4-18『観光魔王様!』
フードがふわりと揺れた瞬間、俺はこの目でしっかりとその姿を捉えた。
魔力こそ巧妙に隠蔽しているからか、全く気が付かなかったが、フードの中には特徴的な紫色の髪と角が見えた。
角は小さく出来るけど、完全に消失することは出来ないようで、それを隠すためにフードを深々と被っているらしい。
どうしてこんな街中にマナが居るんだよ。
門番は実力者だし、街中にもかなり強い奴らがわんさかいるはずだと言うのに……いや、だから油断しているのか。
そう言えば俺とルリハが来るときも冒険者カードの提示を求められないというザル警備だったしな。
あいつら……。
だが、そんな魔王がどうしてこんなところで観光者じみた行動をしているんだ?
俺は気づいてしまったからあれだけど、どこからどう見ても観光に浮かれている少女にしか見えない。
だからこそ、誰も疑うことすらしないんだろうけど。
それにしても、マナの奴、俺だって言うこと気がついてなかったな。
いや、そう言えばこの姿でマナと会うのは初めてか。前に勇者パーティーとマナが遭遇した時、俺は魔王軍のエシュドとしてマナと一緒に居たからな。
ハルトの存在を知らなくても無理はない。
それにしても、目的は何だ?
俺はマナがそう安易に街に攻め込んだりしないというのは理解してるし、いつも一緒にいるヴァルモダや他の魔王軍の連中も近くに感じないところから考えると戦闘目的じゃないというのは分かる。
だとしたらなんなんだ?
……ちょっと確かめてみるか。
俺は一度退店し、エシュドに変装した上でその姿を隠すために同じようにフード付きのマントを羽織ってフードを深々と被った。
これで完璧だ。
再び店内を覗いてみると、お目当てのヘアピンを購入できたマナが嬉しそうに商品の入った袋を抱きしめて店から出ようとしているところだった。
そこで俺はマナに声をかけた。
「魔王様、いったいこんなところで何を」
「うひゃああああああっ!?」
驚いたのだろう。
俺が声をかけた瞬間、ジャンプする勢いで身体を跳ねさせ、震わせた。
そして恐る恐る俺の方へと振り向くマナ。フード被っているせいで俺が誰なのかわかりかねているのだろう。
警戒した様子で俺のことを見てきているため、マナには見えやすいようにして少しだけフードをめくる。
マナは呆けてしまった。
久しぶりにこのアホ面を見た気がする。どうやら、ここに居るはずがないエシュドが突然現れたことでマナの理解のキャパを超えてしまったのだろう。
口が半開きになっているため、ここに来るまでに買った揚げ野菜をその口の中に放り込んでやると、無意識になのか咀嚼をし始めた。
やがてその瞳に正気が戻ってきて、ようやく俺に食べ物を食べさせられたことに気がついた様子。
「お、美味しい。香ばしくてサクサクとしてる」
「お気に召されたようで、良かったです」
「って、そうじゃなくて! ちょっとこっちに来て」
「え、あ、魔王様?」
正気に戻ったマナは慌てた様子で俺の胸ぐらをつかみあげ、店から逃げるようにして出ると、物陰にまで連れて行かれて、手と足で壁ドンをされてしまった。
俺よりもずいぶん小さい体躯だから俺を押さえつけるために頑張ってるという姿が可愛い。
マナは息を切らして大層焦っている様子。あの様子だったら、そんな部下にまでバレたらマズイような悪事を働こうとしていたというわけじゃないだろうに、エシュドが現れてなんでそんなに焦ってるんだよ。
「はぁ……はぁ……、え、エシュド……なんでここに居るのよ」
「いや、なんというか……俺暗部ですし、色んな街の情報を集めようかと。いわば潜入捜査ですよ」
一応俺は暗部に所属しているわけだから、この言い訳ならば不自然じゃないはずだ。
「そ、そう……ご苦労さま」
「それで、魔王様はここで一体何を?」
「いや、それはその……」
逆に問い返すと、マナはわかりやすく狼狽え始めた。
そして何かを思いついたかのようにパァッと顔を輝かせると、一旦俺から離れてビシッと俺に指を突きつけ、言った。
「そう、私もあなたと同じ。潜入よ!」
「へぇ……潜入ねぇ」
絶対俺が今言った言い訳を参考というか、パクって言っただろ。
俺にはただ潜入していたようには見えなかったんだけどなぁ。むしろ、魔王軍としての仕事を忘れて羽根を伸ばしているかのようにしか見えなかった。
それに、マナの手に抱えられた今この店で買ったヘアピン入りの袋。そして、腕に下げられた他の店で買ったと思われる土産の束。
これが潜入だって? ヴァルモダでももうちょっとマシな嘘を尽きそうな気がするんだけど。
ただ、ここでツッコむのも可愛そうだし、そっとしておいてあげるか。恐らく魔王としてのプライドのようなものもあるんだろう。
俺的にはマナがただ観光だけをする目的でここに居るんだとしたら何も文句はないしな。
マナがこの街で暴れでもしない限り、俺は何もする気はない。暴れるというのなら、流石に本業は冒険者と言う立場上、マナを止めざるを得ないんだけどさ。
「み、み、見なさいエシュド。このお面を! これを被ることによって力が数倍にも上がるらしいわ。道理で人間たちが私たち魔族に対抗できると思ったらこんな魔道具があったのね!」
「はぁ、そっすか」
確かに魔道具の中にはそういうたぐいの強化魔道具はあるっちゃあるけど、それに関してはただのお面だよね。
必死に観光していたのを誤魔化してるみたいだけど、結構バレバレだぞ。
だって、それからは魔道具特有の魔力を何も感じないからな。
これくらいのことは赤子でも分かりそうなものなんだけど、目に見えて混乱して目をぐるぐると回しているため、冷静な判断ができなくなってしまっているのだろう。
テンパルの早いなぁ。魔王領を案内してくれていたカリスマを感じるマナは何処へ……?




