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4-4『森の中』

 ユイとの挨拶を済ませた俺たちは早速馬車を手配して馬車に揺られていた。

 ついこの間も同じ様な状況があったが、あの時は俺たち以外にもユイとメルバードが乗っていた分、ちょっと寂しいような感じがする。

 正直俺とルリハ二人じゃ話すことも何も無いし、今朝の図書館の時のような互いに無言の状態となってしまっている。

 流石に気まずいため、とりあえず声をかけてみることにした。


「ルリハ、体調は大丈夫か?」


「ん? 大丈夫だけど……どうしたの?」


「いや、魔力回路がおかしくなったっていう話だからさ、気分とかは大丈夫なのかなってな?」


「そういうこと……全く問題はない。ただ、魔力回路が壊れたせいか、魔法を使おうとすると気持ち悪くなるのよね。魔力が適切に流れてないっていうか、漏れ出ているような感じがして」


「お前、もうそれ止めろよ……?」


 どうやら魔法の使用を禁止されているにも関わらず、ルリハは魔法を行使しようとしていたらしい。

 ルリハの勤勉さからして魔法の鍛錬が出来ないのは居心地が悪かったのかもしれないけど、それによって完治が遅れたりとかしたら本末転倒だ。

 ルリハにはなるべく早く完治してもらわないと困る。うちのリーダーが思い詰めてしまうかもしれないし、何より魔法使いとしてユイをサポートして貰う必要がある。

 俺はユイたちの前でもうあんな戦いをするつもりはないし、メインアタッカーはユイとルリハの二人になるんだから、そのどっちかでも欠けると痛手になってしまう。

 勇者パーティーとしてちゃんと活動するためにはやっぱりユイとルリハの二人がちゃんと機能してないとダメだ。冒険者パーティーとしても、そして二人の友としても。


「お、森に入るぞ。しっかり掴まっておけ」


「わかった」


 俺たちが向かっている街はこの森の中に存在している。

 この森は昼間でも全然光が地面を照らすことが出来ないほど木々が生い茂っており、昼間でも夜のように暗い。

 だが、この森の中で一箇所だけ明るい場所がある。そこがこれから俺たちが向かう街、オルターン。

 夜のように暗く、魔素の充満するこの森の中で唯一人間が生きれる環境を整えた唯一の場所。砂漠で言うオアシスみたいな場所だ。


 魔素耐性が高い人じゃないとこの森に入った時点で気持ち悪くなるのは必然。

 つまり、オルターンに行くまでの道中でオルターンにたどり着くことが出来るのかふるいにかけられていると言っても過言ではない。

 ちなみにオルターンは危険すぎるから、オルターン行きの馬車の御者もそれなりの実力者だったりする。例えば元冒険者だったり。

 戦ったらそれなりに強かったはずだ。


 まぁ、この辺の魔素が濃くて強い魔物たちを軽々と討伐できるほどの実力がなければオルターン行きの馬車の御者を務めることなんて出来ないからな。


「ルリハ、くれぐれも馬車から下りないでくれよ。今、ルリハは万全じゃないんだ。その状態で魔物に襲われたら一溜まりもない」


「分かってる。あなたは私のことを何だと思ってるのよ」


 俺の心配に不貞腐れたような表情を見せてきたルリハ。だが、俺の心配はもっともだろう。

 これでルリハの身に何かあったら俺はもうユイに顔向けできない。

 こうして街の外に連れ出すということは俺に責任が生じるということだ。だから俺にはルリハを無事にオルターンへ連れていき、無事に王都に連れ帰るという義務がある。


 幸い、俺はもう普通に戦っても問題ないレベルの回復具合ではあるしな。

 ただ、一つだけ医師にはあんまり強い力で相手を殴るというのは禁止されている。つまりは『破壊の一撃(デストロイヤー)』の使用制限だ。

 普通に戦えるレベルにはなったものの、砕けてしまった拳はまだ万全とはいい難い状態。『豪拳』は使えるだろうけど、次に『破壊の一撃(デストロイヤー)』を使ったら再び砕け散るだろう。

 だから暫くは『豪拳』でなんとかする。


「うっきゃー、きゃきゃきゃ!」


「ヒヒーン!?」


 そんなことを話していると木の上から三匹の猿型魔物が馬車の前に飛び降りてきたため、馬も驚いて止まってしまった。

 まぁ、何度かは襲われるだろうと思っていたけど、森に入ってこんなにすぐ襲われることになるとは思ってなかった。


 あれはBランク猿型魔物のデスモンキー。

 猿型なだけあってすばしっこく、攻撃を当てるのが一苦労な上、爪での攻撃がかなりの威力を誇り、当たりどころが悪かったら一撃で絶命させられてしまう。

 このことから一撃猿何ていう別名もつけられていたりするこの森に住まう凶悪な魔物だ。

 正直、出会わなくて済むならば、こいつらとは接敵したくなかったものだが、こうして接敵してしまったのなら仕方がない。


「ルリハ、ちょっと待ってろ。すぐに片付ける」


「大丈夫なの?」


「あぁ、ちょっと手こずるかもしれないけど、なんとかなる」


 俺の本来のランクは賢者だからな。

 それにデスモンキーとは何度も戦ったことがある。俺がこの森に来ると必ずと言っていいほどデスモンキーと出くわすんだよな。

 俺ってデスモンキーに好かれてる? それとも何かそういうフェロモンでも出てる?

 こんな奴らに好かれたところでなんにも嬉しくないからお引き取り願おうか。


 こいつらはゴブリンと同じで心臓さえ取り除けば食うことは可能だが、その味は食えたもんじゃない。

 昔からこういう逸話があるのだが、とある高ランクの冒険者は森で遭難してしまった。食べられるものと言えば、そこら辺に居るデスモンキーのみ。

 彼らを狩って食料にしたらとりあえず生き残ることは出来る。だが、その冒険者は『デスモンキーを食らうくらいならば、餓死を選ぶ』と言い、そのまま何も食べずに餓死してしまった。そんな話が冒険者の中で語り継がれている。


 つまりは、デスモンキーの味とはそれほどのものなのだ。

 俺も興味が湧いて一度食べてみたことがあるが……あれは思い出したくはない。舌が痺れるほどの酸味、食後一週間は鼻腔から消えてくれない激臭。

 あれを食べてから臭いが消えてくれるまでの一週間は禄に食料が喉を通らなかった。


 確かにあれを食べるくらいなら俺も餓死を選ぶだろう。


 倒したところで旨味は無いし、今の俺は無駄に体力を消耗したくはない。

 だから、ルリハにはバレないように魔力をデスモンキーだけに当てるように調整して――


「失せろ」


 俺が言葉を発した瞬間、デスモンキーは身体をブルリと震わせて目をカッと開いた。

 まるで絶対的強者を目の当たりにして怯えているかのように足をガクガクと震わせ、一匹は尻もちをつき、一匹は足の力が入らず、這いつくばりながら逃げようとし、一匹は呆然と立ち尽くしてしまった。


 これが相手を威圧する技術、『喝』だ。

 通用する魔物には条件があるが、自分よりも圧倒的に弱い魔物に対しては基本有効だ。ただし、普段は倒したほうが速いから俺は普通に戦っている。

 出来はするが、あんまり使わない技術だ。父さんから教わった数少ない技術の一つ。


「戦意喪失か」


 これならもう俺たちに危害を加えようとすることはないだろう。

 俺たちは暗くなる前に街にたどり着きたいんだよ。夜になったら本当に真っ暗でこの森の中は全く見えなくなってしまうから、その前に街に行きたい。

 この森で夜になったら最悪だからな。


「あれ、もう終わったの?」


「終わった。よし、それじゃあ行くか」


 その後も何度か魔物に襲われたが、その度に俺は『喝』で退けていった。

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