4-9『同行の理由』
「ハルト君、美味しかった?」
「はい、それはもう美味しかったです」
「ふふっ、それはよかったわ」
俺たちはメルフィーさんが作ってくれたカレーを食べ終え、ゆっくりとした時間を過ごしていた。
カレーは本当に美味しかった。
カレーも暫く食べていなかったからな。最後に食べたのがどれくらい前だったか忘れてしまったくらいだ。
この料理はあまり広くに広がっているわけではなく、この森は色々なスパイスが採れるため、オルターンではメジャーな庶民食となっているようだ。
一度俺もスパイスをぶち込んで煮るだけだろとナメて作ったことがあるのだが、それはそれは酷いものが出来上がった。
スパイスがケンカしていて、何の味がしているのか形容しがたいような味となったうえ、食材の旨味が全て死んだ。
あれ以来、もう二度とカレーには手を出さないって誓った。
それにしても、なんでルリハは俺を家に連れてきたんだ?
別にここに来るには俺に馬車を運転させずとも一人で来てもよかったし、俺は俺で宿を探していたんだから、適当に俺の宿を見つけた後解散でよかったはず。いつもそんな感じだから、そういう話になっても俺は特に気にしなかっただろう。
俺のことを家族に紹介したかったというわけでもないだろうし、俺としては宿代が浮くからありがたいんだけどさ、いくら家族が居るからって男を家に泊めることの危うさは理解していることだろうし。
そんなことを考えながら横目でルリハのことを見ていると、ルリハの方から周りに聞こえないように小声で声をかけてきた。
「ねぇ、ハルト」
「なんだ?」
「今日は私のわがままに付き合ってくれてありがとう。そしてごめん」
「なんだよ、今更だな。気にしてないから別にいい。なんだかんだ楽しんでるしな」
「そう……」
正直、ルリハに付き合わなかったとしても今日はただただぶらぶらすることしかやることがなかったから別にいい。
……この街に来ることはなるべく避けたいことではあったけどな。だが、ルリハに付き合うことは嫌じゃなかったし、たまにはプライベートに付き合うのも悪くはないと思っている。
だから、ルリハが気にしている程俺は気にしていない。
「本当は一人で来ようと思っていた。でも、勇気が出なくて」
「どういうことだ?」
「私、適正属性が火なんだよね。だから、こんな森の中で戦うには適していない。だから本当はこっちで修行して冒険者を目指すという話だったけど、私は無理を言って王都の冒険者学園に通うようになった。立派な冒険者になったら帰ってくるって言って」
「つまりあれか、まだ自分が立派な冒険者になったとは思えていないのに無理を言って出て行った自分がこの街にのこのこ戻ってくることに不安を覚えていたのか」
「…………」
ルリハは否定も肯定もしない。
だが、その目が俺の言葉を肯定していた。いつもクールでパーティーを引っ張っていく彼女も不安になってしまうことはあるのか。
でも、確かにあのパーティー内では精神年齢が比較的高いから忘れかけていたけど、彼女もユイと同じで冒険者学校を卒業したばかりの少女なんだよな。そりゃ不安になったり自信が無くなっちゃうことくらいあるよな。
彼女は強く振舞おうとしているだけだ。あのパーティーで自分まで自信を無くしてしまったら引っ張っていける人が居なくなってしまうから。
ルリハがどうして俺を一緒に連れてきたのか分かったような気がする。
ルリハは不安だったんだ。一人で帰って何か言われてしまうかもしれない。勝手に出て行ったくせになにのこのこ帰ってきていると叱責されてしまうかもしれないと……。
だから俺についてきてほしかったんだ。一人帰るのが不安だから、せめて誰かと一緒に居たかったんだ。
そこでメンバーの中で唯一いち早く完治した俺に白羽の矢が立ったということか。
なら、最初からそう言ってくれれば、俺も鬼じゃないんだから素直に協力したのに。素直じゃないな……。
「ルリハ、どうやらお前が思っている以上にお前の家族はあったかいようだぞ。いい家族だな」
ルリハが帰ってきたことをあれほど喜び、ルリハのランクを聞いて驚いて歓喜したり。
ここまで騒がしい家庭も他にはそんなにないだろう。俺はちょっとうらやましいくらいだよ。
「うん」
ルリハは静かに首肯した。
来るまでは不安だったようだが、実際に会ってみてその心配が杞憂だったことに気が付いたらしい。ルリハの両親はこれほどルリハのことを愛しているのだから、帰ってきたらそりゃ喜ぶだろう。
なら、もう俺がここに居る必要は無いように思えるが、さすがに厚意で誘ってくれたのに、それを無下にするのは失礼だから今日はお世話になるとするか。
それにしても、さっきから何も言わずまるでお人形さんのようにデスタさんの隣に座っているあの子は誰なんだろうか。
なんだか心なしか俺のことを観察しているかのような視線を俺に送ってきている気がする。状況的におそらくあの子はルリハの妹さんなんだろうけど、どうしてさっきから俺のことをじっと見てきているんだろう。
そして俺が目を合わせようとすると、プイっと目をそらされる。
さっき、俺がルリハの彼氏だと勘違いしていたみたいだし、値踏みでもしているのだろうか。
「ルリハ、あの子は?」
「ん? あぁ、私の妹。名前はハク。あなたと同じく無属性魔法が得意な子よ」
「そうなのか」
「あ、興味が出たとしても、あの子に手を出したらただじゃ置かないわよ」
「いや、そんなつもりはないから心配しないでくれ」
「それならいいのだけど。私も仲間と敵対することになるのは嫌だから」
確かに同じ無属性が得意と聞いて興味が湧いたのはそうだけど、それは親近感というやつで別にどうこうしようというものは無い。
俺はあの子が関わろうとしてこない限り、一定の距離感を保ち続けるつもりだ。それがこの家で平穏に生き延びる術というものだろう。
それに、あの子からはちょっとした敵意のようなものも感じるんだよな。ただ、それが殺意みたいな危険な物ではなく、ただの対抗心のような感じだから、別に気にするほどのものではないだろう。
大方、知らない人が自分の姉と仲良さそうにしているのが気に入らないんだろう。
「ルリハとハルト君はどういう関係なんだっ?」
俺とルリハがこそこそ話をしていると、それを見たデスタさんが問い詰めるような口調で言ってきた。ちょっと威圧感もあることから無意識に『喝』を使ってしまうほどに動揺しているのかもしれない。
さすがにこの状況ではルリハもユイの時の様にふざけるなんてことはせずに、口を挟まないで俺が回答するのを待っている。
聞かれているのは俺だ。ルリハが答えても庇っていると思われるかもしれないからな。
とにかくごまかしていると思われないように冷静な口調で答えた。
「俺とルリハさんは仲間ですね。それ以上でも以下でもなく」
「だが、それにしては随分と仲がいいみたいだが?」
「仲間と仲良くして何か悪いのでしょうか?」
「うぐぐ、それはそうだが」
デスタさんは俺とルリハの関係が気にあるというわけではなく、とにかく娘に近づく悪い虫が気に入らないだけだろう。
まぁ、これだけ可愛い娘が外に出て言って男と一緒に帰ってきたってなったら身構えもするよな。
「お父さん、ハルト君が困ってますよ。その辺にしておきませんか?」
「う、うむ……」
メルフィーさんが止めたら素直に頷いた!?
この人、強面でこの家で一番権力が高いように見えるけど、意外と権力的には低いのか? どうやらメルフィーさんには逆らうことが出来ないらしい。
「ごめんなさいね、ハルト君。この人のことは木にしないで今日は自分の家だと思ってゆっくり休んでいってね」
「はい、ありがとうございます」
ただ、どうしてもここはルリハの家だということを考えると落ち着けないから、結局休めそうにもないんだよな。
まぁ、野宿をするよりはマシだろうけど。
そんなやり取りをしつつ、時間は過ぎていった。




