4-23『形勢逆転』
「そうか……あくまでも俺と徹底抗戦をするつもりか……」
「あぁ、この街を破壊させたりなんかしない」
「ずいぶんと滑稽だな。魔族が人の街を守るとは……」
バレてる!?
いや、でもそうか。あいつは今、俺の魔力と完全にぶつかりあった。
どれだけ魔力をわかりにくいようにしていても、マナが俺をエシュドだと認識できるように魔力の質を変えている以上、感じ取れば俺の魔力は魔族の魔力だと認識できる。
マナの魔法に関してもそうだ。
直撃は避けているようだが、魔法を放つ時に魔力を隠蔽すると言うことは出来ない。
まず間違いなく周囲に放たれ、魔法の近くに居れば魔力の質を感じ取ることも可能だろう。
「でも、俺はそういうの、嫌いじゃねぇぜっ!」
「っ!?」
にやりと不気味に笑ったハイドは再び猛スピードで俺に突っ込んでくる。
まだ魔力は残っているけど、あの手になるべく掴まれないに越したことはない。それに、あの手に攻撃が当たると魔力が霧散して威力が低くなってしまう。
魔力がもったいない。
「『雷瞬』」
それに、こんな道のド真ん中で戦っているわけにはいかないだろう。
だから『雷瞬』を発動させた俺はマナを横抱きにし、この場から全力疾走をした。
「ちょ、エシュド!?」
「一先ず戦略的撤退です。俺たち二人だけじゃ魔人は荷が重いです。あと、魔族である俺たちには相性が悪すぎる。この街には他にも大勢の冒険者が居ます。実力者も多いです。そう簡単に壊滅させられることはないでしょう。それよりもまず魔王様は生き残ることを考えてください。あなたが死んだら魔王軍のみんなは路頭に迷うことになります」
「……そうね。ちょっと、冷静じゃなかったかも」
俺だってあのまま戦い続けたかった。
だけど、相性が悪すぎる。マナが近くにいる状態で俺は本気を出すことが出来ないし、マナは種としての相性の悪さがある。
ここは一旦引くのが賢明な判断というものだろう。
昨夜あったばかりだから多分、ゼルドガルも居るはずだ。だから、なんとかしてハイドをゼルドガルにぶつけてやりたいところだ。
ゼルドガルが居れば確実に勝てるはずだ。
「おい、何逃げてやがる!」
「なっ!」
すると、なんと足下がぐにゃりと歪み、うねり散らかし始めたため、足がもつれ、上手く走れなくなって立ち止まってしまった。
背後を見てみると、地面をはずませ、そのはずみを利用して飛んで俺たちの方へと風を切るほどの速度で飛んできていた。
なんでこうも魔人というやつらは化物揃いなんだよ。嫌になってくる。
エイフィルとハイドの動きを見ていたらガルガが可愛く見えてくるぞ……。
俺はなんとか横に飛んでまるで砲台のような速度で飛んできたハイドを回避。そのままハイドは身を翻して、地面に着地して俺の進行方向を塞ぐようにして立った。
「どうやら、逃げられないみたいね」
「どうにかあいつに触れること無く、あいつの切り札の効果を受けず、あいつを一撃で消し飛ばすことが出来る魔法とか無いっすか?」
「馬鹿なの? そんなものがあったらとっくに使ってるわよ。魔法っていうのはそこまで万能じゃないのよ。魔法か切り札かって言ったら、間違いなく切り札の効果のほうが強いわ」
まぁ、知っては居たけど、魔法のプロフェッショナルであるマナならば何か思いつくかなと思って聞いてみただけだ。
マナを下ろしてハイドへ向き直る。
どうやってハイドを倒そうか、どうしたらあの魔力霧散を乗り越えてあいつを殴れるのか、全く検討もつかないけど、やることは一つだけ。
この街を守るために全力で戦う。
魔王軍側なのに人間の街を守るというのは違和感しか無いけど、マナもそのつもりみたいだし、良しとしよう。
「さぁ、お前ら二人の殺害をオルターン壊滅の幕開けとさせてもらおう」
ハイドは地面に手を付けると、魔力を地面に流し込む。
土属性の魔法はその殆どが周囲の土や地面を操作する魔法となっている。だから、周囲に柔らかい土や地面が存在していないと思うように効力が発揮できない。
だが、この場所は森だ。土なんてそこら辺に腐るほど存在している。だから、この場所で土属性魔法は優位に立てる。
土を変形させて拳の形にして俺たちにぶつけてくるハイド。それを俺は正面から迎え撃ち、『豪拳』をぶつけることによって相殺してみせた。
そして土拳が砕けることによって土が崩壊し、俺たちの姿を覆い隠す目隠しとなる。その隙にマナは構えていた魔法を解き放った。
「『終の闇』」
マナの手に握られているのは闇を纏った弓矢。『紅蓮廻炎』の闇属性バージョンの様な見た目だが、その効果の凶悪性はまるで違う。
『紅蓮廻炎』の効果は放つと着弾点で爆発を引き起こし、目標を焼き尽くすものだが、『終の闇』はというと、対象物を魔力尽きるまで燃やし続ける!
「ぐっぐおおおおおおおおおおおおおおお」
砂煙の中から突如飛んできた矢を回避することが出来ずはずもなく、ハイドの胸に着弾。その直後、ハイドの肉体が激しく燃え上がり始めた。
矢が突き刺さっている間はどれだけ頑張ったとしても暗黒の炎が身を焼き続けるため、ハイドは真っ先に矢を消そうとするだろう。
だが、そうはいかない。
ハイドが矢に意識を向けた瞬間を見計らい『雷瞬』を発動。地面を文砕かんとする勢いで蹴り、ハイドへ急接近。
今なら俺の拳も当たる気がする。
ハイド、お前は運が悪かったんだ。
たまたま接敵したのが魔王だった。『終の闇』なんていう魔法はそうそう使えるものではない。
上級魔法の中でも上澄みに存在し、闇属性魔法を極めた者にしか扱うことが出来ない程の高難易度魔法。
だが、マナは前世も含め、長い年月を魔法の修練に費やしてきた。
マナに使えない闇属性魔法なんて存在しないだろう。
「ぜめてゼルドガルじゃなく、俺たちとあたった幸運に感謝しろよ! 『豪拳』」
「魔力封じぃ」
「は?」
その瞬間のことだった。一瞬にして俺の拳の魔力は霧散し、魔法が解除されてしまった。
吸い取られたとか、そんな簡単な問題ではなく俺の中にはちゃんと魔力が燻っているというのに、引き出すことが出来ない。
普段、魔力で肉体を覆って防御しているはずなのに、その魔力すらも感じない。
魔力が使えないっ!
「驚いているかぁ、小僧ぉ? 信じられないだろぉ、だがこれが現実だぁ。大事な場面で最善を引くぅ……脳汁が止まらねぇなぁ」
勢いが無くなった俺の拳、突如地面から手が出てきてガッシリと掴んで拳を止めてきた。
力が入らない。普段魔力で強化していたというのに魔力が急に使えなくなったことで一般人程度の力しか出せなくなった。
だが、その魔力の使用制限もすぐ終わるものだったようで、俺の魔力は直ぐに復活した。
魔力で再度全身を固めて相手の手を蹴ることによって手を離させて瞬時にバックステップで距離を取った。
「なんだ、あの手は」
「エシュド、地面からハイドじゃない別の魔力を感じる。しかも、そいつも……魔人」
俺が離れるとまるで地面から這い出るゾンビのようにのそのそと土まみれになりながら一人の男が現れた。
非常に顔色が悪く、深く濃い隈が目の周りにできている。服装はボロボロだし、手足や穴が空いている服の中に見える胴体の包帯からしてもどう見ても重症患者と言った風貌。
かすれた声には生気を感じられないし、目は死んでいる。
あまりにも不気味だ。
しかも、あれが魔人だというのだから、嫌になってくる。
出現自体がレアな魔人がよぉ、こんな短いスパンでしかも二人同時に出てくるんじゃねぇよ。ダンジョンガーディアンが二体居るようなものじゃねぇか。
「ハイドぉ、お前ぇ、さっさとその矢ぁ、どうにかしたらどうなんだぁ?」
「あぁ。悪い助かった。だが、ガラド、遅いぞ。俺を裏切っていたわけじゃあるまいな」
「んなわけないでしょーよぉ。ただぁ、ちっと熱が入っちまってなぁ」
「クズが、今日は大事な日だと言っていただろう……はぁ、まぁいい。テライは?」
「やっほ~、私はここにいるよ?」
突如聞こえた真上からの声。
そこには木の枝に一人の少女が立っていた。白衣を着用して眼鏡をかけており、太陽の光がキラキラと長い黒髪に反射し、神秘的な雰囲気を醸し出している。
だが、あの少女から放たれている魔力も間違いなく魔人そのものだった。
「うそ、でしょ?」
「おいおいおいっ」
二人いるんだから三人居てもいいよねっていうものじゃねぇんだよ。
魔人は二人以上居たら簡単に街一つ滅ぶんだから、ちょっとは考えろよ。確実に戦力過多だろうがよ!
ハイド一人だけならば俺とマナの二人でワンチャン倒せる可能性はあるかと思っていたけど、三人いるなら話は別だ。
今からでも賢者全員をこの街に集めないと、この街は一瞬で壊滅するぞ。
いや、賢者を今から集めたところで間に合わない。みんながみんなこの街の近くに居るわけじゃないんだから。
「さぁて、随分とハイドと楽しんでいたみたいだ、け、ど? 形勢逆転しちゃったねぇ……あはっ」
これは非常にマズイ。




