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3-16『醜悪』

「もう、何回殴り飛ばすの? もうそれ飽きたんだけど」


「じゃあ、お前が諦めてお縄に付けばいいだけの話だ」


「うーん、それもつまんない。だからね、良い余興を思いついたんだ」


「なんだよ」


「うっい……なんだなんだ? 騒がしいぞぉ。夜なんだからちったぁ静かにしろっうい……」


 突然路地の入口方面から酔っぱらいと思われるそれなりに老いた男が路地に侵入してきた。

 口ぶり的にどうやら音を聞きつけてやってきたっぽいが、酔っ払いすぎてこの状況をうまく把握できていないようだ。

 この惨状を目の当たりにしたら命の危険を感じて逃げるくらいは思想だが、正常な思考能力が欠如してしまっている。


「おい、おっさん! 早く逃げろ!」


「ねぇ、おじさん。私と良いことしない?」


「あ、なんだぁ? おめぇさんがきじゃねぇか。おらぁガキは好きじゃねぇんだわ」


「まぁまぁ、そんなことを言わずに……」


 酔っぱらい男に対して俺にやってきたのと同じようにしていいよっていくエイフィル。

 止めたい。だが、エイフィルの近くに男が居るせいで思うように動けない。下手に動けばあの男が殺されてしまう可能性があるから。

 だが、隙が出来たら絶対にこの拳をもう一発叩き込んでやる。拳が壊れようと関係ない。

 この街を守るのが一番だ。


「私ね、一目惚れしちゃったぁ。おじさん格好いいもん」


「そ、そぉか? 照れるなぁ」


「私、おじさんみたいな人……」


「っ、おい、おっさん! 今すぐそいつから逃げろ!!」


「『ダイスキ』なんだよね」


 俺の叫びも虚しく、俺が危険だと感じたあの言葉を酔っ払いは聞いてしまい、挙句の果てにはその言葉の直後にエイフィルは酔っ払いの頬にキスをしてしまった。

 マズイ、あのおっさんが殺されてしまう。

 俺が受けた時、あの言葉には間違いなく魔力が籠もっていた。一種の言霊のような能力だろう。

 あれを受けたらどうなるのかはわからないけど、恐らくギルドマスターに聞いた人たちと同じように……。


「おぉ、若い子に好かれるのは悪い気はしないなぁ」


「え」


 てっきり心臓が捻り潰されて殺されるのかと思っていたのだが、酔っぱらいは平然とエイフィルにキスをされたことに照れている様子だった。

 死なない。何事もなかったかのように生きている。

 じゃあ、あの時に感じた魔力はいったい何だったんだ?


 とにかく……。


「エイフィル、その人から離れろ。その人はこの戦いとは無関係だ。お前は俺を殺したいんだろ!」


「いいよ? 別にこの人を殺したかったわけじゃないし。老い先短い老人を殺しても得るものはなにもないし……」


「は?」


 思わず俺は素っ頓狂な声を出してしまった。

 思ったよりもあっさりと男を解放したため、なにか裏があるんじゃないかと勘ぐってしまうが、エイフィルは二歩三歩と男から離れてくれたため、俺をナメて居るとしか思えない。

 じゃあ、その慢心を後悔させてやるよ。


 狙いはわからないけど、元賢者カルマ・エルドライトの恐ろしさをその身を持って味わわせてやる。


「喰らえ! 『豪拳』」


「いいよ、気が済むまで殴りなよ」


 俺は拳をエイフィルの顔面に叩きつけ、その顔を殴り飛ばした。

 破壊の一撃(デストロイヤー)よりは威力が低いけど、それでも俺の攻撃手段の中ではかなりの威力を誇る技。

 防御もせず、まともに受けてしまえばひとたまりもないはず――


「えっ」


「ありゃりゃ〜やっちゃったね」


 殴り飛ばしたのに平然と立ち上がってこっちを見据えているエイフィルは面白そうにニヤニヤと笑いながら俺のしたことを咎めるように言った。

 だが、俺はそれどころじゃなかった。

 先程エイフィルに囁かれていた男の頭部が破裂した。それはエイフィルを殴ったのと同時だった。まるで、俺の拳がこの男の頭を打ち抜いたみたいに。


 最悪の気分だった。


「おっと、あたしを責めるのはお門違いだよ。それは間違いなく君がやったんだ。君がその男を殺したんだよ」


 エイフィルの言葉から察するに恐らくこの力はエイフィルの力によるもの。それも、最悪なことにダメージ共有だ。

 ダメージを受ければ能力をかけた相手にも同じダメージを与えるというとんでもない力。

 その上、自分は謎の力によって何事もなかったかのように回復してしまう。


 やってられない。


「あーあ、おじさん可哀想に。後もうちょっとは生きられただろうにね。君のせいだよ? 君があたしを攻撃したからおじさんが死んじゃった。君があたしに喧嘩を売らなければこのおじさんは死ぬことはなかった」


「今日俺がここに来なかったとしても俺以外の誰かを殺していただろ。その中にあのおじさんが入っていたかもしれないだろ」


「でも、それはそれ、これはこれなんだよ。君が攻撃したことで死んだと言う因果は変わらないんだからさ。君はあたしのことをまるで人殺しみたいに言うけどさ、君もあたしと同じ人殺しになったというわけさ」


 なんて悪趣味なことをするんだ。

 自分の手は汚さず、相手の攻撃によって人を殺す。

 あと、お前は人殺しみたいじゃなくて正しく人殺しだ。その事実は覆りようがないし、あのおじさんを殺したのは結局お前の能力だということも変わりない。

 価値観が違いすぎるし、あいつは頭がイッちゃってる。そのせいでまるで会話が成り立たないし、いくら反論しても無意味だ。


 これ以上ダラダラと戦っていたところでどんどん被害が増えていくだけだ。なら、その前にどんな手を使ってでもこいつを――


 嫌悪感MAXで、ブレスレットを外してでも戦おうとブレスレットへ手をかけたその時だった。


 カランとエイフィルの眼の前に小さいものが転がった。

 その存在を確認すると、俺は直ぐに後ろへ飛んで退避。エイフィルは俺の様子を不思議がっては居たけど、それの効力を知らないから動かない。

 エイフィルの前に飛んできたものは、魔石だ。


 次の瞬間、夜の街に爆発音を轟かせ、魔石は爆ぜた。中に入っているのはエクスプロードだからそこまでの威力ではないが、至近距離で見ると相当な迫力があるものである。

 それで、この魔石がここに飛んできたということはもちろん。


「ハルト君、遅くなってごめんなさい!」


「大丈夫だった?」


「なんか戦っていたような雰囲気があったので魔石を投げましたけど、大丈夫でした?」


「あぁ、問題ない。だけど多分、この爆発も全く効いてないんだろうな」


 勇者パーティーの三人がついに駆けつけてくれたことで少し肩の力を抜く。俺一人じゃなく、三人で戦えるならやりようがある。


 メルバードの問に答えつつ、爆発によって発生した煙の方へと視線を向けた。

 エクスプロードを至近距離で受けたのだから、いくらエクスプロードと言えども普通はただでは済まないはず。それも、さっきのエイフィルは防御も何もしていなかったはずだからまともに受けたことだろう。

 だから、爆発の煙が舞い上がり、それが徐々に晴れてきてその先に見えた光景を直視し、そして絶句した。


「え」


「夢、ですよね」


「嘘……」


 俺はこうなるだろうなと思っていたから驚きも小さいが、三人にとっては衝撃もデカいだろう。

 エイフィルはエクスプロードの爆発によって肉体を大きく損傷した。皮膚がずたずたになり、中身が見えてしまっている。

 だが、ニタァと笑みを浮かべると周囲に飛び散った肉片が徐々に徐々に彼女へ集まり始め、その肉体の損傷を回復させていく。

 あれほどの実力者だったらあそこまでのダメージは受けないはずだが、このくらいでは死なないという余裕からくる戯れのつもりなのだろう。

 本当に嫌なものを見せてくるものだ。


「いやぁ、びっくりしたよ。でもざんねーん、あたしはこの程度では死なないんだよね。びっくりした? ねーねー、びっくりした?」


 さて、この人間やめたやつをどうやって倒したものか。

 攻撃しても攻撃してもまともに効いていない気がする。肉体的にダメージを与えても意味がない。それはここまで攻撃して理解したこと。

 そうなれば、可能性があるとしたら――

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