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4-5『オルターン』

 森に入り、馬車を走らせること二十分。

 ようやく森の先に天から差す光が見えてきた。あそこに目的のオルターンと言う街が存在しているはずだ。

 時間帯的には結構ギリギリで、もう十分もしたらこの場所は真っ暗で何も見えなくなってしまうことだろう。

 やっぱり、ユイたちへの挨拶と魔物対処に時間をかけすぎていたかもしれない。これでも最速で走ってきたつもりだったんだけど、やっぱり馬車だとそれなりに時間がかかるなぁ。


「おい、ルリハ。もうちょっとで着くぞ〜」


「そう……もう」


 妙にテンションが低いルリハがちょっと心配だ。

 もしかしたらまだ戦いの後遺症で体調が悪いのかもしれないと考えがよぎるが、本人があまり触れてほしくなさそうだから俺としてはどうしたらいいのか困ってしまう。

 こういう時、ユイが居ればユイがなんとかしてくれるのかもしれないが、残念ながら今ユイは入院中。ここには俺たち二人しか居ないのだ。

 だからここは俺がなんとかしないと。


「ルリハ」


「なに?」


「街に着いたらなにか美味いものでも食いに行くか? 俺が奢るよ」


「珍しい。何かあった?」


「いや、別に」


 むしろ何かあるのはルリハの方なんだがと言う言葉を飲み込む。

 元気がなくても美味いものを食えば少しは元気に慣れるだろう。昔から食事は元気の源って言われているからな。


 街は大きな木製の柵で覆われている。だが、これはただの木製の柵ではなく、魔法使いに強化された柵のため、そうやすやすと破壊できる代物ではない。

 そして柵の遥か上の方まで見えない壁で覆われているため、空を飛んで侵入しようとしても不可能だ。

 さすが上級冒険者の街なだけあって鉄壁の防御力と言わざるを得ないだろう。


 唯一の出入り口は四方に設置された門のみ。

 最近はずっと王都にいたから別の街に入るのは久しぶりだな。面倒な通行許可証を貰いに行かなきゃいけない。


「そんじゃ行くぞ」


「分かった」


 街の入口にたどり着き、俺とルリハは一旦馬車から下りて門番に通行許可を貰いに行く。


「はっはーっ! 少年少女よどうした。ここは君たちのような子供が来ていい場所じゃないぞ?」


 俺たちを無駄に高いテンションで迎えてくれたのはゴリラみたいにムキムキマッチョな門番。鎧を着てはいるけど、ミシミシと音が聞こえることから、今にも弾け飛びそうな感じがするほどにムッキムキだ。

 これをさすがオルターンの兵士と片付けていいものなのだろうか。

 細いルリハなんて片腕で捻り潰されてしまいそうだ。


「ちょっと買い物――まぁ、観光に来ました」


「ふむ……あの馬車に乗っていたのは君等二人だけか?」


「はい」


「ふむ、これは面白い! この森を子供二人だけで抜けてきたか!」


「子供って言うけど、立派な冒険者よ」


「ほう、これは失礼した。折角ここまで来てくれたんだ、歓迎するよ二人共」


 そう言うと、門番は俺たちの冒険者カードを確認することもなく俺たちに通行許可証を渡してくれた。

 この街では冒険者カードを確認せずに通してもいいと言う事になっているらしい。

 セキュリティ的に大丈夫なのだろうかと疑問を抱かないわけでもないが、この森は実力チェックに最適なため、冒険者カードには載らない真の実力まで測る事ができるというのと、これほど精鋭揃いの街でことを起こそうものならただでは済まないというのがある。

 この街で悪さをするなんて命知らずかよっぽど実力があるやつくらいなものだ。


 恐らくこの門番のおっさんですらSランクに近い実力は持っていることだろう。

 そんなやつが門番で暇を持て余している。それだけで、この街の冒険者たちの実力というのが伺えるだろう。


「ありがとうございます」


「おう、気をつけていけよ〜」


 無事に街へ入ることが出来た。

 街並みはかなり特殊な部類だと思う。なにせ、そこかしこにツリーハウスが存在していて、店や住居なんかも軒並み高い位置に存在している。

 そこへの昇り降りは以上なまでに太く育った木を足場として上っていくといったものになる。


 正しく森に住まう人々と言った感じだ。森とちゃんと共存している。

 雰囲気はとても良く、観光地に出来たらこれほど神秘的な場所はそうそうないのだが、それを不可能にしている要素として魔素の濃さが挙げられるし、ここに来るまで死ぬ可能性だってあるっていうのがネックとなっている。

 どう頑張っても観光地に出来ないのがもったいないところだ。


 それにしても、この分だと杖を買いに行っている間に日が沈むな。そうなるとあの森は真っ暗になってしまうから、今日中に帰ろうと思っていたけど、それは断念するしかなさそうだ。

 つまり、今日はこっちで一夜を明かす必要がありそうだが、いつもみたいに付近で野宿なんてしていたら無限に魔物が襲いかかってきて休めるものも休めなくなってしまうから、今日ばかりはどこか宿を取る必要がありそうだ。


「なぁ、ルリハ。宿を取ろうと思うんだけど、なにかいい宿は知ってたりするか?」


「宿……」


 ルリハはこの街に杖を買いに来ようとしていたのだ。宿の場所の目星くらいは着いている可能性があると思ってルリハに聞く。

 正直俺は宿に普段泊まらないせいで、どこに宿があるのかさっぱりなものだから、ここはルリハに頼るしか無い。

 本当は日帰りしたかったんだけど、この真っ暗闇の中、ルリハを連れて強引に帰るよりはここで一泊したほうが良いだろう。


「ん〜」


 考え込むように額に手を当てるルリハ。

 あの完璧を良しとするルリハが冒険先の宿の場所を調べていないっていうことはあんまり考えられないものなんだが、そんなに悩むということはあんまり目星は着いていないのだろうか。

 すると、小さく「よしっ」と呟いたルリハは客車から出て御者席に座る俺の隣に座ってきた。


「おいおいおい」


「ダメ?」


「ダメじゃないが、どうして急に? まさか俺に惚れたのか――ぐぼえっ」


 ちょっとした冗談のつもりだったのに笑顔で顔面にグーパンチをお見舞いされてしまった。


「ハルト、そこ左」


「え、あぁ……」


 どうやら道案内のために俺の隣に座ってきたらしい。

 最初からそう言えばいいのに。それと、俺は絶対に殴られる必要はなかったな。ふざけた俺が悪いのは分かっているけど、暴力じゃなくてちゃんと言葉で伝えてほしい。

 それにしても、今油断していたせいで防御が間に合わなくて地味に殴られたところが痛い。ルリハは小さくて細いけど、意外と筋力あるんだよなぁ。

 魔法使いもそれなりに筋力が必要なのだろうか。

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