3-30『最後の賭け』
俺はユイたちの元へ向かう前にバルゼットと作戦会議をしていた。
このまま無闇に攻撃し続けても間違いなく倒すことは出来ず、先にこっちがガス欠してしまうことは間違いない。
俺も『破壊の一撃』はあと一発しか使えない。
それを最後に俺の拳の骨は砕け散ることだろう。
だからあいつを倒すためにはちゃんと作戦が必要だ。
「なぁ、バルゼット。俺を手助けしてくれるついでにエイフィルの討伐を手伝ってくれないか?」
「はぁ? なぜ我がお前ら勇者の手助けをしなければいけないのだ」
それは正論だった。
バルゼットはたまたま今回、俺を助けてくれているだけで、本来は敵同士。
バルゼットに俺たちを助ける義理なんてものは無い。
だけど、バルゼットの協力はどうしても欲しいところだった。
本気の俺にあれだけのダメージを負わせられるバルゼットが仲間に加わったらエイフィルを倒せないにしても捕縛できる可能性はぐんと上がる。
正直、エイフィルの強さ的に俺が本気を出したとしても捕縛する余裕まであるかは正直わからないから。
「無茶を言っているのは分かっている。だけど、俺はあいつらを助けたい」
「おいおいおい、賢者ともあろう者が魔族に土下座なんてするな」
「俺はもう賢者じゃない。それに、この頭一つでユイたちを助けられるというのなら、安いものだ。代わりに首を差し出せと言うのなら、喜んで差し出そう」
これは俺の覚悟だった。
敵であるはずのバルゼットに仲間を助けて欲しいと頼み込む。それは普通の頼み方で通るはずがないというのは分かっていたから、土下座をして命まで賭ける覚悟だった。
バルゼットは分かっているはず。その魔眼で、俺がどれほどの覚悟を持って頼み込んでいるのか、そしてユイたちがどんな人物なのか、それをひと目見たら分かるはず。
だから、本気の覚悟をバルゼットに見せた。
すると、バルゼットはまるで諦めたかのように一回ため息をついて言った。
「条件がある」
「条件?」
「魔族が勇者パーティーと協力する、そんなのは笑い話にもならない。お前らもバレたら打首だろう?」
「そう……だな」
「だから絶対にバレるな。我の協力は墓場まで持っていけ」
「大丈夫だ。誰にも言うつもりはない」
こんなことを公言したらユイたちもどうなるか分かったものじゃない。
俺一人の首で済めばどうでもいいけど、ユイたちにまで危険が及んでしまう可能性があるならば、俺は全力でその道を避ける。
「もう一つ、我が協力するのはあくまでも最終手段だと思っておけ。お前ら全員が動けなくなった後、せめてお前の仲間たちが戦闘不能になった後だ。気絶が好ましい」
「どういうことだ? 俺はいいのか?」
「お前はどうせ死んでも死なない男だろう。だが、お前の仲間たちは違う。気絶だ。それが我が譲歩するギリギリのライン。お前の仲間たちにも決して我の協力は勘付かれてはならん。勘付かれた時、我はお前の首を貰いに行く。そのつもりで居ろ」
「りょ、了解」
最低ラインが気絶。
気絶する前に死んでしまわないかとちょっと不安なところではあるが、この条件を飲まなければバルゼットは俺たちに協力してくれないと言うので、不安はあるけど頷くしか無かった。
「後はそうだなぁ……お前、あのエイフィルとか言う魔族を一撃で殺せる攻撃って出来るか?」
「無理だろ」
多分バルゼットはさっきまでの戦いも見ていた。元々、バルゼットは俺を監視するために俺の側に居たくらいだしな、エイフィルと戦っている時に見ていたとしても何ら不思議ではない。
その証拠にバルゼットはエイフィルのことを知っていた。
それなら分かるだろう。あいつの超再生のせいで俺がどれだけ攻撃したとしても死なすことが出来ないって。
「違う、我は魂の話をしているんじゃない。肉体の話だ。一撃で殺すことは出来ない、そんなのは大前提。本来だったら死ぬはずの攻撃をしかも、オーバーキル出来るような攻撃ができるのかって聞いている」
「え、あぁ、それなら出来ると思うけど……急にどうしたんだ?」
「お前が肉体を殺すのならば、我にあやつを殺す算段がある」
「え、本当か!?」
「あぁ、だからやつを殺したいのならば、お前の仲間たちを全員気絶させ、そしてお前があやつを木っ端微塵に砕け」
魔族の言葉を信じるなんて、今考えるとどうかしていた。だが、俺は魔族の手でも借りたい、縋りたい程に追い詰められていたから、何の疑いもなしに信じてエイフィルの隙を狙っていた。
もちろん『業』を発動する隙だ。
その間に俺はエイフィルの切り札を食らってしまった。
あれを食らったらダメージが俺にも跳ね返ってくる。だが、俺はそれを利用して『業』の攻撃力上昇に役立てた。
本来だったら『業』は攻撃を受けた次の攻撃しか攻撃力を上げられないが、殴ることによって自分にもダメージが跳ね返ってくるから、上がった分の威力が俺の攻撃力に上乗せされる。
いつもよりも攻撃力が上昇しやすかった。
俺はエイフィルの言葉を思い出していた。
エイフィルは頻りに『隙』と言う言葉を口にしていた。隙を見せると死ぬだったり、隙を見せたから死んだだったり。
恐らくエイフィルの切り札のもう一つの効果は隙を見せた相手の心臓を捻り潰すというものだ。
だから演じた。
段々調子に乗ってきて、テンションが上って警戒心が薄れてきている。やけくそになっていると言う演技をした。
そのうえで、頃合いのタイミングを見計らって胸に手を当てると、心臓に魔力を一気に流し込み、一時的に自分の心臓を止めた。
心臓というのはデリケートで、一気に心臓に魔力を流し込めば、ショックで一時的に心停止する。それを利用したのだが、一歩間違えれば本当に死んでしまうため、自分でやったけどかなり怖かった。
だが、俺は勝った。
一時的に気絶したが、その後、『遅延』で『治癒』を自分にかけて心臓の動きをもとに戻し、動けるようになって今に至る。
上手く『治癒』を誤魔化して戦い続けるのには本当に苦労した。『遅延』を使ったとしても魔法のエフェクト自体は遅延せずに出てきてしまう。
だから俺は作戦を気取られないように自分のダメージを治すためだと思わせて『治癒』を未来に送っていた。
結果、エイフィルは俺に完全に騙された。
「な、んで。君はさっき、死んだはずじゃ」
「すげぇな、その状態でも喋れるんだ」
肉片となっても尚、喋り続けるエイフィルにきもさを感じつつも俺はエイフィルに言い放った。
「もうちょっと相手をよく観察することだな」
エイフィルが調子に乗りやすいやつで助かった。
恐らく今まで負けたことがないから、今回も勝てると思って調子に乗ってしまったんだろう。だが、それがエイフィルの運命の分かれ道となってしまった。
油断してユイに動けなくさせられた。動けない獲物相手だったから異様に攻撃を当てやすかったよ。
俺から本来であれば一撃で死ぬ程度の攻撃を受け、バラバラになってしまったエイフィルに俺は宣言する。
「エイフィル、俺たちの勝ちだ」
「ふっふっふ、いったい何を言っているのよ。あたしは死なない。どれだけ肉体を損壊させられたとしても死にはしない。どう? 今も徐々に徐々に肉体が再生をし始めている。つまり、やっぱり君の攻撃じゃあたしを殺せないっていうこと。それに君はもうその肉体で戦えるのかな? 拳から血が出て恐らく骨も砕け散ってるでしょ」
確かにエイフィルの言う通り。
このまま待っていればエイフィルは何事もなかったかのように復活するだろう。対して俺は右拳が砕け、もうパンチを思うように出せない状態。
はっきり言って絶望的だと言わざるを得ない。
だけど、バルゼットが言っていたから。
俺が一撃で死ぬレベルの攻撃を放つことが出来ればエイフィルを殺す算段があるって。だから、俺はそれを信じる。
「あっはっはっは、ここまで戻ればあたしはもう充分に戦える。誰もあたしを殺せない、勝てない、君も所詮井の中の蛙だったんだよ!」
そうしている間にエイフィルの肉体はほとんど修復が完了し、痛々しい傷はまだ残っているけど、またすぐにでも感知してしまうだろう。
エイフィルは自分の勝利を疑っていない。だからこそ、エイフィルは高笑いをして俺たちを嘲笑う。
だが、俺の視界にはバルゼットが斧を地面に突き立て、そして手のひらを顔面に当てたのが見えた。
直後、バルゼットの眼の前にキラキラと光り輝くカードが出現する。
来るぞ。
「井の中の蛙がどっちだったか、試してみようか。切り札」




