3-23『超級 VS 超級』
「ハルト君っ!」
ハルト君がエイフィルに蹴り飛ばされてしまった。
なんとか私はハルト君を助けようと手を伸ばすけど、その手は空を掴むだけで、ハルト君には届かず、そのまま遥か彼方へ飛ばされていってしまった。
私のせいだ。
私が不甲斐ないばかりに、ハルト君に前衛をさせる羽目になってしまって、その上、蹴り飛ばされてしまった。
力不足は常々感じている。
ガルガと戦った時だって、カルマさんが来てくれなかったら私は何も出来ずに死んでしまっていただろうし、今だってハルト君はあれほどエイフィルと殴り合っていたのに、私はその中に入っていける気がしなくて、不意を突くことしか出来なかった。
やっぱりハルト君は強かった。
私たちに会うまでは何をしていたのかは知らないけど、相当鍛錬をしていたんだと思う。そしてサポーターだと言うのに自分で戦えるほどの力を手に入れた。
今の私たちじゃハルト君には釣り合わない。もっともっと強くならないと。
だから、こんなところで負けるわけには行かない!
「やっと厄介なやつが居なくなったよ。それじゃあ、『界割』でもキメよーっと」
エイフィルは胸の前で手を合わせると、突如としてエイフィルを中心とした球状に黒い幕のようなものが発生し、私たちを飲み込む。
夜で辺りが暗かったのが、幕に覆われたことによって更なる闇に包みこまれた。
辛うじて誰がどこに居るのか見えるけど、この中に居続けたらマズイというのは馬鹿でもわかる。
「ハルト! ハルト! ダメだ、通信が通じない」
「無駄よ。あの『界割』っていう闇属性魔法は内と外の世界を完全に分断して出入り出来なくするんだから」
つまり、私たちは完全に孤立。
私たちの力だけでエイフィルを倒さなければいけないということになる。
こっちを見て不気味に笑うエイフィルの姿を見て私たちに緊張感が走る。
魔人の力に慣れていなかったガルガでさえ、マナちゃんとカルマさんが居てなんとか倒せたっていう感じだったのに、私たちだけで倒せるのかと不安になってくる。
でも、やらなきゃダメなんだ。
「さて、これであたしたちを邪魔する者は誰も居ない。これはあたしが死ぬか、君たちが死ぬかのデスマッチ。さぁ、思う存分やり合おう」
エイフィルは飛び上がると、私たちに両の手のひらを向けて魔法を発動する。
「『時雨乱矢』」
手のひらから射出される大量の水の矢。さっきも振ってきたから、ハルト君が隠れるように指示をしてくれた。
間違いなくあれに直撃したら一溜まりもないだろう。
だからルリハちゃんが一歩前に出て構えた。
「『守護』」
私たちの頭上にバリアが展開され、降ってくる雨を防ごうとする。
ただ、ルリハちゃんは光属性の魔法があまり得意じゃない。私とは違ってルリハちゃんには光属性の適性が無いから、この魔法の防御力もどれほどあの雨を耐えられるか分からない。
ルリハちゃんが厳しそうな表情をしている。
同じ上級魔法と言ったって、適性がある人の上級魔法と適性がない人の上級魔法では天と地ほどの差がある。
一発ならまだ耐えられるかもだけど、あれほどの攻撃。
そう考えると私は剣を構えて動き出していた。
耐えられないのなら、吹き飛ばしてしまえば良い。
「『風渦』」
風を剣に纏わせると、私は身体のひねりを加えて、風を周囲に放つようにして一回転しながら剣を振るった。
するとその風は小さな風の斬撃から、やがて大きな竜巻と化し、私たちを中心に飲み込み、まるで私たちを守るかのように風の斬撃が壁となってエイフィルの『時雨乱矢』を弾いていく。
威力は殺せないけど、これならば受け流すことは出来る。
「はぁっ、くっ」
でも、これはまだ未完成で、魔力の消費も大きいからなるべく実戦では使いたくはなかった。
魔力を斬撃として飛ばす以上、無駄に魔力を込めてしまったりして、無駄な魔力を使ってしまうことが多い。
この『風渦』は特にそうで、大量の風の斬撃を放つことになるから、消費魔力が必然と大きくなってしまう。だから、使用直後は力が抜けて膝をついてしまうけど、なんとか『時雨乱矢』を防ぐことが出来た。
「すごいすごーい。なにそれ、初めて見た! 竜巻の魔法じゃなくて、斬撃を竜巻にしてるの!? おもしろーい!」
あの台詞は全て今のを見たとしても自分が勝つことを疑っていないからこそでてくる。つまりは、エイフィルは私たちのことをナメているということ。
確かに三人合わせてもエイフィルより弱いことは事実ではあるけど、勇者パーティーの底力をナメないでほしい。
「はぁ……本気で行くよ」
そういうルリハちゃんの構えている杖の先が赤色に光り輝き始める。
そう言えば、ルリハちゃんがあの杖を使ってまともに攻撃魔法を使っている所、見たことがないかもしれない。
いつも杖を使わずに魔法を使ってるし、『紅蓮廻炎』なんて杖は使えないし。
徐々に光は強くなり、魔力が集まってきているのが見て取れる。
ルリハちゃん、冒険者学園で先生に魔法の腕だけで言ったらSランクにも匹敵するだろうと言われていた。
そのルリハちゃんの力が今、解放される。
「言っとくけど、この杖は魔法の威力を上げるためのマジックアイテムじゃない。魔力を制御しやすくするためのマジックアイテムだから」
その次の瞬間、エイフィルの足下から炎が吹き上げ、エイフィルの肉体を燃やし始める。
もちろんそれだけじゃない。エイフィルの足下以外にも周辺で何箇所かから炎が吹き上げると、エイフィルの頭上で全ての炎が一つにまとまる。
その炎はまるで太陽。明らかに上級の域を超越した人知を超えた光景がそこにあった。しかもそれをルリハちゃんが引き起こしているというのだから更に驚き。
「杖を使うと威力が制限されちゃうから、本当は使いたくないんだけど、超級魔法は今の私が使うと暴走しかねないからね。いつかは完璧に使いこなして見せるよ。ただ、現段階でも超級は超級。威力は申し分ないはずだよ」
あの大火球からは結構距離離れているというのに、まるで目の前であぶられているかのような熱気がこっちにまで伝わってくる。
ルリハちゃんがよく使ってる『紅蓮廻炎』なんて問題じゃないくらいの高出力の炎に思わず冷や汗が流れ落ちる。
「はぁ……『獄炎界壊』」
その火球はルリハちゃんの合図と共に落下し、エイフィルの存在した場所を完全に飲み込んでしまった。
この状態だったらエイフィルは回復しても回復しても肉体が焼き尽くされて上手く復活することは出来ないだろう。
そしてルリハちゃんはその火球に手のひらを伸ばし、そして空をギュッと握りしめた。
瞬間、エイフィルを覆っていた大火球は突如圧縮され、それは爆発を引き起こした。
大気が揺れ、その衝撃だけで地面が、建物が、次々と崩壊していく。私たちも気を抜くと吹き飛ばされそうな程の衝撃だ。
この世の終わりに近しいものを見た気がする。地獄というものを幻視してしまった。
あんな高威力の攻撃、私じゃ絶対に出来ない。しかもあれが本当の威力じゃないというのだからルリハちゃんは末恐ろしい子だ。
ずっと親友やってるけど、ルリハちゃんがあんな魔法を使えるなんてことは知らなかった。
爆風が収まり、ルリハちゃんの方へ弾かれるように振り返ると、ルリハちゃんは力尽きたようにしてその場に倒れ込んでしまった。
「る、ルリハちゃん!?」
まさか、今のって命を引き換えに!? だとしたら、あの威力も頷けるけど。
「ルリハちゃん、死んじゃだめ!」
「なにようるっさいわねぇ。ちょっとは静かにして。私、魔力切れで今すっごく気分がわるいんだから」
「え、あ、ごめん」
どうやらルリハちゃんは魔力切れで倒れてしまっただけだったらしい。
まぁ、そりゃそうだよね。あれだけの魔法を使って魔力切れを起こさないほうが無理があるというもの。
ちゃんと人間らしくて安心した。
「ユイ、失礼なことを考えているのだったら、後で覚えておきなさい」
「い、嫌だなぁ、親友に対してそんなこと考えるわけ無いでしょ?」
ルリハちゃんって頭の中が読めるのかな?
でも、何にせよ、今の一撃に巻き込まれて無事で居る人なんてそうは居るはずがない。むしろ原型を留めているか、ちゃんと身体が残っているのかが心配なくらいの技だったんだから、これで終わったとしても何も不思議じゃ――
「『界割』が消えてない?」
空を見上げる。だが、そこにはあいも変わらず『界割』が存在していて、私たちにある一つの事実を告げてくる。
エイフィルがまだ気を失ってすらも居ないということ。
今の攻撃を受けたのに!
「はぁ……はぁ……普通、こんな街中で超級魔法をぶっ放そうとか考えるかなぁ? あたしが『界割』を展開していたから良かったものの、こんなのをこんなところで使ったらこの街は壊滅するよ? あたしに感謝してほしいくらいだね」
そういいながら現れたエイフィルの姿は皮膚が焼けただれ、血もいたるところから溢れ出し、ところどころ焦げていると言った姿だった。
服も完全に今ので燃え尽きてしまったらしく、全くその身体が隠れていないけど、焦げて焼けただれていて、正直人間としての原型を保っているのかわからないくらいの姿になってしまっているから、局部を認識することは出来ない。
「服もお気に入りだったんだけどなぁ。仕方がないか」
でも、その状態からでもエイフィルは肉体を一気に超再生させ、同時に『ストレージ』から取り出した衣服を身にまとった。
「さて、超級魔法をぶっ放すっていうことは自分たちが超級魔法を叩きつけられるということを覚悟してのこと、なんだよね?」
「っ」
その言葉は私たちを絶望させるのには充分すぎるほどのものだった。
今しがた、ルリハちゃんが超級魔法を使ったことによって超級魔法の凄さは身を持って味わうこととなった。
あれの矛先がこっちに向かっていたらと考えると生きた心地がしないほど。そしてそれが今、現実になろうとしている。
さっきまでも充分怖かったエイフィルの笑みが更に怖く見える。
エイフィルも超級魔法が使えるんだ。
エイフィルは宣言をすると、私たちに手のひらをかざしてくる。死へのカウントダウンが始まってしまった。
目に見える死が超スピードで迫ってきている。
冒険者になるということを決めた時に、死は覚悟していたつもりだったけど、こうもはっきりと目の前に見えてしまうと恐ろしいもので、へたり込んでしまった。
もう十秒もしない内に私たちは死んでしまう。私も恐怖で足がすくんで動けない、メルちゃんも多分あれを止める手段は持ち合わせてない。
ルリハちゃんは魔力切れ。
もう、ダメだ。私たちはもう死ぬしかない。
「じゃあねぇ〜『終末の大海』」
エイフィルの背後から水が湧き上がり、そしてそれはどんどんと大きな波へと変化していき、私たちへと迫ってくる。
あれに飲み込まれたものは波の質量に耐えきることは出来ず、押しつぶされて木っ端微塵になっていく。あれが飲み込まれた私たちの未来の姿だ。
逃げたい。でも、どこに? 私たちの背後には『界割』の壁があって下がることは出来ない。前方には波があって、絶対に逃げられない。
終わった。
もっともっと強くなりたかった。誰にも負けない最強の勇者パーティーになりたかった。
困っている人を助けられる希望の存在になりたかった。
でも、私たちはここで終わるんだ。
涙が溢れてくる。
あまりの絶望にここから動く気力すら湧いてこない。
完膚なきまでに私たちの完敗だ。
――さようなら、ハルト君。私たちは一足先に逝きます。ですが、早くは来ないでください。私たちは死んでもハルト君を応援してますから。
その時、突然声が聞こえてきた。
「てめぇ、何その人を泣かしてやがるんだこのクソ罠女が!!」
その声と当時に大地が揺れた。
上空から降ってきた衝撃波によって大地に巨大なクレーターが出来上がり、波さえもそれ以上の質量がある衝撃波によって消し飛ばされた。
あまりに突然のことに呆然としてしまうが、直ぐに我に返って衝撃波が降ってきた方へと視線を向けてみると、そこには銀色に光り輝く救世主が居た。




