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3-29『壊滅』

「なっ、さっきまでと違う切り札(カード)!?」


 通常、切り札(カード)の数は一人につき、一つ。二つ以上の切り札(カード)を持つことなんてありえない。

 だが、それを勇者の器が可能とした。

 ユイは勇者の器で様々な属性を使用することが可能。そのため、ユイの『魔断絶剣』に様々な属性を付与して使用することが可能となったのだ。

 つまり、『風魔断絶剣』は『魔断絶剣』に風を宿したもの。そして雷を宿すと――


「轟け! 『電魔断絶剣(いなずまだんぜつけん)』」


 剣を一度振り上げてカードを切り裂くと、振り返りながらユイは剣を振り下ろして再びカードを切り裂いた。

 すると稲妻で象られた斬撃がまるでユイの剣の軌道をなぞるようにしてエイフィルへ向かってジグザグとバウンドしながら飛んでいく。


 その一撃は水では防ぎ切ることは出来ず、『終末の大海』は『電魔断絶剣』の斬撃によって一刀両断、二つに割れて一直線にエイフィルへ飛んでいった。


「え、うそうそうそ!?」


 その一撃は見事エイフィルへ直撃。

 雷撃によるインパクトと斬撃による鋭い一撃。その二つのダメージを同時に受けたエイフィルは肉体が縦に一刀両断され、そして雷撃によって痺れてその場に倒れた。

 身体がまだ原型を保っているから意識はある。だが、その一撃はエイフィルの身体を蝕む。


 そう、身体が痺れて動けないのだ。

 それによって再生も阻害されてしまっている。このまま切り刻まれても死ぬことはないだろうが、いつもの何倍も再生に時間がかかるようになってしまった。


(なに、あの子。ただの弱々しい女の子だと思っていたのに、なんて凶悪な技を使うのよ。こんなの、食らった時点で普通の人だったら一発アウトよ!)


 それでもなんとか上体だけは起こしてユイの様子を見る。

 すると、ユイはそこで力尽きてしまったようで、ふらりとよろめくと、直後その場に倒れ込んでしまった。

 さっきも『風魔断絶剣』を使ったことで、ユイは既に限界だったのだ。


(当たり前ね、普通は一回切り札(カード)を使うだけで魔力回路が破壊され、切り札(カード)は暫く使えなくなる上に、魔法なんて使うと魔力を必要以上に消費してしまうのだから)


 連続で切り札(カード)を使えるのはエイフィルの特権。

 彼女は寿命がある限り、体力が尽きることはないし、魔力回路が壊れても瞬時に再生するため、連続で切り札(カード)を使うということも可能である。

 故に彼女に勝てる人はそうは居ない。

 体力が無尽蔵の相手に有限の体力のみで挑まなければいけない。そのうえで、エイフィルは死なないのだから、無理にもほどがあるというものだ。


 そうこうしている間にメルバードも気を失ってしまったらしい。地面に倒れてしまっていた。


 これでもう意識を保っているのはこの場にエイフィルしか居ない。

 この四人相手に相当な寿命を削られてしまったが、もうこの場には自分の敵は存在しない。エイフィルは完全に勝利したのだ。


「は、あはは、あはははははははははははは」


 エイフィルは高笑いをする。

 自分の完全勝利。随分と苦戦させられはしたけど、もうこの場に自分に逆らうことが出来る人は存在しない。

 誰がどれほど頑張ったって自分には勝つことが出来ない。それが完全に証明されたのだ。


 ついでに今の勇者を殺すことも出来る。これほど清々しい日はない。

 ただ一つ、エイフィルに心残りがあるとしたら、


「この子たち、全員気絶してるから死ぬ時の反応を見ることが出来ないわね」


 気絶している人を殺すのは簡単だ。

 だが、エイフィルの趣味的に気絶している人を殺したところで楽しくともなんとも無い。彼女は殺される瞬間の表情を楽しみに生きている異常癖者なのだ。

 気絶している人を殺して満足できるわけがない。


「そうだ、この子たち全員連れ帰って動けないように拘束したうえで目を覚ましたらじっくりいたぶって殺してあげましょうか」


 名案だと思った。

 そうしたらエイフィルは自分の嗜虐心を満たすことが出来るし、死ぬ瞬間の表情をじっくりと監査することが出来るうえに、絶対に助けが来ないっていう絶望感も味わわせることが出来る。

 特にユイだ。ユイは自分をこんな状態にしてきたのだから、恨みが溜まっている。絶対に連れ去られた後は簡単には殺してもらえず、エイフィルに与えた以上の苦痛を味わわせたうえで殺そうとするだろう。


 勇者パーティーは――壊滅してしまった。


「ったく、なんで我が勇者パーティーを手助けしなければならない」


 その時、聞こえるはずのない声が聞こえてきた。

 この場には五人、エイフィル、カルマ、ユイ、ルリハ、メルバード。そのうちエイフィル以外の四人は全員意識が無いし、カルマに至っては心停止していることをエイフィルは感じ取っていた。

 死んだふりというわけでもないというのは分かっている。


 なのに、この四人以外の声が聞こえてきたことによってエイフィルは驚愕し、弾かれるようにして声が聞こえてきた真上へと視線を向けた。


 そこに居たのは筋骨隆々で大斧を背負っている魔族、名をバルゼット。

 明らかにこの街の中に居てはいけない存在がそこに居た。


「なんで魔族がここに」


「我も本当ならここに居たくは無い。ただ、そこのバカに頼まれたのだ。自分が死んだらそこの勇者どもを頼むと」


「へぇ、でも魔族のあなたがそんな約束を守る義理はないんじゃない?」


「それは確かにそうなのだが」


 そこまで言ってバルゼットはゆっくりとカルマとユイへ視線を向けた。その視線は明らかに敵を見る目では無く、カルマには決して見せようとしなかった穏やかな瞳だった。

 バルゼットの中にはカルマが苦し紛れに言い放ったとしか思えないある言葉が無視できずにずっと響いていた。


『…………マナと仲良くなるためだ』


 バルゼットは理解している。

 カルマが魔王討伐に意欲的ではないことを。そしてユイに魔王討伐をすることに迷いが生じていること。

 バルゼットが相手の本質を見抜くことが出来る魔眼を持っているからだ。


 だから、カルマのあの言葉は本心から放たれた言葉だと分かっているし、最近マナが文通している相手が居るということにも気づいていて、こうしてユイの前に来て理解した。そのマナの文通相手がユイであるということを。

 気分は娘に友達が出来た父親のような気分だった。

 バルゼットは古い時代からずっとマナを見守り続けてきた。だから、バルゼットにとってマナという魔王はまるで娘のようなものだった。


 娘の友達は絶対に守らなければならない。それが例え宿敵なのだとしても、魔王様に歯向かわない限り、バルゼットは娘の友達を守る為に戦う。


「へんな魔族ね。じゃあ、今度はあなたが相手をしてくれるっていうことかしら?」


 徐々にしびれが取れてきて再生しだすエイフィルは強気な口調で言い出す。だが、バルゼットは嫌に冷静にとある事実を口にした。


「いや、我一人じゃない」


「はい?」


 その次の瞬間だった。


「『破壊の一撃(デストロイヤー)』」


 今までの衝撃の中で一番の衝撃を感じ、エイフィルはせっかく再生仕掛けていたその肉体が再びバラバラに砕け散った。

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