3-17『魂を』
魂の殺害。
通常、肉体が死ねば魂は消滅し、そのまま死に至る。そのため、魂へ直接攻撃し、ダメージを与えることは不可能とされている。
だが、例外はある。
その一人が魔王だ。魔王は肉体が死んだとしても魂だけは残り続け、後の世に復活を果たすことが出来ると言うとんでも能力を保有しているのだが、それと類似しているもので言えばガルガもそうだった。
ガルガは死んだと言うのに執念だけでこの世に魂が残り続け、俺たちを追い詰めてきていた。
つまり、死後も魂が現世に残り続けるような奴らには魂への攻撃が可能ということになる。
恐らくエイフィルもその類のやつだ。肉体を殺されたとしても、どういう原理かガルガとは別の原理で蘇っているのだと思う。
破壊の一撃なんてSランクでも倒せるほどに強力な一撃を何度も食らって尚、死なないというのはそうとしか考えようがない。
問題はどういう原理で復活しているのかということなんだけど、それがわからないからワンチャンにかけて魂の殺害を考えた。
魂を殺すことが出来る人はこの世でただ一人、勇者であるユイのみだ。ユイの攻撃だけが相手の魂に攻撃を届かせることが出来る。
「三人とも、どうやらあいつはどういう原理かはわからないけど、ガルガと同様に肉体を殺しても死なないらしい。だから、多分ユイの魂への攻撃じゃないと倒せない」
「はぁ……なんで私たちってそういうたぐいの人とばっかり接敵するんでしょう」
「勇者パーティーの性なんじゃない?」
ため息を付くルリハ。
魂が残り続ける人っていうのは本当に珍しいからこんなに短期間で二回も出会うわけがないんだけどなぁ。
俺も今までの人生で魂が残り続ける人はマナを除くとガルガしか見たことがないほどだ。
本当に面倒な相手だよ。
四人でも結構きつそうな相手だ。
でも、みんな成長している。今の実力なら俺たちで力を合わせれば勝てる可能性は高い。
それにしてもあのエイフィルのニヤケ面はイラッとするなぁ。
絶対にあのニヤケ面を歪ませてやる。
ユイが剣を鞘から抜いて構えたため、俺はユイに身体強化を付与。そのパワーを使ってユイは一気に駆け出した。
勇者パーティー内では俺はサポーターということになっているから、俺はユイたちのサポートに徹することになる。どこの世界に自分からぶん殴りに行くサポーターが居る? っていう話だ。
「はぁっ!」
「直線的な動きだね、そんなんじゃあたしに攻撃は当てられないよ? 『ウォーターショット』」
「私は勇者ですから! 絶対にあなたの様な人は許しません」
エイフィルの手のひらから放たれたウォーターショットを斬り伏せ、エイフィルに急接近。
袈裟斬りの構えでエイフィルの懐に入った。
だが、そこから振るった一撃はエイフィルを斬ることはなく、エイフィルは後ろに飛び退くことで回避してみせた。
さっきからエイフィルは身体が軽いからか、身のこなしが軽やかだ。バックステップもまるで浮き上がったんじゃないかと錯覚してしまうほどだった。
「やるねぇ、ならこれは受けきれる? 『水天槍牙』」
後ろに飛び退きながら手のひらに水の槍を作り出したエイフィルは着地と同時にその槍を投げはなった。
上級魔法。これを剣で相殺するとなると相当な腕前が必要。
ユイだとちょっと不安が残るけど、問題ない。俺の横にいるルリハが既に準備完了している。
「勇者パーティーってその子だけじゃないんだよねっ! 『紅蓮廻炎』」
エイフィルが飛び退いたときには既に構えていた炎の弓矢。それをルリハは『水天槍牙』へ向けて放つ。
どちらも上級魔法で互角の威力を誇っている。
ただ、エイフィルの方が魔法の腕前は上というのと、火じゃ水に対して分が悪いという事で相殺し切ることは出来ず、『紅蓮廻炎』の方が負けてしまった。
でも問題ない。この一撃のお陰で威力が下がり、ユイは残った『水天槍牙』を斬り伏せた。
「上級魔法も使えるんだね、すご――」
瞬間、爆発が巻き起こり、エイフィルの身体を爆発の衝撃が襲った。
ルリハの『紅蓮廻炎』のどさくさにまぎれてメルバードが魔石を投げていたのだ。それが今爆発した。
だが、この攻撃では大したダメージにはならないというのは検証済み。というか、爆発の煙が晴れると、さっきとは違ってまるで何事もなかったかのように突っ立っているエイフィルが居た。
「あのね? さっきは戯れでダメージを受けてあげたけどさ、この程度の攻撃があたしに効くわけ無いでしょ?」
「えぇ、でも、ああいう攻撃一つ一つがあなたを追い詰めてくれるんですよ!」
ユイが剣を振るった瞬間、キィンと甲高い音が鳴り響いた。
ユイの攻撃に合わせてエイフィルは自分の腕を氷漬けにして剣を受け止めたらしい。
あれはまるで氷というよりも金属化したといった方が良いような硬度だ。現に金属同士がぶつかりあった音に近いような音が鳴り響いた。
受け止められた。だけど、大丈夫だ。ユイの攻撃はまだ終わらない。
「『絶風転身』」
「っ、風のダミー!?」
風がまるで実態があるかのように動く風の中級魔法。
エイフィルが攻撃を受け止めたときには既に、エイフィルの真後ろで構えていたのだ。
後ろに回り込んだユイは頭上に剣を構える。あの構えは前に見たことがある。ユイのやつはこの一撃を当てて終わりにするつもりらしい。
ならばと俺は全力で身体強化をユイに施し、ルリハに目配せをする。
「くっ」
その場から慌てて離れようとするエイフィルの足はいつの間にか鎖によって繋がれていた。
「『闇の鎖』。あんまり闇魔法得意じゃないから使いたくないんだけど、大人しくしててもらうよ」
ルリハの鎖によってエイフィルは動けなくなった。この状態なら確実にユイの攻撃は直撃する。
ユイの攻撃で倒すことができれば魂も斬って確実にエイフィルを倒すことが出来るはずだ。いや、そうであってくれ。
じゃないともう他に対処方法が思い浮かばないから。
俺たちの思いを込め、ユイが剣を構え、そして宣言する。
「切り札『風魔断絶剣』!!」
竜巻にも似た風を纏った剣をエイフィルに振り下ろす。直後、この場所に大きな竜巻が発生。
斬りたいものだけを斬り、斬りたくないものは斬らない。だから俺たちは竜巻に巻き込まれる範囲内に居るけど、一切の影響を受けず、そして周囲の建物も全く被害を受けていない。
ただ一人、エイフィルだけはこの風の斬撃の嵐にさらされ、どんどんとその身を削られていく。
これだけの攻撃をしたら大抵の相手は倒すことが出来る。
エイフィルもこの状況では身動き一つ取れないはずだ。その状態で、この攻撃を受けて無事で居られるはずがない。
お願いだ、これで倒せてくれ。そう願うも、そう簡単にはことは進まないらしい。
「あっはは、これすごいね。動けないや。本当に必殺技、必ず殺す技っていう感じだぁ。でもね、これじゃあたしを倒せないみたいだよ?」
「な、何言ってるんですか。あなたは今、私の攻撃で細切れに」
「でも現実を見なよ。あたしはこんなにピンピンしてる。いい加減諦めたらどう? 私を倒せる人なんてこの世界のどこにも居ないんだから」
そこでエイフィルは戯れはおしまいだとでも言いたげに腕を振るうと、ユイの魔力をかき消して竜巻を消し去ってしまった。
ユイの切り札でも倒せなかった。その事実は俺たちに重くのしかかる。
俺の最大火力を除けばユイの切り札が一番の高火力技のはず。それが効かないとなると、どうやってあの化け物を倒せばいいと言うんだ。
「でもね、ちょっと痛かったから、お・し・お・き?」
「へ? ――あがっ」
次の瞬間にはユイは背中から建物の壁に激突する羽目になっていた。
エイフィルに身体強化をした状態で蹴り飛ばされてしまったのだ。まともに背中を強打してしまったから激痛で直ぐには動くことは出来ないだろう。
そうなると、ルリハもメルバードも近接戦は得意じゃないからユイを助けに行くというのは厳しい。
俺が一時的に離脱してカルマとして戻ってくるか?
もう出し渋っている暇はないだろう。どうにかして離脱して――
「おい、お前らこんな場所で何をやってる!」




