4-8『魔力回路』
「あ、そうだ。聞いてよあなた。ルリハったらすごいのよ。もうBランクになったのよ、さっき冒険者カードを見せてもらったから間違いないわ!」
ちょっと空気が軟化してきたところでメルフィーさんが興奮気味にデスタさんへ報告すると、デスタさんも目をカッと見開き、ルリハへ視線を向けた。
「ルリハ、それは本当か!?」
「うん、学校をBランクで卒業した。ちなみにもうちょっとでAランクに昇格予定」
冒険者カードを見せてドヤ顔を披露するルリハ。
そう、エイフィルを討伐したらユイ、ルリハ、メルバードの三人はAランクに、俺はBランクに飛び級させてくれると言う話だったが、俺たちはまだ昇格していない。
だからルリハの冒険者カードに記載されているランクはまだルリハはBで俺はDなのだ。
しかし、ルリハの両親はBランクと聞いただけでも喜びようは凄まじかったものだから、Aランクになるなんて聞いた暁にはどうなるか容易に想像できる。
「なに!? ルリハがもうAランクだと!」
「流石私たちの子供ね! 将来はトップ冒険者よ!」
「直ぐに俺たちも超えていくかもしれないな!」
さっきまで厳かな空気を出していたデスタさんはどこへやら。すごく楽しげに笑っている。そしてメルフィーさんもウキウキとスキップをしながら台所へ向かっていき、カレーを温め始めた。
すごく賑やかな家庭だな。ちょっとうらやましい。
俺の父さんと母さんは元気にしてるかな。
「今日はいっぱい食べなさい! あ、ハルト君も遠慮せずに食べていいからね」
「うん!」
「ありがとうございます」
「そうだ、ルリハ。父さんたちにルリハの冒険の話、聞かせてくれないか?」
「いいよ。聞いて驚かないでね」
ルリハはにやりと笑い、冒険者学園を卒業してから今の今まで何があったのかを家族に語り始めた。
その口調からルリハは本当に今までの冒険を楽しんでいたのだと分かるほど、ユイとの冒険、俺とメルバードが加わったことなど色々なことを興奮気味に話し始めた。
ルリハはいつも俺たちの前ではクールだから、こういう一面があるんだということを初めて知った。
ユイは知ってるかもしれないが、ほとんどの人は知らないルリハの一面。それを知れてちょっと優越感がある。
流石に俺が内緒にしてくれと言ったカルマが助けに来たことや、ガルガのことに関しては話さなかったが、それを抜きにしてもこの一ヶ月半くらいの間に色々あったよな。
エイフィルとの戦いの後、俺たちは全員重症を負い、ユイとメルバードは未だに診療所から出ることすら叶わない状態になっている。
そのため、俺たちは事実上、活動休止状態だ。
でも、ギルドマスターは早く回復した俺とルリハにはユイとメルバードよりもひと足早くランクアップをしようとしてくれたのだが、俺とルリハがその報酬の保留をお願いした。
やっぱりどうせランクアップするならば、みんな一緒の方が良いだろうという考えだ。
俺に至っては別にランクアップを急いでいたわけでもなかったからな。どっちでもいいっていう感じだ。
だからユイとメルバードが完治してから改めて俺たちはランクアップをしてもらう。
ちなみにエイフィルは冒険者たちが運んで牢に入れてくれたらしいが、バルゼットの切り札が効いているからピクリともしなかったらしい。
そして今も全く微動だにしていないようだ。
それなら良いのだが、真に討伐できたわけじゃないというところがちょっと怖いところではある。
何かの拍子に効果が切れてしまったらエイフィルは再びこの王都で暴れ出してしまう。バルゼットの言い方的にそんな心配は要らないんだろうけどな。
「魔人と戦ったのか!?」
「それでよく無事で済んだわね」
「あはは、運が良かったみたい」
あれは確かに運が良かった。
バルゼットが丁度俺の監視に着いていたから俺の手助けをしてくれたという幸運があったからこそ俺たちはエイフィルに勝利できた。
あの勝利は偶然に偶然が重なった結果の産物。
いずれはあれを必然にしていきたいものだ。
「それで、無理に超級魔法を使っちゃって……魔力回路がおかしくなっちゃったみたい。暫く魔法を使うなって医者に言われた」
「そりゃそうだ。ルリハの魔法の威力は凄まじいが、ルリハの魔力回路は超級魔法に耐えきれるほど成熟していない。成長途中だ。その状態でいきなり超級なんて使おうとしたら当然そうなる。杖があったからまだその程度で済んだのだろうが、無かったら完全に魔力回路が破壊されてしんでいたかも知れない。超級魔法はもっと実力をつけてから使うようにしなさい」
「はい……」
確かにルリハの魔力は凄まじいものがある。
あのレベルの威力を出せる人が世界にどの程度居るかっていう話だ。だが、それは自分の身を滅ぼしかねないものでもある。
ルリハの場合、魔法自体の質は良いのに、それを使う器が弱々しい。この魔力回路は年齢とともに成熟していくため、直ぐにどうこうというのはかなり難しいだろう。
俺も俺で、あんまり超級魔法に適した魔力回路を持っているというわけではないから、上級魔法で満足しているというのが現状だ。
鍛える方法が無いわけでは無い。
何度も魔力回路を破壊し、より強靭なものとして再生するというもの。ただし、一歩間違えれば市の危険性があるというハイリスクな方法になってしまうため、この方法を取る人は滅多にいるものじゃない。
後は魔力回路を暴走させたりとかか。ただ、魔力回路が暴走した後、もとに戻れるとは思わないほうが良い。
魔力回路が暴走したら自我を失って魔物と大して変わらない存在となってしまう。その状態になれば超級魔法を使うことだって出来るが、もとに戻れないのなら論外だ。
つまり、一番安全で確実なのは身体が成長するのを待つことということだな。
「それにしても魔人かぁ……嫌な予感がするな」
「えぇ。暫く出没していなかったのにここに来て魔人に動きがあった。なにか裏がありそうな気がするわね」
「あぁ。俺たちも警戒しておこう」
でも、あんな魔人がそうそう短期間に何度も出てこられても困るんだけどな。
あいつらは一体出るだけで賢者出動クラスの強敵だ。それこそ簡単に街一つ終わらせることだって出来る。
エイフィルもやろうと思えば出来たはずだ。だが、エイフィルは俺たちを殺すことに固執してくれたから街を破壊されずに済んだだけのこと。
この短期間に二回も魔人に遭遇したのだから、もう暫くは遭遇しないことを願うばかりだ。




