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3-32『夜が明けて』

 エイフィルの意識が無くなった。

 多分今も尚、精神世界で殺され続けているのだろう。だが、意識が無くなったことによって徐々に『界割』が解除されていき、内と外の境界がなくなって出入りができるようになっていく。

 もうまもなく完全に壁が取り払われて、まず間違いなく外に追い出されていた冒険者たちがなだれ込んでくることだろう。

 そうなるとカルマの姿を出している俺と魔族であるバルゼットがここに居るのはマズイ。

 俺はブレスレットをつければいいかもしれないけど、バルゼットは早く何処かに行かないと。


「ば、バルゼット! って」


 慌ててバルゼットに声をかけたが、さっきまでそこに居たはずのバルゼットは既に姿を消していた。

 俺が考えるよりも先に行動していたらしい。

 それにバルゼットだったら『界割』の内外を自由に行き来できるから、『界割』が完全に無くなる前に姿を消すことも出来るだろうからな。


 俺もブレスレットを付けて気絶を装うことにした。

 ユイたちが気絶しているのに、それよりも低いDランクの俺だけ意識を保って立っていたら余計な詮索をする人も出てくるだろうし、何より面倒だからだ。

 なら、気絶しておくのが一番丸く収まる。

 後のことは周りにいる冒険者たちに任せるとして、俺もちょっと寝ることにするか。


 戦い続けて忘れかけていたが、俺は昨夜から魔王領に行っていて、そのままユイたちと合流してからダンジョン探索に続けてエイフィルと戦っていたから一睡もしていないんだ。

 ようやく全てが終わったと思ったら急に猛烈な眠気が襲いかかってきた。流石に魔力で睡魔を誤魔化すのも限界だったらしい。


 あー、これあれだな。

 気絶のフリというよりも眠気で本当に気絶しそうな感じだ。振りをするために地べたに寝そべったら動けなくなった。

 もう指一本も動かすことが出来ない。意識もだんだん朦朧としてきた。


 本当だったらまだ警戒するために俺も意識は保った状態で居たい、せめて寝たとしても直ぐに動けるくらいの浅さが好ましいんだが、これはガチ寝するやつだ。

 後のことは本当に冒険者たちに任せて寝よう。

 何かあったらその時に考える。もう今は何かを考えるっていうのが面倒くさくて仕方がない。


 だから今は――みんな、おやすみ。


☆☆☆☆☆


 次に目を覚ますとそこは診療所のベッドの上だった。

 どの街にもギルドの隣には診療所が存在しており、冒険者たちが戦いで出来た傷を癒やす場としてよく利用されている場所。

 正直、診療所のベッドに寝たのは初めてだ。久しぶりにふかふかのベッドで寝たせいか、このまま二度寝出来そうなくらいに心地良い。


「いってて」


 右の手が痛い。

 まぁ、当たり前か。あれだけ連発して『破壊の一撃(デストロイヤー)』を使ったんだ。これでダメージが少ないわけがない。

 一度拳が粉砕骨折してしまったんだ。手を見てみても治療された後だからか、そこまで痛々しいようには見えないけど、それでもそれだけのダメージは治癒魔法で一瞬で完治というわけにも行かなかったようだ。


 三発、たったの三発だぞ。

 たったの三発『破壊の一撃(デストロイヤー)』を使っただけで拳が砕けた。しかも、超級じゃなくて上級だぞ。

 思っていた以上に、俺の肉体は脆かった。

 俺は強くなったつもりで居た。だが、結局はユイたちを危険にさらしてしまったし、バルゼットの力を借りなければ俺たちは勝てなかった。


 確かに俺たちは結果的に勝利した。だが、その点で言ったら、俺の完全敗北だ。

 何が賢者だ、持ち上げられすぎて荷が重いって。


 ユイたちが強くなっていってる。だと言うのに俺だけ何も変わらないままじゃダメだよな。

 俺も、強くなろう。せめて自分の技で自滅しないくらいには強くならないといけない。今後、どんな敵が出てくるか分かったものじゃないんだから。


「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」


「ベータテッドさん、静かにお願いします」


 隣の部屋から叫び声が聞こえてきた。あれは間違いなくルリハの声だな。

 そしてよく聞くと微かにユイとメルバードの声も聞こえてくる。

 良かった……みんなも無事に目を覚ましたらしい。

 ルリハはともかく、ユイとメルバードの怪我は相当ひどいものだったと記憶してるけど、元気がありそうで本当に安心した。


 ルリハが叫んだ理由は多分、ルリハが気絶している間にカルマが来たという話をユイに聞かされたのだろう。

 大声を出しすぎて看護師に怒られてる声が聞こえてきた。


 あっちの部屋は楽しそうだ。

 俺もあの三人の仲間なんだが、異性だという理由で多分病室を分けられてしまったのだろう。俺も会話に混ざりたいところではあるが、ここは大人しくしておいたほうが角が立たない。

 もう一度寝るとするか。こんなにふかふかなベッドで寝れるのは次いつになるか分かったものじゃないからな。

 この機会に寝溜めしておくことにしよう。


「あ、そうだ、ハルト君はどうなったんですか? すごい勢いで飛ばされてましたけど、無事なんですか?」


 もう一度寝ようと目を瞑った矢先、俺の話題が上がったため、思わず聞き耳を立ててしまった。

 そうか、俺はユイたちの会話の声でユイたちの無事を確認できているが、ユイたちは俺が目覚めたことに気がついていない。

 同室だったら無事が分かるだろうけど、あいにく俺たちは別室だから。


「俺は隣の部屋に居るぞー」


「あ、ハルト君!」


「よかった……」


「あの勢いで飛ばされたものだから死んじゃったかもしれないと思いましたよ」


「もう、メルちゃん、冗談でもそんなこと言っちゃダメ!」


「ご、ごめんなさーい」


 メルバードも夜のしっとりした雰囲気じゃなくて、いつもの調子に戻っている。これだけ軽口を叩けるなら心配はいらないだろう。

 しかし、ユイはメルバードの母親みたいだな。

 声だけ聞いていたら悪ふざけする娘と、それを叱る母親みたいな会話に思わず頬がほころぶ。


 そして改めて実感した。

 俺たちはただの一人も欠けることはなくエイフィルを、魔人を討伐することが出来たんだ。

第三章 Fin

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