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3-26『お姉ちゃん』

 カルマが突然倒れた。その事実はユイを、メルバードを酷く動揺させた。

 先日のガルガ事件、あの事件であそこまでガルガを追い詰めることが出来たのはカルマの力によるものが大きい。

 実力の片鱗もその時に見た。


 そんな自分たちよりも圧倒的に強いカルマが地面に倒れ伏したのだ。


「ジャスト五分。お疲れ様〜、あれだけいきがってたのに死ぬ時はこんなに呆気ないんだね。でもまぁ、今まで殺してきた賢者の中でも君はあたしに食らいついていたほうだったから、強いんじゃないかな? 結局あたしには勝てなかったみたいだけどね」


 ユイたちは全く戦いに割って入ることが出来なかった。

 自分の実力では加勢したところで足手まといにしかならないということを本能的に感じたからだ。

 殴り合い、ぼろぼろになりながらも戦っていたカルマ。


 既にルリハは魔力の枯渇によって気を失ってしまっている。そのルリハに元気があったら恐らく錯乱して無謀にもエイフィルへ突撃してしまうだろうという光景が広がっていた。

 ユイですら動揺しているのだ。カルマのファンであるルリハが動揺しないはずがない。


(賢者でも倒せなかったあいてを私たちが倒せるわけがない)


 この光景にすっかり心が折れてしまったユイは絶望のあまり座り込んでしまった。

 カルマが来た時、安心しきってしまった。カルマならば自分たちを絶対に助けてくれるって頼り切ってしまった。

 その結果がこれだった。


 ユイたちに抗う術はもう無い。


(みんな、ごめんなさい)


 ユイが諦めて目を瞑ったその時、隣を駆ける風を感じて再び目を開けた。

 そこに映っていた光景はメルバードがルリハの杖を持ってエイフィルへ向かって突撃している光景だった。

 明らかに無謀な突撃、表情から見てもヤケクソで突撃していったようにしか見えない。


 エイフィルはそんなメルバードを子犬が突っ込んできたのを見たかのような目で見ていた。つまり、メルバードはエイフィルにとってそれほどちっぽけな存在なのだ。

 このままじゃメルバードが死んでしまう。だからユイはメルバードを止めるために必死に声を上げようと思ったが、恐怖が喉に来て上手く声が出なかった。


(このままじゃメルちゃんが!)


 カルマが死んだ、ルリハは行動不能、その上でメルバードまで死んでしまったらユイは自分を保っていられる自信が無かった。

 最悪の場合、ユイの魔力回路が暴走し、そこら辺のものを全て破壊し尽くす生物兵器と化してしまうだろう。


 止めて、お願い、戻って、そんな願いはメルバードに届くことはなく、メルバードはついにエイフィルの間合いに入ってしまった。


「ごめんなさい、ルリハさん!」


「そんなことをしてもどうせあたしを殺すことなんて出来ないんだから、死に急ぐだけなのにね!」


 エイフィルはまるでなんてこと無いものを殴り飛ばすかのような雑なパンチでメルバードを殴り飛ばそうとする。

 雑なパンチでも魔人の拳だ。直撃したらただで済むことはないだろう。

 殴り飛ばされてぐちゃぐちゃになる。仲間のそんな悲惨な最後は見たくなくてユイは目を瞑った。


 その直後、地響きの様な爆発音が聞こえ、そして一人の悲鳴が聞こえてきた。


「あああああああああああああああああああああああああああああ」


 ただ、その悲鳴は明らかにメルバードのものではなかったため、ユイは目を開けて状況を確認してみると、メルバードは爆風に巻き込まれて吹っ飛んだだけで、エイフィルの方が爆発に巻き込まれてぼろぼろになっていた。

 そう、メルバードは研究にかまけて修行自体は怠っていたものの、それでも飛び級でBランクで学園を卒業してしまうほどの実力の持ち主。

 明らかに舐め腐って雑に振るわれたエイフィルの拳など軽く回避してカウンターに杖を叩きつけることなんてわけなかった。


 手にしたルリハの杖には『付与(エンチャント)』で『エクスプロージョン』を込め、叩きつけることによって魔法を発動。

 ルリハの杖を犠牲にしてエイフィルを爆散させることに成功したのだ。


「君、弱いように見せかけてたの?」


「いや、ボクは弱いよ。本当なら冒険者なんてやらずにずっと魔道具の研究をしていたいし、戦うのってなんだか苦手だし。でも、それじゃいずれ費用が尽きて研究ができなくなっちゃう。だから元々才能があった冒険者でボクは稼いで大好きな研究をする。それに、ボクには目標があるから」


「へぇ、それってなに?」


「――お姉ちゃんを超える」


 そういったメルバードの手には既に光の玉が完成しており、魔法を発動する準備が整っているようだった。

 今までメルバードは一度だって本気を出したことはなかった。

 エシュドと戦ったときも、ガルガと戦ったときも、本気で戦おうとはしていなかった。自分で戦うことは好きじゃないから、自分で戦うよりも自分の作り出した発明品たちがどれほど魔物に通用し、そしてこれだけで自分の姉を超えることが出来るかを確かめたかったから。


 本気で戦おうと思えば自分で戦うことも出来たというのに、極力それはしないようにしていたのだ。


「本当は本気なんて出したくないよ。だけど、今回ばかりはヤバそうだから……やるよ。これはその宣戦布告だって思ってくれていい、よ。『シャインバースト』」


 メルバードの手から放たれた光球は目を開けていられないほどにまばゆい光を放ちながらエイフィルへ迫る。

 エイフィルも眩しすぎて目を開けていられなくなってしまっていた。

 普通なら、なんとかして避けようと思うのだが、エイフィルは自分の生命力を過信していたため、それを回避することはせずに直撃、光球は大爆発を巻き起こした。

 メルバードの使える技はその殆どが爆発系。そんな事知る由もないエイフィルは再び木っ端微塵に吹き飛ばされてしまった。


 それだけでは終わらない。

 メルバードはエイフィルが再び形を取り戻す前に次の攻撃を仕掛ける。


「これがボクの研究の成果です! 『メテオドロップ』」


 今度は地面の瓦礫などを集め、エイフィルの上に巨大な隕石を作り出した。

 その大きさは建物一つくらいだったら簡単に飲み込んでしまいそうなほど巨大で、まさに圧巻と言った光景。

 そんな隕石に向かってメルバードは駆け出すと、周囲に隕石を作り出すと同時に積み上げた瓦礫の山を登り、そこから隕石に飛び乗った。


 メルバードはその状態で隕石に手を付けると、隕石にさらなる魔力を込める。


「『付与(エンチャント)』、『エクスプロージョン』。行っけぇ!」


 魔法を付与し、隕石を地面に向かって蹴り飛ばすと、ついに隕石は落下を始め、未だに粉々状態から復帰できていないエイフィルへどんどんと迫っていく。

 とてつもない質量の攻撃、そしてそれに付与された『エクスプロージョン』。

 あれだけの大きさのものが爆ぜたらどれほどの威力になるのだろうか。その威力は計り知れない。


「ユイさん、伏せてください!」


 メルバードの声が響き、ユイは慌てて地面に頭を抱えこむようにして伏せた。

 その直後、隕石は地面に直撃。真っ赤に光り輝いた次の瞬間、あの巨大な質量が爆発を引き起こした。威力は尋常ではなく、落下地点には大きなクレーターが出来上がり、『界割』内の建物は全て木っ端微塵に破壊された。

 上級魔法と上級魔法のあわせ技。この威力は超級魔法に届くと行っても過言ではないほど。事実、ルリハの使った『獄炎界壊』よりも破壊の規模が大きい。


 超巨大爆弾が落ちてきたと言ってもいいものなのだ。この結果は必然だった。

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