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4-11『秘密の特訓』

「ご、ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい」


「いや、大丈夫。驚かせちゃったのはこっちだし」


 まぁ、こんな夜の森で、自分ひとりしか居ないと思っている時、急に声をかけられたら驚くのは当然のことで、それを考慮しなかった俺が悪い。

 もうちょっと配慮すべきだったなと反省する。

 俺の前で必死に頭を下げるハクちゃんはまるで怖い人にぶつかってしまったくらいに迫真の様子で謝罪してきている。ワンチャン、殺されてしまうんじゃないかとでも思っているのだろうか。


「でも、びっくりしたからといって人を殴っていい理由には……」


 あわわわと目をぐるぐる回しながら必死に謝ってくるハクちゃん。

 どうしたものかなと思い、考えを巡らせているとさっきまでハクちゃんが何度も殴っていた木が目に止まった。

 その木にはさっきまで俺が居た角度からは見えなかったけど、確実に削れている跡が出来上がっていた。

 やっぱりこっそり頻繁にここで一人で特訓をしていたのか。


「ねぇ、ハクちゃん。どうしてこんなところで特訓してたの?」


「え、いや……その……」


「なにか言いにくいことが?」


 俺が問うとしどろもどろになり、静かに首を縦に振って言いにくいということを肯定した。

 ハクちゃんはなにか理由があってここに来て特訓をしていたのだろう。それもかなりの回数通っているらしい。

 木を殴っているせいか、ハクちゃんの手から出たであろう血痕が木に染み付いている。彼女の努力の証なのだが、ルリハの妹ということを考えるとちょっと心配になってきてしまう。


「ハクちゃん。特訓するのは立派なことだと思う。大切なことだと思う。だけど、こんなところで特訓をしていたら危ないからダメだよ。両親も、それにお姉さんだって心配しちゃう」


「はい……」


「どれくらいの頻度でここで特訓をしてるの?」


「え、あと……毎日……です」


「え、そ、そんなに!?」


「ひうっ!」


 流石に毎日だとは思わなかった。

 毎日ここで特訓をしていたのなら、今の今まで無事だったのが奇跡だと言わざるを得ない。街の中だって人目につきにくい場所は物騒なんだからな。

 驚きすぎて思わず大きい声を出してしまうと、怒られると思ったのかハクちゃんは小さく悲鳴を上げてしゃがみ込んで縮まってしまった。


 どうしたものかなぁ……。

 俺としては心配だからルリハたちの目の届くところで特訓をしていてほしいところだ。しかも、デスタさんたちに魔力の使い方を教えてもらえる可能性だってある。

 だが、ハクちゃんの事情も何も分かっていない状態で、俺のエゴを押し通すべきなのかと言う疑問もある。


 ここで注意して家に帰すのは簡単だ。ハクちゃんが嫌がっても簡単に制圧することだって出来るだろう。

 だが、俺はそれをやりたくない。

 強くなりたいという気持ち自体は俺も分かるから。

 強くなりたいからこそハクちゃんはこんな夜中に人目を忍んで自主練に励んでいたんだろう。その気持ちは誰にも止める権利なんて存在しない。


「ごめんなさい……もう止めますから……」


 ハクちゃんの表情はすごく悲しそうだった。その表情を見て過去の情景が重なる。

 まだ実家に居た頃の事。こんな感じの表情をする女の子を見た。

 あの時の俺は何かをする力なんて無かったけど、今の俺だったら立派な冒険者だ。何かあった時の責任は俺が取ることが出来る。

 なにより、何も起こさせない。


「え、お兄さん?」


「え、あ、ごめん」


 気がついたら俺は頭を撫でてしまっていた。

 無意識だとしてもこれは良くなかった。反省だ。


「いえ、大丈夫ですが……どうしたんですか?」


「うん、ハクちゃん」


「は、はい!」


「俺が魔法の使い方、教えてあげよっか」


「ふえ?」


 その言葉は恐らく想像もしていなかったのだろう。

 ハクちゃんの口からは呆けたような声が漏れた。俺もこんな選択肢を取ることになるとは思ってもなかったし、誰かに魔法を教えるなんてこと自分がしようと思うなんて無いと思ってた。

 放っておけなかったんだ。


 もちろん、このまま放っておいたら間違いなく俺の目も盗んで特訓を続けようとすることは目に見えていた。

 だからそれを止めたかったというのもあるけど、多分俺はハクちゃんを過去に重ねているっていうのが一番大きいんだろうな。


「い、良いんですか!? でも、お姉のお友達にそんな……」


「いや、良いって。俺が言い出したことなんだからさ。遠慮しなくても大丈夫」


「っ! はい、よろしくお願いします!」


 俺とハクちゃんの関係地は薄い。

 今日出会ったばかりだし、何だったら今初めて喋ったくらいだ。だから、家族に言えないようなことでも俺にだったら言いやすいだろうし、俺だったら両親にバレないようにハクちゃんに魔力の使い方を教えてあげることが出来る。

 今まで通りの使い方じゃ、いつかハクちゃんの身体が壊れてしまうだろうから。


 さっきまでの敵意の籠もった視線はどこへやら。

 今は全くと言っていいほど敵意が無く、安心したようなキラキラとした笑顔を俺に向けてきてくれている。


 関わりに行くつもりはないとか行っておきながらガッツリ関わっちゃったな。

 これ、ルリハたちにバレたら俺もただじゃ済まなそうだ。だから、俺の身のためにも絶対にルリハたちにはこの秘密の特訓をバレないようにしなければ。

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