4-6『ルリハのルーツ』
「着いた」
あれから数分、ルリハの指示通りに馬車を走らせ、一件の建物にたどり着いた。
他の建物と同様、ツリーハウスといった感じで、周囲にはあまり他の建造物が存在しないことから、落ち着いていていい雰囲気だ。
この木の上からなら眺めも良いだろう。
だが、この建物はどう見ても宿には見えない。看板やら何やらも何も無いし。
それに、ここに来るまでの道中で実は宿を通り過ぎていたことには気がついた。だけど、ルリハが進めと指示を出してきたからちょっと困惑したけど、指示通りにここまで来た。
どう見ても一般住居なのだが、ルリハはここに来てどうするつもりなのだろうか。
「なぁ、ルリハ」
「黙って着いてきて」
「はい……」
なんか有無を言わさないと言う雰囲気に圧されて、何も言えなくなってしまった。
どうしよう、ルリハに言われるがままにここまで来たのは失敗だったかもしれない。
もしや、今まで俺と話してくれていたのはフェイクで、ユイに近づく男だからと言う理由でこの建物の中で処理されるんじゃないか!?
もし襲われたとしても今のルリハだったら簡単に制圧できるだろうが、なるべくなら仲間のみんなとは戦うようなことにはなりたくない。
怯えながらもルリハの後を着いていくように木を登って玄関前にやってくる。
ルリハが何のためらいもなくドアをノックすると、中から「はーい」という女性の声が聞こえてきて、足音のような音が近づいてくる。
やがてその音はドアの前で静止し、数秒の静寂の後、ドアの向こう側から悲鳴のような声が聞こえてきた。
「えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええっ!?」
あまりの声量にドアを突き抜けて俺たちの鼓膜を破壊してしまうんじゃないかと言うほどだったため、俺とルリハは思わず耳をふさいでしまった。
なんだなんだと様子を伺っていると、ドアがバタンと勢いよく開き、その中から人影が出てきてルリハへ飛びかかった。
反応する間は無かった。
気がついたときにはドアから出てきた女性にルリハはまるで締め付けるかのような強さでぎゅーーーーーーーっと抱きしめられていた。
ちょっと苦しそうだが、ルリハの表情を見ているとまんざらでもないというのが分かる。
「ルリハ、いつ帰ってきたのよ!」
「ついさっき。必要なものがあったから」
「そうなの? 帰ってくるなら手紙をよこしてくれればよかったのに」
「忘れてた。本当は寄るつもりはなかったから」
「もう、オルターンに帰ってくるならちゃんとうちにも寄っていきなさい。お父さんも心配してるんだからね」
「そんな心配しなくても大丈夫。私はちゃんとやってるから」
俺は置いてけぼりだった。
これはどういう状況だ? 話を聞いていた限りじゃルリハとこの女性は知り合いみたいだけど、ルリハが俺に何の説明もしてくれなかったせいで俺は全然話についていけていない。
ただただポカンとアホ面でルリハと女性のやり取りを見ていることしか出来ない。
「見て、じゃーん」
そう言ってルリハが女性に見せたのは冒険者カード。
それを見た女性は目を輝かせた。
「Bランク! すごいじゃないのルリハ! 学校を卒業したばかりなのにBランクっていうことは、学校もBランクで卒業したの!? すごいわ。これはお父さんにも教えてあげなきゃ!」
「すごいでしょ。もっと褒めてもいいよ」
何だあれ。
普段のクールなルリハのイメージとはまるで違う、子供のような表情。親に褒めてもらいたくて仕方がない子供の目をしているルリハがそこに居た。
ルリハってあんな顔をするんだな。どっちが素なんだろうか。
「はっ」
そこでようやくルリハは俺の存在を思い出したのか、まるで錆びついた機械のようにギギギとカクカクした動きで俺の方へと視線を向けてきたので、俺はとりあえず軽く手を上げて存在をアピールしてみた。
そして再び女性の方へ視線を向け、また俺の方へ視線を向ける。
何をやっているんだろうか。だが、ルリハのこの反応は珍しくて面白いため、少しの間眺めていると、ようやく我に返ったのか、ルリハは「こほん」と咳払いをした。
「お母さん、紹介する。この人が今の私のパーティーメンバー」
「え、あ、ハルト・カインズです。よろしくお願いします」
急に紹介されたため、戸惑ってしまったが、なんとか挨拶をすると女性はこっちに向き直り、優しい笑みを向けてくれた。
「ハルト君ね? 私はルリハの母のメルフィー・ベータテッドです。いつも娘がお世話になっています。これからもルリハと仲良くしてくださいね?」
「はい、もちろんです」
そうか、この人はルリハの母親だったんだ。
確かにどことなく目元がルリハに似ているような気がする。それにルリハと同じ青髪で、透き通った青色の見とれてしまいそうなほどに綺麗な瞳を持っている。
この人がルリハの母親ならば、さっきまでのルリハの態度も頷ける。
みたいではなく、本当に褒めてもらいたがっている子供だったわけか。いや、それでもルリハがあんな表情をするっていうイメージはないからちょっとびっくりしたけども。
ただ、ああいう一面があると分かっただけでちょっとかわいらしく思えるようになった。
そうなると、メルフィーさんが出てきたこの家はルリハの実家ということになるのか。
ユイがちょっと言いかけていた言葉は、この街はルリハの故郷だっていうことだったのかもしれないな。
ユイはずっと前から一緒に居たみたいだし、ユイは知っていたんだろうな。それをルリハは隠してたんだろうけど、今俺を連れてきてくれた。
いや、隠すつもりならなんで俺を連れてきたんだ?
「お母さん、今日はちょっと願いがあって」
「どうしたの、ルリハ? いつもはママって呼ぶのに」
「お母さん、今日はお願いがあるんだけどっ!」
俺も覚えがある。
母親は時に子供にとって残酷なのだ。現に、ルリハはメルフィーさんに指摘されて顔を真赤にしながら話題をそらそうとしている。
ルリハのママ呼びかぁ……ちょっと見てみたい気もしないでもないが、それを突っ込んだら万全状態になった時に何されるか分かったものじゃないから何も言わないでおこう。
「なに? あ、そうだ久しぶりに帰ってきたんだし、ご飯を食べていきなさいよ。今日はカレーよカレー。良いスパイスが手に入ったからお母さん、腕によりをかけて作っちゃった。ルリハにも食べてもらえるとお母さん、嬉しいなぁ」
「マジで? 食べる」
ルリハの目の色が変わった。
どれだけ美味しいんだ、メルフィーさんの作ったカレーは。
「って、そうじゃなくて」
「お父さん喜ぶわよ〜。あ、ハクちゃんもお姉ちゃんに会いたいってずっと言ってたのよ」
「ハルトぉ〜」
何俺に助けを求めてきてるんだ。お前の母親なんだからお前がなんとかしろ。
しかし、ルリハが俺に助けを求めてくるとは、なかなかな人物のようだな。それに、感じる魔力量もなかなかのもの。
さすがルリハの母親と言った感じだ。
「そうだ、ルリハ。今日は泊まっていきなさいよ。折角なんだから、家で長旅の疲れを癒やしていきなさい?」
「え、良いの? じゃあそうする」
元からここに泊まるつもりで俺にここまで連れてこさせたくせに何が『え、良いの?』だ。
つまり、ルリハは俺に宿を教えるつもりはなく、ただ俺に御者をさせたかっただけなんだな。確かに門からここまでって言ったらそれなりに距離はあるけどさ、この仕打ちは酷いな。
ルリハは自分の家に泊まるみたいだし、俺は一人で寂しく宿を探しに行くとしますか。
「あ、待ってハルト」
「ん?」
俺が踵を返して親子水入らずの時間を作ってあげようとしていると、ルリハから待ったがかかったため、立ち止まる。
するとルリハは俺が予想もしていなかったとんでもないことを言い出した。
「ねぇ、お母さん。今日はハルトも家に泊めてもいいかな?」
「はぁっ!?」
そんな、ユイにバレたらまた勘違いされそうなことを言い出してきた。




