1-8『ゴブリンよ、永遠に』
次の日、俺は少し寝坊をしてしまったため、かなり慌てていた。
昨日、夜遅くまで作戦を練り続けたのが祟ったのか、夜明けと共に街中へ戻って街の中から来たように演出しようとしていたものの、起きたときにはすでに太陽が昇っていた。
そのため、出発準備を急いで整え、身体強化を自分に発動する。
木を薙ぎ倒すとか関係ない。約束の時間に遅れてしまったら勇者パーティーに入れてもらえなくなるかもしれない。初日に遅刻とか一番やってはいけないことだろう。
だから全力で地面を蹴り、走り出す。
道中の木々を薙ぎ倒し、地面を抉りながら猛スピードで街へと向かって行く。ここからならこのスピードで走れば二十秒程度で正門までたどり着くことが出来るだろう。
十秒程度で森を抜け、街が見える。昨日取った許可証は今日も有効だからこのまま街の中へ突っ込み、計画通りに街の中から来た風を演出しよう。
そう考えて門へと突っ込んでいくが、その途中で門の前に人影が見えてしまった。
あれはユイとルリハだ。どうやら俺がここに来る前に二人とも門前に集まってしまったらしい。
このまま突っ込んでいってしまうと俺は二人に衝突して、大けがを負わせてしまうことになるかもしれない。二人とは友好関係を築こうと思っていたのに、ここでそんなことをしてしまっては何もかもがおしまいだ。
だから俺は進行方向を何とか逸らそうとして地面を蹴る。
これで角度が少し右の方へと逸らすことはできたので、その上で急ブレーキをかけて何とかして城壁ギリギリで止まろうと試みる。
しかし、こんなスピードを急に止められるわけがなく、ブレーキはかけるがそんなにスピードを落とすことが出来ないまま城壁へと突っ込むことになってしまった。
ドガアアアアアアン
「えぇぇぇぇぇ!?」
「な、なにが……」
「おいおいおい、なんだなんだ?」
門付近に居たユイ、ルリハ、門番が音に驚き、集まってきてしまった。
出来ることならユイとルリハの二人にはこんな姿を見られたくはなかったんだが、こうなってしまったからには仕方がない。
地面を抉り、城壁に大きなクレーターを作り上げてしまった。そのことをどう言い訳をしようかと考えつつ、立ち上がる。
「え、は、ハルト君!?」
「なにがあったの……?」
「…………いったぁぁぁぁぁっ!!」
「いや、痛みに反応するの遅くないですか!?」
実際痛くはないからな。この程度の衝突でダメージを受ける俺ではないため、痛がることを忘れてちょっと遅れてしまった。
「えっと……そう、魔物にぶっ飛ばされて!」
「魔物って……あの子の事ですか?」
「え?」
ユイが指をさす先に居たのはゴブリン。ちょうど俺の走ってきた直線状にそいつは居た。抉れた地面のことを不思議そうに見つめている。
どう考えてもゴブリンがこの被害を出すのは不可能。ルリハはジト目で俺のことをにらんでくるが、俺にはあいつにこの状況を擦り付ける以外は無いんだ。
「ぐぎゃ! ぐぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ!」
そこで俺たちの存在に気が付いたんだろう。俺たちに襲い掛かろうとゴブリンがこっちに走ってくる。
やめろ、こっちに来るな! お前はそのままこの状況を作り出したクソ強ゴブさんとしてこの世界に君臨してくれ!
このBランク冒険者二人にお前が勝てるわけがない! おとなしく森へ帰ってくれ!
「ユイ、気を付けて」
「うん、わかったよ!」
だが、俺の思いは届くことはなく、ゴブさんはユイに向かって一直線に走っていき――
「成敗!」
「ぐぎゃああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
「ご、ゴブさああああああああああああああああんっっっっっっっっっっっっ!!!」
ユイの剣は無慈悲にゴブさんの首を一刀両断、ゴブさんは一瞬にして討伐されてしまったのだった。
くそ、俺の力が及ばなかったばかりに、ゴブさんを死なせてしまった。
ゴブさん、お前は永遠に俺の中で生き続けることになるだろう。お前のことは絶対に忘れない。
「なんで空に向かって敬礼しているの?」
「気にしないで」
「あはは……まぁ、とりあえず……おはようございます。ハルト君」
「え、うん。おはよう」
なんか普通に挨拶をしてきたから驚いてしまったけど、もう追及はしてこないのかな? 俺は助かるんだけど、良いのか?
でも、とりあえずゴブさん、お前の死は無駄じゃなかったようだ。
「はぁ……まぁ、ここら辺の壁も経年劣化で脆くなってきてたし、改修工事は近いうちにするつもりだったからいいか……お前ら、外に行くなら気を付けろよ。さっきみたいにぶっ飛ばされるかもしれないからな」
「あ、ははは……了解です」
間違いなくゴブリンではなく、俺が何かをしていたということはバレているのだが、そのことは不問にしてくれるらしい。
普通に修理費は払うつもりでいたのだが、そう言ってくれるのならお言葉に甘えておくことにしよう。
「そ、それでは全員揃いましたし、ダンジョンへ行きましょう!」
「そうだね。早速ダンジョンで何が出来るのか見せてもらうよ」
「了解! 任せてくれ」
ユイの号令で俺たちはダンジョンへ向かって歩き出した。