4-19『揺らぎ』
「そ、それでね、エシュド。これも人間たちの強さの秘密を探るのに必要だと思ってね? 必要経費必要経費だよ!」
「はぁ……」
先ほど買ったヘアピンを手に持って熱弁をするマナ。
もちろん、このヘアピンにマナが言うような価値というものは全くなく、俺もただ見た目がいいから手に取ろうとしていただけで、何の効果もないただの装飾品だ。
語れば語るほどどんどんと落ちていくというのに、なんとか俺を言いくるめたいのか、マナは喋るのを止めない。
マナが楽しそうだから別にいいんだけどな。
「まーちゃん、このネックレスどうです?」
「まーちゃん!?」
マーちゃんというのはもちろんマナの事である。
上司をこのような愛称で呼ぶのはどうかと俺も思うのだが、場所が場所なだけに名前で呼ぶわけにはいかない。俺のエシュドと言う名前ならばまだしも、マナ・デストラーラという名前は魔王の名前として広く知られすぎている。
どこにマナの名前を知っている人がいるか分からないのだから、マナの名前は出さないに限る。
「このネックレス、まーちゃんに似合うと思うのですが」
「え、なになに? あ、可愛い!」
マナのことを見ていれば見ている程、イメージがどんどんと崩れていく気がする。
俺が見つけたネックレスを見てまるで普通の少女の様に目を輝かせるマナ。こんなんでも、一応魔王で人類の敵なんだよなぁ。
というか、全く全く取り繕えてないぞ。俺に隠したいと思うのならば、もうちょっと取り繕ってほしいものだ。
もうとっくにマナが偵察とかそんな大層な理由じゃなくて、ただの観光で来たということは察しがついた。
そもそもだ。偵察目的ならば魔王本人が行くんじゃなく、暗部に任せるのが普通だろう。魔王自身が危険を冒して敵地に赴く必要などどこにもない。
魔王軍は魔王がやられてしまったら一気に崩壊してしまうんだからな。ただでさえ、魔族たちは統率が取れないみたいだし、まとめ役が居なくなったらばらばらになること間違いなしだろう。
ただ、人間の街に観光だなんて魔王として示しがつかないもんな。だから部下には内緒でここに来ているからいつもは近くに居るはずのヴァルモダすらも居ないのだろう。
「まーちゃんに大変お似合いだと思いますので、こちらは俺がプレゼントさせていただきます」
「え、エシュド? そんな、悪いよ」
「いえ、俺がそうしたいので。じゃあ、おじさん、このネックレスください」
「あいよ」
俺の言葉に困惑している様子のマナ。
様子を見ていたが、欲しそうにしてはいるものの、俺が近くにいるせいで買いにくそうにしていた。
かといって、観光目的だとしても魔王を街中で放置して離れるわけにもいかず、プレゼントとして渡してしまうことにした。
勇者パーティーのメンバーが魔王にプレゼントとはかなりおかしな状況だなとちょっと笑えてしまう。実際は笑い事じゃなく、国にバレたら即刻首を斬られてしまうほどの愚行なのだが、今はこれが正解だと思うからそれでいい。
俺の行動の正解は俺が決めるんだから。
ネックレスを店員から受け取り、勘定をする。
「彼女さん、大切にしてやれよ?」
「ふえっ!?」
「はは、わかりました」
「エシュド!?」
俺の回答に目を丸く見開いて顔を真っ赤に染めるマナ。
正直、俺がユイとマナの間に挟まるということは絶対にあってはならないことなのだが、この状況ではああ答えるのが一番何事もなく乗り切れそうだったもので、仕方がなく答えた。
男女二人で行動しているということは、そう思われても仕方がないことだし、ペアルックで一緒に行動しているということは恋人か冒険者パーティーの仲間なのかのどちらかという場合が多いのだが、恋人じゃないと答えて深堀されても面倒だからな。
ただ、こう答えたことによって店員のおっさんに微笑ましそうに見られるというのが居心地が悪かったため、マナの手を引いて足早にこの場を去った。
「もう、エシュド。私たちはそういう関係じゃないでしょ。私とあなたは上司と部下!」
「わかってますよ。ただ、あの場ではああいう風に答えた方が怪しまれずに済むんです」
「でも、部下と恋人だなんて…………絶対ダメなんだから!」
「はいはい。じゃあ、これネックレスです。お似合いだと思いますので、ぜひ」
「…………ありがと」
マナはちょっと納得がいってない様子だったけど、純粋に俺の厚意は受け取ってくれたみたいで、ネックレスを受け取ってくれた。
ネックレスを受け取ったマナは最初の内は俺がマナの言葉を流したことに不機嫌な様子だったけど、ネックレスを眺めているとだんだんとマナの表情に笑顔が戻ってきた。
やっぱりマナは魔王じゃなく、人間として生まれていたらかなり男たちに人気になっていただろうなというほどの美少女なんだよな。魔王だからこそ俺たちは敵対してしまっているわけであって、もし魔王じゃなくて人間同士だったら俺たちの関係性ってどうなっていたのだろうか。
魔王じゃなかったらそもそも俺たちは出会ってすらいなかったのかもしれないな。それだとちょっと寂しいかもしれない。
いや、魔王じゃなくても俺たちは歩み寄る手段というのが本当はあるんじゃないのか?
現に俺はこうして正体を隠してはいるけど、人間の身でマナとこんな風に接することが出来ているし、マナだって人間の街に観光に来てだいぶ人間に歩み寄っているように見える。
本当に俺たちは戦わなきゃいけない運命なのだろうか。そもそも、どうして俺たち人間と魔王軍は戦争なんてしているのだろうか。
きっかけは何だったんだろうか。
今のマナを見ていると、どうにもマナが人間を滅ぼそうとしているようには見えない。それに、マナに見せられた魔痕。
確かに魔族たちは人間の命を多く奪っているかもしれないけど、人間だって魔族の命を奪っているんだよなっていうのを見せつけられた感じがした。
人類が一方的に被害者意識を持つというのもちょっと違う気がしてきたんだ。
俺たちは分かり合えないんだろうか。
「ねぇねぇ、エシュド。どうかな?」
「え、あぁ、大変お似合いですよ」
俺が渡したネックレスを付け、大変うれしそうにはにかみながら一回転するマナ。
その姿を見ていると『本当にマナが討伐されなきゃいけない理由は本当にあるんだろうか』と、そんな冒険者としてあるまじき考えが浮かんでくるのだった。




