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4-20『悪夢』

「これ、美味しいですよ」


「あむっ。ん〜! 美味しい!」


 昔聞いたけど、女の子っていう生き物は甘いものが好きらしい。

 前に来た時に甘いものがあった気がすると思い出し、店を探していると大福屋があったため、大福を買って二人で食べていた。


 俺はちょっと甘いものは苦手なんだけど、これくらいなら甘さ控えめだし、俺でも美味しく食べることができる。

 加えてマナも喜んでいるみたいだし、覚えていて良かった。


 俺がどうして甘いものが苦手なのに甘いものが売ってるってことを覚えていたかと言うと、ほんの少しだけパーティーを組んでいたメンバーの女の子の希望でみんなで食べた記憶があったからだ。

 俺は乗り気じゃ無かったんだけど、どうしてもって食べさせられたんだよなぁ。


 あの時食べておいてよかった。その記憶が今役に立ってる。


「それにしてもエシュド、よくこんなお店知ってたね」


 痛いところを突かれた。

 そういえば俺は今、魔族って言うことになってるから、人間の街でこういうものを知っているのは不自然だ。

 マナの表情を見るに変に疑っているようには見えないけど、慎重にならないと。


 まぁ、マナも観光で来てるみたいだから、これくらいなら大丈夫だろう。


「俺、軍に入る前は旅が趣味でして、たまに人間の街に忍び込んでは色々見て回ってたんですよ」


「あ、だから今回も簡単に街に潜り込めているって事ね」


「まぁ、そういう事ですね。なんで、知識は色々あると思いますよ」


 本当の理由は仕事柄、色々な街に行ったことがあるって言うだけなんだけどな。

 もちろんそんなことを言う訳には行かないので、適当に作った理由で誤魔化されてもらおう。


「エシュドが旅好きならいいよね……うんっ」


 するとマナも何か覚悟を決めたように頷き、俺に向き直った。

 そして、俺に風圧が来るほどの勢いで頭を下げた。


「え、ちょっ」


「私、見栄を張ってた。魔王だからって、こんなの示しがつかないって。でもね、私本当はエシュドと同じく旅が好きなんだ。色んな場所を見て回るのが好き。美味しいものを食べるのが好き。人間たちの営みを見るのが好き。だからこうして時々、観光に来てる。エシュドの前だからって格好つけて偵察なんて言ったけど、あれは嘘だったんだ。ごめんっ!」


「いや、頭をあげてください。魔王様に頭を下げさせたなんて知られたら、俺はほかの魔族に消されてしまいます!」


「あはは、確かにみんな私に忠誠を誓ってくれるいい子たちばかりだからね」


 そう言って笑いながら頭を上げてくれてホッと一安心。

 もし今の場面をバルゼットなんかに見られていた暁には俺もエイフィルと同じ運命を辿るところだった。


 あと、観光目的であったことはもうとっくに勘づいてました。

 マナの様子が完全に人間に敵意がある感じじゃなかったからな。

 敵意があるなら俺も流石に見逃せない。


 でも、ならなんで魔王軍と人類ってこんなに敵対してるんだろうか。

 昔の人々とマナの間に何があったんだ?


「でも、それなら俺が案内しますよ。行きたい場所があれば是非仰ってください」


「いいの? それじゃあねぇ」


 ルリハには悪いけど、俺は帰る時間までマナの観光に付き合うことにする。

 マナとこんなに話せる機会はそうそう無いからな。信用を勝ち取るためにも、マナとは仲良くなっておかなくては。


 その時――


 ゾクッと背筋が震える感覚があった。

 まるで心臓を握られているかのような重圧。

 なんでこうも俺たちはやべぇ奴らばかりに出会うんだろうなぁ!?


 その気配は背後から感じる。


「まーちゃんっ」


「えぇ、これは魔人ね」


 見るとマナも冷や汗をかいていた。

 その圧倒的存在感はガルガと比べると圧倒的。

 この場には俺とマナの二人。幸いにもルリハは近くに居ないから巻き込まれることは無いだろうけど、ここは街中だ。騒ぎを起こすのはまずい。

 一旦ここは魔人の様子を伺おう。


 マナと静かに目配せをするとそのまま魔人に気が付かれないように平成を装って歩き始めた。


 さっきまでと同じように大福を食べながら歩くけど、緊張感で大福が上手く喉を通ってくれない。

 魔人は今俺が本気を出して倒せるかどうかって言うほどの化け物。しかも、切り札によってはエイフィルのように殺せないやつもいる。

 考え無しに攻撃しても倒せる保証はどこにもない。


「えっと、それでどこか行きたいところありますか?」


「うーん……そうだね。何か見晴らしがいい所とかないかな?」


 マナの意図を理解した。

 マナはどうせ戦うならばここじゃなく開けた場所でと言いたいのだ。

 だが、魔人がそこまで着いてくるとも限らない。俺たちに着いてきているのだとも限らない。

 俺たち狙いじゃないなら、俺たちがそこに行っても無駄だ。


 どうしたら……。


「あははあはは、おーい! こっちだこっち!」


「行っくぞぉぉぉっ!」


「子供?」


「そのようですね」


 見てみると、そこには蹴鞠をして遊んでいる子供たちの姿があった。

 四人くらいの男女で、何が今起こっているのかという事も知らずに楽しげに遊んでいる。


 願う。

 どうかあの子たちに魔人の敵意が向きませんようにと。


「おっけぇっ! じゃあ、今度はこれでどうだぁぁぁっ!」


 一人の男の子が足を大きく振り、そして力いっぱい鞠を蹴り飛ばした。

 するとその鞠は――俺たちの願いも虚しく、最悪な結果を招いてしまった。


 目でボールの軌道を辿る。

 するとそのボールは勢いよく背後にいた傷だらけの男の顔面に直撃してしまっていた。

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