1-5『勇者パーティー』
どうやら俺は勇者パーティーに入れなかったショックで幻覚を見てしまっているらしい。
となると、後から駆け寄ってきたこの少女は親友のカナなのか? と思って顔を見てみたが、こっちの少女はカナとは似ても似つかない姿だった。
青髪で左側にサイドテールで纏めており、青というよりもクリアブルーというべき綺麗で透き通った瞳を持っている。リアに比べたら多少鋭い目つきはあるものの、その表情からはどことなく優しさを感じれる。胸部装甲は…………何も言わないでおこう。一つだけ言うとしたら決してゼロではない、決して。
しかし、なぜ貴様がリアの真横に立っている。その位置はカナの立つ場所だぞ。
「ガルルルルルル」
「野生動物?」
「どうやら何かショックを受けて野生に帰ってしまったみたいだね。可哀そうに」
おい青色、お前に哀れまれる謂れはないぞ。
子供をあやすような感じで頭をなでてくる青色。……今回はリアの顔に免じて俺の頭を撫でているという無礼は許してやることにしよう。リアに感謝することだ。
「それで、どうしてこんなところで蹲っていたんですか? 何かあったなら話してください。もしかしたら何か力になれるかも」
あぁ、幻覚の中のリアも優しいな。見ず知らずの俺に対して優しく話しかけてくれるとは。これだけで俺は幸せすぎて死にそうだ。
あ、もう死んでもいいかもしれない。
というか、俺のような下賤の者がたとえ幻覚の中とはいえ、リアと会話してもいいものだろうか。いや、良いわけがない。俺はこのリア達の物語の中ではその他大勢を徹しなければいけないのだ。
だから俺はリアの方ではなく、青色の方を向いて口を開いた。
「勇者パーティーに応募しようと思ったんだけど……もう募集が終わってしまっていたようで、募集の張り紙が無くて」
「なんで私に向かって言うのさ。…………というか、それ本当?」
俺の言葉を聞き、リアにジト目を向ける青色。
「え、えぇぇぇ? お、おっかしいな。まだ締め切ってないんだけ………………」
リアの言葉が詰まった。
何か心当たりがあったんだろう。言いながらバッグの中を弄っていたリアだが、言葉が詰まると同時にどんどんとその表情が青ざめていくのが目に見えてわかった。それに比例して冷や汗も滝のように流れてくる。
青色はまるで『やっぱりか』とでも言いたげに目を閉じると、顔に手を当てて天を仰いでしまった。
どうしたんだ? この状況について行けていないのは俺だけなのか?
「えっと、ですね。この状況、すこーし言いにくいんですが……あの、そのぉ……」
「このバカが勇者パーティーの募集要項を提出し忘れていた。本当にごめん」
「あ、あうぅぅ……」
青髪がきっぱりと言い放つと恥ずかしそうに顔を手のひらで覆うリア。
え、忘れていた? そんなことある?
パーティーにとってこのパーティーメンバーの募集はかなり重要なもので、募集要項の提出を忘れるということはあまり考えにくいため、一瞬そんなことあるかと疑いそうになるが、リアの様子を見るにそれは本当の事らしい。
と言うかパーティー?
「何のパーティーなんだ?」
「あなたが今言っていた勇者パーティー」
「そうか、勇者パーティーか…………ゆ、勇者パーティーだと!?」
ようやく俺は目を覚ました。
どうやら俺は勇者パーティーに入れなかったと思い込んで現実逃避をしていたようだが、実際はこのリア似の彼女が勇者パーティーの募集を出し忘れていたことで俺は勘違いしてメンタルを破壊されることになったらしい。
勇者パーティーでリア似……そうか、そういうことか。
「ということは君が勇者の」
「はい! 私は勇者パーティーリーダー、勇者のユイ・フィートベルです。そしてこっちは親友でパーティーメンバーの」
「ルリハ・ベータテッド、一応魔法使いをしているわ」
やっぱりこの子は俺が作り出した幻覚のリアではなく、勇者ユイだったようだ。
それにしても、見れば見るほどリアそっくりだな。金髪ロングの緑眼って完全にリアと一致している。
写真では色は分からなかったものの、色までわかってしまった今、俺の中ではユイとリアは同一人物に見えて仕方がなかった。
「あなたはえっと、パーティーに応募しようとしてくれていたんですよね。ありがとうございます。えっと、今から募集要項を提出しに行きますので、お話はそれからで大丈夫ですか?」
「あ、あぁ、大丈夫だ」
「ありがとうございます!」
とてとてと募集要項を抱きしめながら受付カウンターへと小走りで向かって行くユイ。だがしかし、この場にバッグを置いていくのは些か不用心が過ぎるのではないだろうか。
親友ちゃんが見張っているからそんな変な気を起こすつもりはないが――いや、もともとそんな変な気を起こすつもりは無いんだけどな? この間に何か盗まれでもしたらどうするつもりなのだろうか。
まぁ、そうならないために親友ちゃんは目を光らせているんだろうな。
「多分この少しの間で分かったと思うけど、ユイは超が付くほどのポンコツ。だから、勇者パーティーとは名ばかりの、勇者介護パーティーになると思う」
「な、なるほ……ど?」
「勇者パーティーに入るなら覚悟しておいて」
「は、はぁ……」
なんか覚悟のベクトルが違うんだよな。
今までとはレベルの違う命のやり取りになるから覚悟しておいてということなら気が引き締まるし分かるんだけど『勇者の介護をすることになるから覚悟しておいてね』と言われても気が緩んでしまうんだよな。
「とりあえず、どこかに座ろう。ここにずっとたむろしていたら邪魔になる」
「そ、そうだな。えっと、あそこが空いてる。あそこで待とう」
「じゃあ、席を取っておいて。私もあなたもどっちもここから離れたらユイは私達のことを見つけられなくなる」
「どんだけだよ」
ここからあの席までそんなに離れてはいないぞ。
さすがに見くびりすぎじゃないかと思ってしまうが、ルリハの発言は親友としての経験に基づいているんだろうから、否定することはできない。
だからおとなしく見つけた席に座って、ユイとルリハの分の席も取っておく。
カウンターの方へとチラッと目を向けてみるとペコペコと頭を下げているユイの姿が見えた。
あれが勇者の姿か…………確かに彼女はリリウムに選ばれたのかもしれないけど、本当にこの子に勇者を任せても大丈夫なのか?
でもまぁ、ユイ達は冒険者学園を卒業したばかりらしいから、これからいろいろ学んで成長していけば大丈夫か。
基本冒険者学園は十歳で入学し、五年の教育を終えて十五歳で卒業する。十歳で入学して一年で卒業して色々と経験しているのがイレギュラーなのだ。
暫く様子を見ているとようやく受付が完了したようで、ルリハがユイを連れてこっちに歩いてきた。
受付の人にたっぷり怒られたらしいユイは落ち込んで肩を落としてしまっていたが、近くまでやってきたら気持ちを切り替えたのか、小走りで駆け寄ってきて空いてる席に座った。
それに続くようにルリハもゆっくりとユイの隣の席に座る。
「お待たせしました〜。早速かっこ悪いところお見せしてしまいましたね」
あははと笑うユイ。
「じゃあ、早速勇者パーティーについて話していきたいんだけど、まずはあなたのことを教えて貰えますか?」