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4-7『ベータテッド家』

「何言ってるんだよ、ルリハ! なんでそうなるんだよ」


「なんでって、仲間だから?」


「仲間だからいいって問題でもねぇだろ!」


 俺は思わず頭を抱えてしまう。

 確かに俺とルリハは仲間だ。だが、それ以前に男と女でもある。ひとつ屋根の下で夜を明かして良い理由にはならない。

 宿とは違うんだ。


 それに、俺の存在はメルフィーさんにとってイレギュラーと言えるだろう。ルリハが帰ってくるのは家族だからまだ大丈夫かもしれないが、俺が一緒に泊まるなんて迷惑がかかってしまう。

 あとついでに、このことがバレたらユイにまた俺とルリハが付き合っていると勘違いされても仕方がない。今度こそ言い訳のしようがない状態になってしまう。


「はぁ……せっかく家に帰ってきたのに俺も一緒だなんて、その……邪魔じゃないか? 俺のことなんて想定されていないだろうし、迷惑になる」 


「なんてことを言うのよ」


 メルフィーさんこそ、なんてことを言い出すおつもりですか!?


「ルリハの仲間だったらみんな私たちの仲間みたいなものだから一緒に泊まって行っていきなさい?」


「いや、ですから」


 すごい剣幕で言ってきたメルフィーさん。

 それに押し負けないようになんとか反論をしようとしていると、メルフィーさんは俺の手首をがっしりと掴んで引っ張ってきた。。

 痛くは無いけど、さすがこの街の住民なだけあって非常に力が強い。その細い肉体のどこにこれほどの筋力があるのだろうか。それとも常に身体強化でも使っているのだろうか。

 だとしたら魔力量がえげつないことになるわけだが。


「ルリハの母親として、娘の仲間をこのまま返すわけには行かないわ。いつもお世話になっているのだから、今日は私たちにおもてなしをさせてもらいます」


 かなり頑張らないと振り解けないほどの力だが、ルリハの母親に怪我をさせるわけには行かない。

 俺は下手に抵抗することも出来ず、メルフィーさんに家の中へ引きずり込まれてしまった。

 廊下へ入るとリビングらしき部屋のドアから覗き込む一人の少女の姿が見えた。ルリハをそのまま小さくしたかのようで、雪のような白い肌に薄青色をした儚げな少女。

 まるで俺のことを観察するかのような瞳に思わず少女の方へ視線を向けると、少女と目があってしまい――


「パパ、お姉が彼氏さんを連れて帰ってきた」


 リビングに逃げ込むや否や、そんな最悪な言葉を父親らしき人物に叫び散らかしたではありませんか。


 これはマズイ。そう思っていると、リビングからドタドタと言う慌てた足音が聞こえ、そして稲妻を迸らせ、一人の人物がリビングから飛び出し、俺に飛びかかってきた。

 一瞬の出来事だった。

 俺はこの仕事をしているから、危機管理能力は非常に高く、いきなり襲われたら反射的にカウンターを仕掛けてしまうようになった。


 つまり、人影が飛んできたのを認識した瞬間、俺はその人物の腕を掴み、後ろに投げ飛ばしながら無防備となったその腹に足裏蹴りを食らわしてしまったのだ。

 蹴り飛ばされた人影はドアから屋外に飛び出していき、木から落下して地面に激突してしまった。

 そこで俺はようやく自分が何をやったのかに気がついた。


 何やってるんだ俺は。急に飛びかかられたのはそうなんだけど、相手も確認しないで蹴り飛ばすなんて。

 この家に居たんだからルリハの関係者である可能性が高いと言うのに。


 ルリハの関係者らしき人を蹴り飛ばしたことに焦っていると、ルリハがこの状況において最悪な一言をつぶやいた。


「お、お父さん……?」


「お父さん!?」


 どうやら俺が蹴り飛ばしてしまったのはルリハのお父さんだったらしい。


「す、すみません。反射的につい」


 慌てて俺は呆けて力が緩んだメルフィーさんの手を振りほどき、ドアから身を乗り出して、さっき自分が蹴り飛ばしてしまったルリハのお父さんの様子を伺う。

 今のは全力じゃなかったから、そこまで重症では無いとは思うけど、木から落下したんだから怪我をしていてもおかしくはない。


「む、むすめはぁやらんぞぉ。むすめがほしけりゃ〜おれをたおしてからいけぇ」


 定番の台詞ではあるが、その格好で言っても格好つかないと思いますよお父さん……。

 満身創痍の状態で言うルリハのお父さんに呆れながらも、俺は木から飛び降りてルリハのお父さんを回収。

 一応大きな外傷等は見当たらなかったけど、念の為『治癒(ヒール)』をかけておいた。


☆☆☆☆☆


 ルリハのお父さんを回収した俺は改めてルリハのご家族とテーブルを挟んで向き合っていた。


 俺の隣にはルリハ、そして正面には左からルリハのお父さん、ちっちゃいルリハ、メルフィーさんが並んでいる。

 本来だったらもっと気楽な感じで話したかったのだが、今この場にはとても重々しい空気が満ちている。


 カレーの良い香りがする。本来であれば空腹時にこの臭いは更にお腹が空いて仕方がないのだが、今この場においては臭いが気にならないほどに緊張感がある。

 どうしてこうなったんだ。


 主にこのプレッシャーを放っているのはお父さんだ。

 筋肉ムキムキで顔に傷があり、かなりの強面。Fランク冒険者だったらその眼圧だけで消し炭になってしまいそうなほどの威圧感。

 さっきの俺に飛びかかるために使った『雷瞬(ライジング)』もかなりの精度。ヴァルモダと同程度か、それを上回る程の発動速度。

 間違いなくこの人、Aランク以上の実力がある。


 正直言って今すぐこの場から逃げたいのだが、その前にとりあえず聞いて置かなければいけないことがある。


「あの……お父さん」


「貴様にお父さんと呼ばれる筋合いはない」


「えっと、ではなんとお呼びしたら……」


「この人、デスタ・ベータテッドって言うんです。ごめんなさいね。ルリハのお友達が初めて家に遊びに来たものだから、舞い上がっちゃってみるみたいなの」


 うふふふと笑うメルフィーさん。それとは対象的に自分の胸の内を勝手に明かされたせいか、デスタさんは顔を赤く染めていた。

 何この人、見た目によらず意外と可愛いな。

 それにしても――


「ルリハ、お前友達居ないのか?」


 小声で問いかけると肘で小突かれてしまった。


「私は王都の冒険者学校に行ってたから友達を家に誘う事ができなかっただけよ」


 いやぁ、今見ても友達が多いように思えないんだけどなぁ。

 多分友達と呼べるような人はユイくらいなものなのではないだろうか。だが、これを口にするとまたルリハを怒らせてしまいそうだから口を噤む。


「ではデスタさん。さっき落ちちゃいましたけど、痛みとかどうです? 一応『治癒(ヒール)』をかけておきましたが、まだ痛むのならもう一度かけますけど」


「もう痛みも無いむしろ蹴り飛ばされたことを忘れかけていたくらいだ」


 それはどうかと思うけどね!?


「一瞬でこれほどの『治癒(ヒール)』……お前は何者だ?」


「あ、そう言えば自己紹介してませんでしたね。俺はハルト・カインズって言います。娘さんとパーティーを組ませてもらってます」


「そうか……勇者パーティーの。それならこの能力の高さも頷ける」


「でしょ、ハルトはすごい」


 なんでお前が自慢してるんだ。

 ドヤ顔をキメるルリハに呆れつつも、仲間に褒められたことでちょっとうれしくなったのはココだけの話だ。賢者だった頃はそれくらい出来て当たり前っていう空気感が出来上がっていたからな。

 ルリハたちと接していると初心に帰れて本当に楽しいよ。


 ただ、俺はルリハたちに実力を隠してパーティーに入っているということがちょっと心苦しい。

 俺はいつか、ユイたちに本当のことを打ち明けることが出来る日は来るんだろうか。いや、多分賢者カルマの名がこの世界にある内は、打ち明けることなんてありえないだろうな。

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