4-3『出発の挨拶』
とりあえず、現状勇者パーティー業を休業するとしてもだ。ちょっと遠出するという報告はリーダーにして置かなければいけないという事で俺とルリハの二人でユイとメルバードのお見舞いに来た。
「あ、ルリハちゃんとハルト君、来てくれたんですね! 二人が一緒なんて珍しいですね」
「もしかしてボクのことが恋しくなっちゃったんですか?」
俺とルリハが病室に入ったら太陽のようなまばゆい笑顔を見せてくれるユイと、いつも通りニヤニヤ顔を向けてくるメルバード。
ちょっと前までルリハの杖を壊しちゃったということで申し訳なさからか随分と落ち込んでいたが、いつも通りに戻ったみたいでホッとする。やっぱりメルバードはこうじゃなきゃな。
そう言えば俺が誰かと二人きりで行動しているっていうことは今まで全然なかったからルリハと二人で行動しているのは珍しいかもしれない。
俺が意図的にあんまりルリハと二人きりにならないようにしていたというのもあるけど。
「そうだユイ、頼まれてたお菓子買ってきた」
「ありがとう! わぁ、クッキーだ。ありがとう、今お金渡すね」
「いや良いよ。いつもユイにはリーダーとしてお世話になってるし」
「えぇ、そんなことないよ! むしろ私のほうがお世話になりっぱなしだし」
「いつも探索中の料理を任せちゃってるし、前線で頑張ってくれてるし、だから貰っておいて」
「え、そう? じゃあ、ありがたく貰っておくね」
ユイと話している時のルリハって本当に優しそうな表情をするんだよな。
それだけルリハの中でユイが大切と言うことなのだろう。ユイがタメ口になるのもルリハ相手だけだし、二人の仲はそれほど深いもの何だということを感じられて微笑ましい。
だからルリハからしたら魔王と友だちになろうとしているユイの姿は心配で仕方がないんだろうな。
「メルちゃんも食べますか?」
「え、良いんですか!? じゃあ、遠慮なく」
遠慮するつもりなんて元から無いだろうというツッコミは置いておくとして、ユイがクッキーを取り出してまるで餌付けするかのようにあーんして食べさせようとしている。
この光景を見て俺は身震いがした。
そして恐る恐るルリハの表情を伺う。
――あ。
「メル」
「ふえ?」
「メル」
「ど、どうしたんですか!?」
「メル」
「や、止めてください、なんですかその鬼みたいな表情!」
「メル」
「ご、ごめんなさい! 自分で食べますから許してください!」
「ご、ごめんね? ルリハちゃん」
「いや、大丈夫。分かってくれればそれでいいよ」
怖かった。
ルリハの表情は紛れもなく鬼の形相で、今にも人を殺してしまいそうな表情をしていた。
メルバードもユイも学んだらどうだ? 前聞いた話だけど、メルバードがユイの手から直接食べた時にこっぴどくやられたらしいじゃないか。
それにしてもこんなに激怒しているルリハって初めて見たかもしれない。
俺を問い詰めるときもここまでの凄みは出してないぞ。
つまりあれだ、ルリハのユイの独占欲が凄まじいんだ。ユイに安易に手を出そうとしたら殺されることだろう。
それに、同じ女子のメルバードが相手だからこの程度で済んでいるだけで、俺がメルバードと同じようなことをしたらどうなってしまうんだろうか。考えただけでも恐ろしいため、絶対にメルバードと同じ失敗は犯さないように気をつけようと心に誓った。
「で、どうして二人で一緒に?」
「あ、もしかしてデートですか!? ハルトとルリハさんがそんな関係だったなんて〜、もうもう、隅に置けませんね!」
「いや、別にそういうわけじゃ――」
「そう、デート」
ルリハが発言した瞬間、ピシッとこの場の空気が凍りついたような気がした。そして俺だけだろうか、ちょっとした寒気まで感じる。
おいおい、ルリハお前何言ってるんだよ。
確かにさっきデートって言ってたけどさ、あれは俺に御者を頼み込む為に呼び出しただけだろうが。
「る、ルリハちゃん、さん? デートって……あの男女が一緒にお出かけする?」
「うん」
「じょ、冗談ですよね!? ハルトはこんなんですよ、こんなん!」
こんなんて何だよ。
絶対に回復したらシバいてやるからな。
というか、ルリハはどうしてこんな嘘を着くんだよ。
ほら見ろ、ユイが心ここにあらずみたいな感じで放心しちゃってるじゃないか。あの子、お前の親友なんじゃなかったのか。
そしてメルバード、お前はなんで信じられないものを見るかのような目で俺を見る!
「お、お二人はいつからそんな関係に?」
「いつからだと、思う?」
ルリハ、お前絶対面白がってやってるだろ。
俺がカルマだということを認めないことが面白くなくてわざとやってるだろ。
「私、知らなかったよ。二人のリーダーなのにね……うん、私二人のことを応援するから。だから、これからも私と一緒に居てくれる?」
「当たり前。私とユイはずっと一緒」
「ルリハちゃん……」
「ユイ……」
涙を流しながら抱き合う二人。
何だこの茶番は。
ほんのりとルリハの独占欲のようなものを感じる。だから、恐らく俺はこの状況を作り出すための出汁に使われただけで、メルバードにユイの一番は自分だということを見せるけることが目的だったようだ。
そのお陰で俺は酷い目にあっているわけだが。
「おいルリハ。茶番はそのへんにして、さっさと本題を言え」
「茶番? ハルト君、今茶番って言いました!? ルリハちゃんはハルト君を信頼してハルト君を選んだんですよ!? それを茶番って、いくら私でも怒りますからね!」
プンプンといった感じで可愛らしく頬を膨らませて怒るユイ。
怖いと言うよりも愛らしいな。小動物みたいで愛でたくなるような可愛さに思わずハートを撃ち抜かれてしまう。
待て、落ち着け。冷静になるんだカルマ・エルドライト。
お前は元賢者だろ? 感情の制御くらい容易いはずだ。
「そうだった。ユイ、話がある」
「ちょっと待って。今ハルト君をお説教するところだから」
「それは一旦置いておいて。私、ハルトとオルターンに行ってくる」
「オルターン? それってまさか」
「そう……ユイの考えている通りだと思う」
「ご挨拶!?」
「違った」
ルリハの言葉に再び半狂乱になる我らがリーダー。
ユイの奴、ルリハの言葉に一喜一憂し過ぎだろうが。感情表現が豊かなのは良いことだが、ここまでだと反応に困るぞ。
するとユイはルリハの両肩をムンズと掴むとガクガクと前後に揺らし始めた。
「ご挨拶って、二人ってもうそんな関係になってたの!?」
「うあうあうあ、揺らさないで酔う。ハルト、助けて。ユイがおかしくなっちゃった」
「自業自得だ」
ルリハを助ける気なんて更々無かった。
全ては調子に乗ったお前が悪い。だから俺はもう助け舟を出すことはしないから、後は勝手にやってくれって気分だ。
俺も馬車の手配とかしなきゃいけないんだから、いつまでもここに居たら何もできなくなってしまうしな。
『ハルト、私を捨てるの?』
こいつ、俺に目で訴えかけてきた!?
あの目はさっき俺に見せてきた暗殺者のような瞳と同じ。見捨てたらこの場で俺に見捨てないでと大声で叫び散らかすぞと言う脅し。
なんというやつだ。
俺たち男は女子のこの脅しに弱い。
結局俺は脅しに屈するしか無いのだ。
「ユイ、俺とルリハは何でも無い。さっきまでのルリハがふざけ倒してただけだ」
「そう、なんですか? でも、ならなんでご挨拶に」
「それがわからないんだけどさ、ご挨拶って何?」
「え、だってオルターンってルリハちゃんの――むぐむぐ」
ユイが何かを言おうとした瞬間、ルリハがユイの口を押さえてしまった。
一体何だったんだろうか。だが、ルリハの目が聞くなと言っていたため、聞くことは諦めるしか無いんだろうな。
「俺たちはルリハの杖を買いに行くだけだ。ほら、メルバードが壊しちゃったやつ」
「その説は大変ご迷惑を」
「いや、だから大丈夫だって」
改めて土下座をしようとしてきたメルバードを慌てて止めるルリハ。
メルバードって本当に真面目なのかそうじゃないのかが分からない。俺には不真面目、俺以外には真面目っていうところだ。
なんだ、何がいけないんだ。
「本当に違うんだよね? 二人は恋人とかじゃないんだよね?」
「えぇ、ごめんなさい。ちょっとからかっちゃった」
「でも、二人旅っていうことなら変態のハルトに襲われちゃうかもしれませんね!」
「だーれが変態だ!」
「だって、この間の通信で変態だって言ってたじゃないですか」
「いや、あれは違うんだよ」
こいつ、まだあの時のことを覚えていたのか。
じーっと疑うような視線を俺に向けてくるルリハ。ただ、それだけならいつものことだから良いんだけど、なんでユイにまでそんな視線を向けられにゃならんのだ。
終いには俺が泣くぞ。俺はユイとマナに嫌われたら生きていけないんだからな。
「まぁ、その時は次の日、新聞にはこんな見出しが載ることになる。『勇者パーティー所属ハルト・カインズ。ゴブリンの群れに襲われ、戦死』」
「俺はそんな命知らずじゃないから、そんな見出しが載ることは無いな!」
社会的だけじゃなくて物理的にも殺しにかかってくるとは。
新聞ではゴブリンに殺されたことになってるけど、実際にはルリハに殺されてゴブリンの餌にされると言ったところだろう。末恐ろしい。
まぁ、魔法が使えない今のルリハ相手に負けるわけ無いけどな。
「はぁ……そんな訳でルリハと一緒にオルターンに行ってくる」
「はい、お気をつけて。あそこら辺の魔物は強いって有名ですから。どうかご無事で私たちの所に五体満足で帰ってきてくださいね? 魂で返ってくるなんて嫌ですからね?」
「あぁ、任せろ」
オルターンは冒険者界隈でも難易度が高い地域として有名だ。それ故に力試しをしたい冒険者や実力に自身がある冒険者が多く集まっているため、魔境と呼ばれていたりする。
軽い気持ちで行くと痛い目に会うことは確実で、ギルドの依頼も一瞬で消えてしまうほど競争率が高い。
俺も一時期あそこに滞在していたけど、あれは確かに魔境だ。
環境からして難易度が高いし、何より魔素がここら辺よりもずっと濃いから高ランクのダンジョンが大量にある。
出身者の殆どは冒険者として名を馳せている。
ただ、俺は別の意味でビビっている。
あそこ、あいつの管轄だからなぁ。会議があるって言う話だから会うことはないと思うけど、絶対に会いたくはない。
「ゼル……」
「ん? なにか言った?」
「いや、それよりも早く準備をするぞ。こんなことをやってたら夜になる」
「そうだね。じゃあ、二人共暫く会えないと思うけど元気で」
「うん、ルリハちゃんも気をつけてね」
「お土産お願いしますね!」
こうして俺たちはオルターンへ向かうこととなった。
だが、この時の俺たちはまさかあんな事件に巻き込まれることになるとは微塵も思ってなかったんだ。




