3-31『永遠』
バルゼットは眼の前に浮かび上がるカードを握りつぶすと、そのカードを握りつぶした拳に魔力を込めていく。
まるで大気が揺れているようだった。
バルゼットの覇気に世界が怯えているようにも感じるほどのパワー。
ヴァルモダとは比べ物にならないほどの魔力を感じ、思わず俺は一歩後ずさってしまった。
その直後のことだった。
バルゼットがカードを握った拳でエイフィルの腹を殴りつける。だが、俺が殴ったときのような威力はなく、単純な腹パンと言った威力だ。
「は、その程度の攻撃力であたしに勝てると――」
ガクン。
突如、エイフィルは膝から崩れ落ち、天を仰いでしまった。
ダメージによって倒れたんじゃない。まるでエイフィルの身体が抜け殻になったかのような感じ。生命力という生命力を感じられない。
さっきまでだったら一切のダメージを受けず、相手をバカにして反撃をしてきたようなやつだったのに、急にそんな状態になってしまったものだから困惑してしまった。
「『永遠の裁き』。お前が最後に受けた攻撃を永遠と繰り返す技だ。さっきまでのお前ならば通用しないかもしれなかったが、勇者たちの猛攻を受け、精神が疲弊してきた今のお前になら通用すると思った」
「最後に受けた攻撃って、俺の?」
「あぁ、この女は今、お前に受けた『破壊の一撃』による攻撃を精神世界で永遠と受け続けている。それこそ、精神がおかしくなってしまいそうなくらいな。本来だったならば、死んだらそこで終わりなのだが、この女は死なない。だからこそ、永遠に攻撃を受け続ける。ただ、この技は精神力が高い相手には通用しない。しかし、この女はお世辞にも精神力が高いとは言えないものだったから通用したのだ」
バルゼットの解説を聞き、もう一度エイフィルへ視線を向ける。
エイフィルは相変わらず動かず、ただじっと膝立ち状態で天を見つめるのみ。もう一度動き出す気配が一切ない、多分本当にエイフィルはバルゼットの言う永遠の牢獄に閉じ込められてしまったのだろう。
そして彼女はその中で永遠と殺し続けられる。
死にたいと思っても死ねないというのに、永遠に殺し続けられる。そう、何年も何十年も何百年も何千年も、永遠に。
彼女がもっとも頼っていた不死というアドバンテージ。
それが皮肉なことに、彼女を永遠と苦しめてしまうディスアドバンテージとなってしまったのだ。
☆☆☆☆☆
「ここは、どこ?」
エイフィルはバルゼットに殴られた後、気がついたら真っ暗な空間に居た。
何もなく、歩けど歩けど先が見えない世界。ずっとこんな場所に居続けたら頭がおかしくなってしまいそうだ。
その直後、エイフィルに衝撃が襲いかかった。
そう、『破壊の一撃』の衝撃だ。
この衝撃はいとも容易く彼女の身体を粉々に打ち砕いた。
「な、なんなのよ、突然」
エイフィルが困惑するのも当然だ。自分以外には誰も居ないというのに突然攻撃が襲いかかってきたのだから。
だが、これではまだ終わらない。
普通ならここで終わりなのだが彼女は死んでいないため、徐々に再生し始めるともう一発『破壊の一撃』が打ち込まれた。
それによって更に肉体がバラバラに砕かれてしまう。
想像を絶する激痛だった。
本来だったら砕け散ってしまった肉片に攻撃をされたとしても別れている部分には痛覚が無いため、痛みなど無い。
だが、なんと本来だったら痛みが走るはずがない肉片にまで痛覚が存在し、殴り潰されることで今までに感じたことがない激痛がエイフィルを襲った。
「あ、か、かああああ、ご、ごぼあ」
エイフィルの喉からはかすれた声のみが出てくる。
いつもの強気な言葉を出すことは叶わなかった。それほどの激痛。
本来だったら触れるはずがない皮膚の内側の痛覚。そこも今は肉片となり剥き出しになっているため、激痛が走って全身どころか体の内部をえぐらられているような、そんな感覚。
身体内外余すこと無く激痛が走る。
絶叫する度に口から血が溢れ、溺れそうになる。だが、既に彼女に呼吸器官と呼べるものは残されていなかった。
普通の人だったらこの一発で失神してしまうことだろう。
だが、彼女の特性がそれを許さない。気絶は許さない。気絶してしまったとしてもそれが一瞬で回復。
そしてまた激痛が襲い来る。
永遠に抜け出すことの出来ない無限ループにエイフィルは囚われてしまった。
「あ、か、かぁ、やぁあ」
何度も何度も気絶しても気絶しても終わることのない悪夢。
死にたい、終わらせて、嫌だと願っても彼女の寿命は『破壊の一撃』で簡単に削り切れるほど少なくはない。
少なく見積もって寿命が無くなるまでこのペースで死んだとしても数千年はかかってしまう。いや、彼女が今まで殺してきた人の数を考えたら五桁年にまで到達してしまうかもしれない。
もはやエイフィルに原型などは無かった。
そこにあるのはただただエイフィルのものであったであろう肉片。いや、肉片とも呼べるか怪しいものだった。
身動きすら取ることが出来ずに殺され続ける。死に続ける。
そのストレスは計り知れないものがある。気絶することも許されない、死ぬことすら許されない。
「い、やだ、もう、いや、だ」
這いつくばりながら蛆虫のような動きで僅かに残った身体と呼べるか分からない肉塊でその場から逃げようとするエイフィルだが、そんなことが許されるはずもなく、粉々に砕かれた。
エイフィルに逃げることは許されない。
これが彼女のこれまでの罪の重さであり、罰だ。
エイフィルにこれから先、安息なんて言う時間はないだろう。残る数万年の人生、彼女はこれから無限に死に続けることとなる。
最初は抵抗しようとしていた彼女だったが、次第に逃げることなんて叶わないと理解したのか、徐々に大人しくなっていき、やがて彼女はひき肉にされ続ける運命を受け入れるしか無いと、抵抗することすらしなくなっていった。
彼女の魂は寿命が尽きるその日まで、決して潰えることはないが、皮肉なことに彼女の――エイフィルの心はついに死んだのだ。
そして彼女は永遠とも呼べるこの時間を、寿命尽きて命が朽ち果てるその日まで、誰もエイフィルだとは認識できないその肉片のまま生き続けることになる。
はい、ついにエイフィルを撃破した訳ですが、当初は狂化させることも考えてましたが、それをするのはエイフィルらしくないって思ってやめました。
エイフィルはカルマたちをナメるあまり、狂化を使えるにも関わらず使わずに敗北する。あまりにもエイフィルらしい最期じゃないです?
ちなみにカルマがエイフィルがあらゆる面で上回っているとか言っていましたが、あんな性格のエイフィルが単体性能でカルマに勝るわけないじゃないですかやだ〜。
あれは無限の寿命に苦戦させられてただけで、ふつうに戦えばカルマの方が強いですね。




