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3-15『もどかしい』

 ユイたちは大丈夫だろうか。ちゃんと頑丈な屋根の建物の中に隠れることが出来ただろうか。

 あいつ、めちゃくちゃしやがって。多分、屋根が弱い建物は今の雨で軒並み潰れてしまったに違いない。

 あのレベルになるとやろうと思えば大災害を引き起こすことが出来るから街中で接敵したら本当に厄介だ。

 俺もここが街中じゃないって言うなら遠慮せずに本気で戦うんだけど、フィールドが悪い。


 もどかしい。


「あ、あの、お客様大丈夫でしょうか?」


「はい?」


 顔を上げてみると、そこには心配そうに見てきている店主だと思われる一人の男性。そして周囲には大勢の女性が俺のことを不審そうに見てきていた。

 その女性たちは誰もがちょっと際ど目の衣装を身にまとっており、目のやり場に困ってしまうような状況。

 だが、理解した。

 俺が偶然逃げ込むために飛び込んだ建物は娼館だったらしい。

 外から見た感じでは特にお店らしき雰囲気はなかったのだが、中に入ると受付や飲みスペース。それから奥に繋がる廊下のようなものもあることからあっちの方に個室もあるに違いない。


 俺は娼館に来るつもりはなかったのに、結局娼館に来る羽目になってしまった。


「大丈夫ですか? それにさっきから外からものすごい音が聞こえてきますが」


「俺は大丈夫です。それよりも皆さん、今すぐこの場から逃げてください。この場所は既に戦場になっています。ここに居たら巻き込まれますよ」


「え、ど、どういうことですか?」


「突然のことに困惑されるのも無理はないと思います。しかし、早く逃げてください!」


 俺は必死に避難勧告をするが、突然言われて「はい、わかりました」と素直に受け入れることが出来るわけがない。

 あの人たちから見たら今の俺は酔っ払って変なことを言っている頭のおかしいやつに見えてしまっているのだろう。娼館に来ているのだから、そういうプレイだと思われていてもおかしくはない。


「お客様、一旦お水を飲んで落ち着きましょう。お酒の飲み過ぎは良くないですから、程々に」


「違う、聞いて下さい。本当に――」


 瞬間、俺が飛び込んできた入口のドアが木っ端微塵に吹き飛んだ。

 どうやらもう見つかってしまったらしい。まだここの人たちも避難できていないというのに、最悪すぎる。

 振り返って入口前に立っているエイフィルへと目を向けた。


 どうやらドアは身体強化をして蹴破ったようで、足を振り上げた体勢でそこに立っていた。


「あら、やっだぁ、もう。ハルト君はこんな所に逃げ込んで、あたしといったい何をするつもりだったのかなぁ?」


 うぜぇ。

 恥ずかしそうな素振りを見せ、顔を隠して俺をチラチラ見ながら腰をくねらせている。

 ったく、なんでさっきのパンチを受けたのにまだこんなに元気があるんだよ。

 俺は戦うのは好きだし、本来の俺だったらこのレベルの相手だったら喜んで戦うんだけど、状況が状況だから喜ぼうにも喜べねぇ。


 だが、これでここの人たちも状況を理解できたはずだ。


「い、いやぁ、いやあああああああああああああああああああああ」


 一人の女声が悲鳴を上げる。

 その声に釣られて女性の方を見てみると、女性はある一点に視線を向けていた。


「っ!」


 店主の男性が頭から血を流して倒れていた。おそらくは先程エイフィルが破壊したドアの破片が店主の頭に直撃してしまったのだろう。

 大丈夫だ。死んでは居ない。

 頭は血管が大量に詰まっているから出血量も多いし、痛々しく見えるけど、そこまで深い傷というわけでもなさそうだし、直撃したショックで気絶しているだけだ。

 今すぐにでも回復魔法をかけてあげたいところだが、エイフィルはそんな隙は与えてくれることはないだろう。

 そしてこの店唯一の出入り口をエイフィルに塞がれてしまっている。このままじゃこの人たちが逃げることも叶わない。


 やるか。


「みなさん、俺が隙を作りますから、その隙にその人を連れてこの場から全力で逃げてください。チャンスは一度きりと思ってください。あのレベルの相手だとチャンスを作るのもすごく難しいのでっ!」


 俺は娼婦たちの返事を聞くことはせず、真っ先に自分の考えた道筋の為に行動を開始する。

 目標はあいつが娼婦たちを狙う隙を作らせず、そしてこの場から離すこと。この二点をクリアすることができれば俺の勝ちだ。

 俺一人で出来ることといえばこの位だ。


 ゼルのやつだったら全てを完璧に終わらせるんだろうけどな。


「皆さん、目を瞑って! 『光豪(こうごう)』!」


 俺は手のひらに作り出したピカピカと光り輝く玉を地面へ叩きつける。その瞬間、周囲にまばゆい光が放たれ、周囲の人々の視界を奪う。

 その眩しさ故に、目を開けてまともに受けてしまったら暫くの間、視界がまともに機能しなくなってしまうと言う特性がある。


 しかもこの暗さの中で戦っていたんだ。真っ暗な中から急に眩しい場所に移動すると目がチカチカしてまともに目を開けていられなくなる。

 それはどれだけ強くなったとしても変わることはない。エイフィルも同じはずだ。

 だからエイフィルの行動も封じれているはず。だから後は俺があいつをぶっ飛ばせば――


「じゃーん!」


 目を開けてエイフィルに視線を向け、俺はぎょっとした。

 得意げにエイフィルが手に下げているのは巷で流行っていると噂のサングラス。確か目へ入ってくる光量を減らすことが出来るのだとか。

 それを持っているということはつまり。


「そんな子供だましに引っかかるのなんてEランクまでだよね。きゃはは」


「なんでそんなもの持ってるんだ、くそっ」


「女の子はね、こういうおしゃれには敏感じゃないといけないわけよ〜。というわけで、残念でした〜」


 これは本格的に困った。

 真正面からぶつかったとして、対処される未来しか見えない。俺が本気を出せばわからないけど、こんなところで本気を出すわけには行かない以上、この状態でなんとか頑張るしか無い。

 だが、今の状態でどこまでやれるか……。

 いや、やれるかじゃなくてやるしか無い。


「おらあああああああああああああああああああああああああああ」


「あれ? もうやけくそになっちゃった? つまんないなぁ……もうちょっと楽しめると思っていたのに」


「なら、お望み通り楽しませてやるよ」


 エイフィルは殴りかかろうとしている俺のことを舐め腐って腕で受ける気まんまんだが、この拳は当てればそれでいい。

 パワーで押し切るつもりなんてどこにもない。

 これは雷を纏わせたパンチだから、受けるだけでも痺れるぞっ!


「『激雷』っ!」


「え、くぅっ!」


 雷の衝撃で思わず腕を解いてしまったエイフィル。

 無防備になったその胴体にもう一発。今度は全力で殴り飛ばすだけを狙って放つ。


「『破壊の一撃(デストロイヤー)』」


 俺の一撃は見事エイフィルの胴体にクリーンヒット。空き家方面へと殴り飛ばした。

 直後、エイフィルが空き家に激突したのか、轟音が聞こえてくるが、そのことの確認よりもまずは先にしなければいけないことがあるため、俺は振り返る。


「くっ」


 だが、拳に痛みが来て思わず苦痛の声を出してしまった。

 今のはだいぶ無理をしてしまった。

 破壊の一撃(デストロイヤー)は威力がめちゃくちゃ高い代わりに身体にかなりの負荷がかかってしまう。

 今ので二発目。たったこれだけで右の拳が壊れ始めてしまった。もうあまり無茶なことは出来ないな。


「早く、逃げてください!」


「は、はい!」


 俺の言葉に娼婦たちは店主の男を連れて一目散にこの路地から逃げていった。

 それを確認し、もう一度エイフィルの方へと視線を向けると、そこには瓦礫の上で既に立ち上がっているエイフィルの姿があった。

 あれは本当に俺と同じ人間なのか? それに近しい化け物なんじゃないかと疑いたくなってしまうような光景に頭を抱えてしまう。

 今のは俺の渾身の一撃だったんだぞ。


 ため息を付きつつ、エイフィルのことを観察していると、確かに今の一撃はちゃんと効いていたようで、手足があらぬ方向へと曲がっている。

 確実に骨が折れている。あの状態じゃもう戦えないだろう。

 そんなことを考えていたのだが、エイフィルの手足はまるで何事もなかったかのように正常な形へとみるみる内に戻ってしまった。

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