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3-14『強敵』

 効いた手応えがなかった。一応悲鳴は上げていたけど大したダメージにはなっていないことだろう。現に、壁に激突した直後に普通に立ち上がって見せている。

 ブレスレットを付けて力を抑えているとは言え、俺の魔法を食らって無傷とはちょっと自信無くすなぁ。Aランク以上は確定じゃん。


 面倒な相手に当たったな。


「敵を発見した。対処する」


『了解です! 私たちもすぐ行きます』


 見ていたとは言え、敵に悟られないようすぐ近くには待機していないはずだ。だから俺はみんなが来るまでの時間稼ぎをする必要がある。

 賢者が時間稼ぎかぁ。賢者と対義語の様な言葉だ。

 賢者はそれだけの時間があったら敵を倒してしまえる生物だからな。


「な、なにをするんですか? 痛いじゃないですか」


「痛くないだろ、お前。一応、今のはCランク程度の魔物だったら一撃でノックアウトできる威力のはずだぞ。それを平然と立ち上がりやがって……お前、連続殺人の犯人だろ」


「……何を言ってるんですか、私がそんな事できるわけないじゃないですか」


「は? バカかお前。確かに上手いこと敵意を隠していたみたいだけどな。最後の方、俺を殺せると思ってテンション上がって殺気隠しが雑になってただろ。バカでも分かるレベルだったぞ」


 俺に近づいてきたときには既に殺気がダダ漏れだった。

 ちょっとは付き合ってやったけど、最後言葉を発している時に魔力を感じたから、これ以上続けさせるとマズイと理解してぶっ飛ばしてやった。

 胸に手を当て自分の心臓の鼓動を確認するが、正常だ。なにか異物が入り込んでいたりする気配もない。


「へぇ、ただの馬鹿だと思っていたのに、意外とやるもんだね」


「はぁ、良かったぁ。もしかしてここには居ないのかと思っていたけど、思ったよりもちゃんと釣られてくれて良かったわ」


 この行為がただの徒労で終わり、犠牲者が他に出ていたと考えるとちょっと笑えない。

 だからさっきからテンションが低かったのだが、ようやくお目当ての相手を見つけることが出来てちょっとテンションが上ってきた。

 流石にこのレベルの相手となると、今の力じゃ厳しいため、ブレスレットのダイヤルを緩め、少し本気を出すことにする。


「はぁ……まぁバレちゃったならもう隠す必要はないかなぁ。あたしはエイフィル・メイバール。もうちょっとこの街の人からアイをもらいたいところだったけど……仕方がないよね。でも、最後に君からアイを貰って上げる」


「ハルト・カインズだ。悪いが、あんたみたいなのに渡す愛なんてものは持ち合わせてないんでな! 『身体強化(ブースト)』」


 一応ユイたちには無茶をしないように言われているけど、正直今の勇者パーティーにはこいつの相手は荷が重い。

 元賢者である俺がユイたちの到着前に片付けるというのが一番丸く収まる。

 だから、速攻でケリつける。


 地面を思い切り蹴り、エイフィルへと急接近。流れるような動作で身体強化を拳に載せ叩きつけた。


「もう、暴力男は女の子に嫌われるよ?」


「くっ」


 エイフィルは俺が拳を振り下ろした瞬間にジャンプし、俺の腕の上に乗ってきた。あまりにも軽すぎて質量が無いんじゃないかと思ってしまうほど。

 腕に人一人が乗っかっているのに全くそれを感じない。

 明らかに普通じゃない。常に自分に何らかの能力を行使しているということか? だとしたら魔力量も膨大すぎて笑えてくるな。


「身体強化はね、こうするんだよっ」


 すると身体強化を施した足で俺の顔面をまるで玉蹴りのように蹴り飛ばして来た。

 それを受けてしまった俺は少し仰け反ったが、なんとか耐えて腕を振ることで上に乗ったエイフィルを投げ飛ばしてやった。

 鼻血が出てきた。俺の魔力による防御が全く通用していない。


 ったく……今日はどれだけ俺の防御を無意味にするやつが出てくるんだよ。こいつで今日会うのは二人目だぞ。

 俺の防御を貫通できる人ってそんなに居ないはずなんだけどなぁ。


「『水天槍牙(すいてんそうが)』」


「は?」


 様子をうかがっているとエイフィルは俺に投げ飛ばされたままの耐性で手のひらに水のやりを作り出して、それを体勢が悪い状態で俺に向かって的確に投げ飛ばしてきた。

 それをなんとか避けるが、その威力は凄まじく、俺の背後にあった建物の一部を破壊してしまった。

 あれは上級魔法、それをあんな適当に放っただけでこの威力。集中して魔力を寝ることも出来なかっただろうに。

 あれほどの魔法操作技術、十年二十年努力しただけじゃ到底たどり着けない領域だ。それこそ、何百年と……。


「お前、何歳なんだよ」


「レディーに年齢を聞くのは失礼だよ! 『水突(すいとつ)』」


 今度は俺の真下から極太の水柱が吹き出してきて、俺のことを天高く打ち上げる。

 これは中級魔法だけど、威力は中級なんて生易しいものじゃない。明らかに上級以上の威力を誇っている。


 マズイな。

 俺を打ち上げた水が地面に落ち、大量の水が街へ流れ込んで洪水が発生しようとしている。流石に川があるけど、この量の水を受けたら反乱してしまう。

 街中で戦わなければいけないという状況がまず厳しい。相手は何も気にせず戦えばいいが、俺はなるべく街を傷つけないように戦わなければならない。


「『アイスクエイク』っ!」


 地面に魔力を解き放ち、今にも洪水を引き起こそうとしている大量の水を一先ず凍らせる。

 打ち上げる時は魔法で強力な水だけど、一度流れ始めればあれはただの水。初級魔法でも充分に凍らせることは出来る。

 だが、まだ足りない。もっと力を解放しないと俺はこいつに勝てない。

 理解して俺は更にダイヤルを緩めた。こんな街中では賢者の力は出したくないから、髪が白くなる直前くらいまでの力を解放した。


 必死に水を対処した俺の姿を見てエイフィルは面白そうに口角を上げる。


「やるねぇ。まさかこの質量の水を全部凍らされるとは思わなかったよ。なら、今度はこれでどうかな!」


 今度は俺の眼の前まで一瞬で走り抜けてきたエイフィルは拳を勢いに乗せて叩きつけてきたため、俺は腕でそれを受けとめる。

 だが、その威力は凄まじく、俺の肉体は簡単にふっとばされて背後の壁に激突、そのまま壁を貫通して屋内に飛び込んでしまった。


 身体を起こし、周囲を見渡してみる。

 まぁ、なんとなく分かっては居たが、ここら辺には空き家が立ち並んでいる。ここもその空き家の一つで、人が住んでいる気配が微塵もない。

 もし誰かが住んでいるとしたら危険だったからここが空き家で良かった。


 だが、安心している場合じゃない。

 また次が来ることだろう。だから俺は構え――


「あれぇ、まだピンピンしているんだ」


「『ファイアボール』」


 エイフィルの姿が見えた瞬間にファイアボールを放ち、エイフィルに直撃させる。


「けほっけほっ。何よこれ、ファイアボールの威力じゃないじゃない」


「あぁ、よく言われるよ。『身体強化(ブースト)』」


 俺の狙いはファイアボール直撃時に発生する爆発によって生まれる煙。これがいい感じに目眩ましとなり、相手の行動を鈍らせる。

 最初からファイアボールで有効打が与えられるとは思っても居なかった。だから、これが本命だ。

 エイフィルの懐に入り込み、全力の身体強化を拳に集め、そして一気にその腹に叩き込む。


「『破壊の一撃(デストロイヤー)』」


 今度の一撃はちゃんと入った。その感触を感じ、そのまま拳を振り切る。だが、このまま殴り飛ばすと周囲の家にぶつかって破壊してしまいそうなため、俺は力の方向を変え、上空へと殴り飛ばした。

 エイフィルの軽い肉体なんて簡単に上空へとふっとばされていく。

 今の攻撃でもまだ倒せた気はしないけど、流石にノーダメージというわけにもいかないだろう。


 さぁ、どう出る。


「『時雨乱矢(しぐれらんし)』」


「は?」


 上空を見上げ、俺は思わず素っ頓狂な声を出してしまった。

 なぜなら、そこには無数のキラキラ輝くものが見えたからだ。

 あれは雨だ。しかも唯の雨じゃなく、一つ一つが鋭く、殺傷能力を持っている超絶危険な雨。当たれば蜂の巣になってしまう。

 超広範囲の上級魔法。あれをこんな街中で使うなんてあいつ、この街を破壊し尽くす気かよ。

 流石にあれだけの量の雨を全て無力化することなんて俺には出来ない。賢者の中にはできそうなやつが思い浮かぶけど、俺は一撃が強力なだけで、広範囲の魔法とかはあまり得意じゃないんだよ。


「くそっ! メルバード、聞こえてるなら返事しろ!」


『え、あ、はい!』


「外にいるのは危険だ。もし今外にいるんだとしたら今すぐに屋根が頑丈そうな建物の中に避難しろ。十秒以内だ」


『え、えぇ!? 急にそんなことを言われても! 今、ハルトを助けるために向かってるんですよ! それにさっきからなんですか!? なんか水が出たと思ったら凍ったりして。お陰で向かいにくいんですけど!』


「話は後だ。今はとにかく避難することだけを考えろ!」


『ちょ、もうちょっと説明してくださいハルト!』


 今は説明している時間なんて無い。

 俺の場所が魔法の中心地なんだろうから、俺の居る位置が一番危険なのは間違いない。だから俺も隠れなきゃいけないんだが、今俺が居る建物の屋根じゃ多分貫通されてしまう。

 なら、この辺で一番頑丈そうな建物は――


「あそこだ!」


 俺は全速力で駆け抜け、雨が降り注いでくるまでに慌てて見つけた建物の中に駆け込む。

 その直後、外には大量の殺人雨が降り注ぎ、轟音が鳴り響いた。

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