでぇ」
そう言いつつも、スタートダッシュの構えをするガラド。
さっきの動きを見ていて、テライという少女はかなりの機動力があると見た。簡単に木の上から飛び降りたし、俺たちに気取られない内に木の上に上るなんてそうそう簡単に出来ることじゃない。
だから、テライをこの場にとどめておくのは困難だ。
そうなると、まだ留めることが出来そうなのは――
マナと目くばせをして俺は駆け出した。
「まだ心が折れてなかったか。その点だけは評価してやる。さぁ、第二ラウンドスタートだ。って、おいおいおい」
再び構えてやる気満々といった様子のハイド。
だが、俺はハイドの真横を素通りして、その後ろで構えていたガラドへと一直線に走る。
「え、うわっ」
「はぁ?」
やはり機動力が高くて素早いテライは俺の接近に気が付いて咄嗟に俺の腕が届かないくらいの場所にまで飛び退かれてしまったが、ガラドは俺に気が付いても速度が足りず、俺の間合いに入ってしまった。
俺の考えた通りだ。
さっきの地面から這い上がってくる動き、どう考えても機動力が高いようには思えなかった。
こいつは間違いなく魔法使いタイプ。それも、固定砲台タイプであまり動かないから機動力が無いんだ。それに対してハイドとおそらくテライは近接格闘タイプ。機動力は桁違いだ。
留めておけるとしたらガラドしかいない。
俺はガラドのボロボロの衣服を左手で力いっぱい握りしめると、そのまま服を引っ張って地面に押し倒した。
「ぐぅっ」
「が、ガラド!?」
テライが顔色を変えて俺の方へと迫ってくる。
近くで仲間がピンチになってりゃ、魔人でもそりゃ助けに来るよな。
だけど、今俺の背後にいるのはこれまで何千年にも渡って人間が討伐しようと試みてきた最強の魔族、魔王マナだぞ。そう簡単に俺の妨害に来させるわけがないだろう。
「『終の闇』」
テライの進行方向を妨害するようにしてマナから放たれる漆黒の矢。
マナが狙ってきているのだから、そう簡単に助けに来ることはできないだろう。動きの速い相手に遠距離魔法を当てるのは困難だが、動きの方向が分かっているのならば話は別だ。
動いてくるであろう方向に照準を置いておけば、かなり当てやすくなる。仲間を狙われたことによってテライは持ち味の機動力の高さによる回避力を奪われたのだ。
「ふーん、考えたみたいだけどさ。別に私たちってお互いを助ける義務? みたいな人間のエゴのようなものって無いんだよね。ただ、利害関係で一緒にいるだけだからさ。私は冒険者ギルドに行くとするね~」
「っ、待て!」
最初からテライをこの場所に釘付けにすることは不可能だと思っていたが、これほどまでにあっさりと仲間を放置していくとは。これが魔人化による考え方の変化というやつなのか?
だが、あのままここに居ると言われたとしても困ってしまったから、テライがどこかに行ってくれて逆によかったのかもしれない。
とにかくこれで俺らはこの二人を相手にすれば大丈夫だ。
「してやられたなぁ、ガラド。いつまでそこで遊んでるんだ?」
「俺は負けてねぇ」
「っ」
ハイドの言葉に不満げにガラドがそう口にした瞬間、俺は――いや、俺たちはガラドの頭上にルーレットを幻視した。




