4-10『謎の音』
俺は空き部屋の一室を貸してもらい、そこに布団を敷いて毛布をかけて寝ることにした。
使われていないと言っても、定期的に掃除していたようで埃一つ無い清潔な部屋だ。
まぁ、なんだかんだ今日は新鮮な気持ちで良かった。友達の家に遊びに行くみたいなことを今までやったことがなかったから、初めての体験だった。
それにしてもルリハの両親はルリハのことを本当に愛しているみたいで微笑ましかった。
俺の家族は多分まだ生きている。
多分というのも、賢者をバックレてから一度も会いに行っていないからだ。だから今、みんなが何をしているのか、どこに居るのかも全くわからない。
こっそり手紙くらいは送っても良かったかもしれないけど、当時はそこまで気が回らなくて、そのまま数年が経過しちゃったから今更手紙も送りにくくなってしまっている。
俺はとんでもない親不孝者だな。
父さんと母さんは俺を愛してくれていたと思う。
冒険者学園に行くって言って家を出るときも、泣いて送り出してくれた。そして辛くなったらいつでも帰ってきていいって言ってくれていた。
せめて両親が死んでしまう前にはまた顔を見せに生きたいものだ。それに、ちょっと気になることもあるしな。
「ん?」
そうして床につき、ちょっといつもよりも早めだけど寝ようとしたその時、ドンッと言う鈍い音が外から聞こえてきた。
明らかになにか強い衝撃があったような音で、自然発生し得ない音の部類に聞こえたため、俺は寝ようとしていたのに、意識が完全に覚醒した。
音的には小さいからちょっと離れた場所だろうか。
少なくとも、この家になにか危害が及ぶようなことはないと思うくらいの距離ではあるのだが、それでも気になってしまう。
音の方角的に森方面と言ったところか。多分、塀の内側で音がなっているのだが、もしこの音を鳴らしている正体が魔物だとしたら街の内側に魔物が侵入しているということになるから、大問題だ。
そうなるとルリハにも危険が及ぶ可能性がある。
「この家にはお世話になったし、様子を見に行ってみるか」
もし魔物なのだとしたら戦わなければいけない。
俺は身構えつつ、他のみんなを起こさないようにそろりと家から出ると、音の聞こえた方面へと向かった。
この場所だけ陽の光が下りてくるとは言え、それでも木々が生い茂っているのだから、夜になると真っ暗になってしまう。
周囲から奇襲をされたとしても気づきにくい状況だから、普段よりも警戒して先に進む。
「ん、あれは……」
少し歩くと、ちょっと木が多めに生えている場所にたどり着き、そこには小さい一人の人影が見えた。
そのため、俺は慌てて物陰に隠れてその人物の様子を観察することにした。
その人物は一本の木の前で拳を構えると、拳に『身体強化』を付与し、そしてその拳を木に向けて思い切り叩きつけた。
ドスンと言う鈍い音が鳴り、ちょっと木が揺れる。
だが、威力的にはその程度のもので、木が折れたり抉れたりなどは一切していないようだ。この森の木が特別強いというわけではなく、そこまでの威力を発揮できていないのだろう。
「はぁ……はぁ……やぁっ!」
掛け声とともに何度も何度も木を殴りつける。
恐らくあれは特訓をしていると言ったところか。夜の森で一人秘密の特訓。それが俺が聞いた衝突音の正体と言ったところか。
それにしても、あのシルエット。どこかで見たことがあるような?
そんな気がしてよくよく目を凝らしてその人物を見てみると、だんだんとこの暗さにも目が慣れてきたようで、シルエットが段々と色づいてあの人物が誰なのかが分かってくる。
そして見えてきたのは青い髪、小さな体躯。まるでルリハを小さくしたかのような少女。
間違いない、ハクちゃんだ。
どうしてこんな夜中に一人こんな人目につきにくいような場所で特訓をしているんだろうか。ここは街の中とは言え、子供が一人でこんな場所に居たら誘拐してくれと言ってようなものなんだが。
メルフィーさんとデスタさんは気がついているんだろうか。
特訓をするのはいいんだけど、一人で人目につきにくい場所で特訓するのは特訓するのは危なすぎる。
「それにしても……」
恐らく独学なのだろう。
魔力の流れに無駄は多いし、その力の全てを拳に伝えることが出来ていないから、思ったほどの威力が出ていないという印象だ。
更に言うと、拳に力を溜めて木に打ち付けるまでの間にほとんどの魔力が霧散して叩きつけるまで威力を保てていない。
恐らくまだ魔力の扱いも全然習得できていないのに魔導書でも読んで魔法を使ってみようとしていると言った所か。
基本ができていないのにそこまで上手く魔法が使えるわけがない。
冒険者学園に行ったら一番最初に習う部分だし、父さんには俺に冒険者の才能があると分かった後、慌てて魔力の使い方を教えられた。
魔力をちゃんと使えるようにならないと、魔法が暴発するかもしれないからだそうだ。
ただ、それでも俺は使える魔力量が多すぎて『ファイアボール』の出力調整がうまく行っていないわけだけど。
あのままじゃ一生かかっても上手く魔法が使えるようにならない気がする。
ルリハに手を出すなと言われたわけだけど、これは別に手を出しているわけじゃないから問題ないよな。
それに、このまま無視して帰って、なにか起こった時に救えたはずなのに何もしなかったという罪悪感を抱えるくらいなら、ハクちゃんに声をかけてみることにする。
「ねぇっ」
「ひゃああああ」
「あぐふっ」
ハクちゃんは相当集中していたのだろう。
俺の接近にも気がついていなかったようで、俺が声を掛けると肩を大きく震わせて悲鳴を上げると、きれいなアッパーを俺の顎にキメてきた。
咄嗟だったからだろう。腰が入っていて良いパンチだった。思わず俺も仰け反ってしまったほどだ。
「へ? は、はわ、お、お兄さん!?」
「よ、ハクちゃん、で良いんだよな?」
これが俺、ハルト・カインズとハク・ベータテッドの初めての会話だった。




