3-21『分断』
「そろそろワンパターンにも飽きてきたよ。いい加減、あたしを殺す術なんて存在しないって認めなよ」
「そんなのわからないじゃないですか」
「いや、分かるよ。あたしは実は、寿命以外では死なないんだよ。そういう力を持ってるから。そしてダメージを受ける度にあたしは寿命を使って肉体を再生させている。もう面倒だから言うけどね、あたしは切り札で殺した相手の寿命を奪える。つまり、実質あたしの寿命って無限なんだよね。しかも、今まで殺してきて奪って溜めた分の寿命もある。君たちが一生をかけてあたしを殺し続けたとしても削りきれないほどの寿命があたしにはあるんだよ」
嘘だろ……。
俺はエイフィルが言い放った言葉に頭を抱えてしまった。
エイフィルは簡単に俺たちが一生かけて殺し続けても削りきれないって言うが、そもそもとしてこいつの実力が高すぎて簡単に殺せるほどの攻撃を加えられない。
その上、減った寿命もこの場にいる冒険者を切り札の力で殺せば寿命を奪い取ることが出来て、寿命を増やせるだと? 冗談を言うにしてももうちょっと面白い冗談を言ってもらいたいものだ。
つまり、さっきからエイフィルが余裕そうだったのは自分の寿命に余裕があるということを知っていたからということか。
ふざけやがって。
俺でも直ぐにこいつの寿命を削り切るっていうのは難しいだろう。
なら、今からでもあいつを呼ぶか? いや、賢者であるあいつを呼びつけると確実に面倒なことになるし、街もめちゃくちゃになってしまうな。
殺せないならもう、生け捕りしか無い。
覚悟を決め、走り出そうとしたその時、俺の真横を閃光が通った。
ユイはスパーク音を鳴り響かせ、そして雷が落ちたかのような轟音と共にエイフィルへ放たれる目にも止まらぬ一撃。目で見るとまるでその一連の流れは線のようにしか見えないほどの速度を持っていて、エイフィルも突然のことに反応しきれなかったようだ。
「『雷閃』」
雷を纏った斬撃はエイフィルの胴に傷をつけ、そのままぶっ飛ばす。
エイフィルの防御を打ち破るほどの威力は出せなかったようだが、それでもエイフィルが反応しきれないほどの速度を出せたというのは偉業だ。
いつもは風を纏っているユイ。それでも充分速いのだが、風よりも雷のほうが速く、賢者でも目で追うのが難しそうだと思ってしまった。
ユイはあの虚構之迷宮での戦いを経てなにか思うことがあったのだろう。
今までは使いやすいからと風属性を主に使っていたのだが、あの戦いが終わってからは色々な属性を習得しようと頑張っていた。
多分、上澄みを見て、これは風一本じゃ通用しないと理解したのだろう。
普通、人にはそれぞれ得意な属性というものがあり、その属性の魔法以外だと魔力制御が難しかったりする。俺で言うと、身体強化などの無属性以外の魔法は苦手だ。
だが、勇者は違う。
勇者に選ばれるということは世界に愛されるということ。それすなわち、世界の理を制するということ。
全人類で唯一、勇者であるユイ・フィートベルは鍛えれば全属性を同じレベルで使えるということだ。
「驚いたけど、威力はそこまで高くない。まだ完璧とは程遠い練度でしょ。スピードは凄まじいものがあるけど、それじゃあ私にどれだけ攻撃しても有効打は与えられないよ」
それもそうだ。
ずっと使ってきた風属性とは違って、雷属性はここ一ヶ月で特訓し始めたもの。しかも、他の属性も特訓しながらとなると更に練度を上げにくくなってしまっている。
正直、あの技でエイフィルを倒すことは出来ない。
「さて、めんどくさいし……もう終わらせちゃ――」
「『豪拳』」
エイフィルが魔法を出そうと手を伸ばし、無防備になった瞬間を狙って俺は準備していた『豪拳』を右頬に叩きつけ、殴り飛ばす。
さっきレベルの攻撃をされたらユイたちは一溜まりもないだろうから、絶対に阻止しなければならない。
そしてさらに走ってエイフィルの後ろに回り込むと、今度はその背中に蹴りを叩き込んで蹴り返した。
「もう、邪魔しないでよね! 本当に今から君たち全員を殺そうと思ってるんだから!」
「そんな事、させると思っているのか!」
再びエイフィルに急接近した俺は拳を繰り出し、エイフィルが片腕で防御してきた。相変わらずすんごい体勢で受け止めてくるものだから、ため息が出てしまう。
だが、諦めずにもう片方の拳を放つと、今度はもう片手で弾いてくる。そしてそのまま拳を放ってきたため、俺は身を翻して蹴りを放つが、それは足で受け止めて防御された。
互いに拳や蹴りを放っては防御するという一進一退の攻防。
しかし、流石に本気を出していない状態ではかなり厳しく、段々と押され気味になってきてしまうが、そこに雷が轟いた。
「くっ」
雷を纏い、俺の背を身隠し道具として使用して、一気に飛び出したユイはエイフィルの胸に突き攻撃を放った。
それをエイフィルはのけぞることによって回避してみせたが、それが俺にとってはとんでもない隙に見えて、その開けきった胸に肘を落としてやるが、咄嗟に両腕をクロスして防御されてしまった。
これほどまでに俺の攻撃がなかなかヒットしないとは……。
やはり魔人というものは恐ろしい。魔人がここ数年は出没報告がなかったけど、もし魔人が出没したら賢者を派遣するというのは痛いほどよく分かった。
というか、普通はこんなに魔人と遭遇するものではないんだけどなぁ。俺達の運が悪いのか。
「もう、死ななくても痛いものは痛いんだよ。特にハルトの攻撃なんてすっごく痛い。だからさ、後で相手してあげるから、君の仲間たちを皆殺しにするまで、ちょっと待っててよ」
「黙って待つわけ無いだろ! 仲間は絶対に殺させないし、絶対にお前を倒す!」
「でもね、無理なんだよ。今まで色々な賢者があたしを倒そうとしてきたけどさ、無理だった。君にそれが出来るのかな?」
「やってやるよ。だから大人しく俺にやられろ!」
「だから、後で相手にしてあげるって言ってるでしょ? だから、今は、どっか行ってて!」
「なっ!?」
急に腹部に感じた衝撃。
あの体制から俺に蹴りを放ってきたのだ。
そしてその蹴りには威力こそそこまで無かったものの、蹴り飛ばす力には全く抵抗が出来なかった。俺の身体は宙を舞い、路地を脱出してちょっと遠くの方にまでぶっ飛ばれてしまう。
空中では流石に俺にはどうしようもない。空気を蹴ることが出来るわけでもないし、俺は着地できそうなところが見つかるまでは待つしか無い。
あいつ、ユイたちを殺すって言ってたから早く戻らないといけないというのに……っ!
ようやく勢いが落ち着いてきて、屋根に着地できそうな高度まで落ちたため、俺はなんとか体制を立て直して屋根になんとか着地。
思ったよりも遠くへ飛ばされてしまったらしい。
この場所からじゃさっきまで戦っていた場所が米粒のようにしか見えないほどだ。
急いで戻らないといけない。だが、その前に俺はブレスレットのダイヤルを完全に緩め、腕から取り外す。
魔人が相手なのだ。手加減をしている暇なんて無い。
魔力が溢れ出し、俺の髪色がどんどんと白色へ変化していく。もう街中だとか関係ない。
生きていることがバレたらその時だ。
「なんとか無事で居てくれ!」
俺は全力の身体強化を足に付与して屋根の上を駆ける。一直線に、最短で、一秒でも早く戦いに戻ることが出来るように。
だが、そんな俺の視界には俺の侵入を拒むように目的地を中心とした黒い球体の膜のようなものが広がっていくのが映った。




