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3-13『綺麗なバラには棘がある』

「確か、被害者たちが最後に発見されたのって路地裏に入る所だったんだよな」


『そのはずですよ。だから気をつけてください。路地裏に入るならば、人目につかないっていうことですから』


「あぁ、気をつける」


 食事を終え、俺はメルバードと通信を繋げながら、事件が起こる直前に被害者が入っていったとされる路地裏まえまでやってきていた。

 今の俺の状態は意識ははっきりとしていて、思考も普通に回るレベルだが、端から見たら酔っ払いに見えること間違いない。

 顔はほんのりと赤くなっていて、酒の匂いを漂わせている。


 それにしてもあいつらに見守られながらこの先に入るのは嫌なんだけど。

 女性たちには内緒だが、この先には男たちの夢と希望が詰まった店が存在する。まぁ、いわゆる娼館と言うやつなのだが、この前、パーティーメンバーの三人には内緒という事で、隣席になった男の冒険者から聞いた。

 聞いたと言うよりも向こうが一方的に喋りかけてきたと言う感じなんだが。


 なんでも、いつも美人三人を連れながら勇者パーティーということで仲間たちに手を出すことは簡単じゃなく、俺が溜まっているのではないかと言う要らぬおせっかいをかけてきて情報を伝えてきた。

 俺もそういうことに興味がないわけではない。というよりも、年齢的には全盛期なんだが、別に娼館に行きたいと思うほどに苦労はしてないんだわ。

 あと、戦っていればそういう欲求も忘れられる。

 やっぱり俺は性欲よりも戦闘欲だ。三大欲求の中に入れて四大欲求にしても良い。


 そんなわけで正直、めちゃくちゃ行きたくない。あの三人が見ている状態で娼館に近づきたくはないんだけど、これは作戦のためだから仕方がない。

 三人も俺が行きたくて行くわけじゃないというのは分かってるから、理解を示してくれるだろう。

 メルバード辺りはいじってきそうな気がしないでもないんだが。


『ハルト、どうしたんですか?』


「いや、なんでもない」


『この通信機は大量生産が難しくて今はボクとハルトでしか話せないけど、ちゃんと他の二人も一緒にいるので安心してください』


「そっすか」


 別にそこの心配はしていない。俺はお前らに娼館の近くに寄っているところを見られたくないと言うだけの話だ。

 ただ、いつまでもグダグダと悩んでいると逆にみんなに怪しまれてしまう。

 ここは腹をくくって行くべきか……。


 腕に視線を落とす。

 いつも通りブレスレットをつけている。相手の力量によってはこれを外すことも視野に入れておかなければな。


 覚悟を決めて俺は路地の中に入っていく。

 辺りは目を凝らさなければ視認できないほど真っ暗で、人通りも全然ない。この中だったらなにか悪いことをしてもバレなさそうだなと言う考えが頭をよぎる。

 夜というのが非常に都合が悪い。


「ふああああああ」


 思わず欠伸をしてしまった。

 色々あったせいで忘れかけていたが、俺は魔王領に行ったその足で勇者パーティーと合流したから、結局今の今まで一睡も出来ていないんだよ。

 なんとか魔力でアドレナリンを出して誤魔化しているけど、だいぶ眠い。寝ていいって言われたら今すぐにでも眠れそうだ。そんな中、こんな捜査をするってなると余計に眠くなってくるぞ。


「うわっとっとと」


『ハルト、どうしたんですか!?』


「いや、悪い。ちょっと石に躓いただけだ。なにかがあったわけじゃない」


『それなら良いんですが』


 眠くてぼーっと歩いていると、足元の石に気が付かなくて躓いてしまった。反省だ。

 こんなことではいざという時に対処できないため、気を引き締める。眠気なんて吹っ飛ぶくらいに、魔力の無駄遣いだとしても俺は脳を活性化させて無理やり眠気をふっとばす。

 本当は健康的に良くないのだが、今回ばかりは仕方がない。


 これ以上進めば娼館が見えてくることだろう。ここまで来ても誰にも会わないということは、今晩は居ないんじゃないか思ってしまう。

 正直、引き返したい。

 男の園は女の子たちには見せてはいけないものだ。


「な、なぁ、もう引き返していいか? 充分見ただろ」


『いえ、まだ先があるじゃないですか。ちゃんと見ておかないと、見落としていたとかだったら洒落になりませんよ』


「いや、だけどな」


『なにかこの先に行けない理由でもあったりするんですか?』


「それは、その、いや、だからな? ――うぐぐ」


 メルバードの問いに言葉が詰まってしまう。

 正直に言うわけにも行かないし、言い訳をするにしても正当化出来そうな言い訳が思いつかない。

 どうしようかと悩んでいたその時だった。


「お兄さん、どうしてこんな所に居るの?」


 正面から現れた一人の少女は俺にそう語りかけてきた。

 ピンク髪でお嬢様のようなドレスを着用している。どう見てもこの場所には相応しくない風貌。

 あんなきれいな格好をしてこんな治安の悪い場所を歩いていたら絶対人攫いにあうだろうと思ってしまう。


 メルバードたちには通信機に魔力を流し込んでいる俺の声しか届かないようになっているらしいから俺の前に少女が現れたというのは気づいていないだろう。

 だからメルバードの問いを無視して俺は警戒態勢に入ってしまった。


 こんな所にどうしてこんなに小さい女の子が居るんだ?

 あまりにも幼すぎる見た目。十歳くらいと言われればそうかと思うレベルだ。

 だが、そんな女の子がこんな所にいるというのは明らかにおかしい。親御さんも心配するだろうし、こんな治安最悪の場所に居て、女の子が普通に歩けているというのもおかしな話だ。

 ここを通る女の子は命知らずか娼婦くらいなものだろうから。


 一先ず、当たり障りのない会話をするように気をつけよう。


「君こそ、どうしてこんな所にいるんだ? 親御さんは? こんなところを歩いていたら危ないから、早く帰りなよ?」


「わぁ、私の心配をしてくれるの? お兄さんって優しいね!」


 ニコニコとして喜んだ素振りを見せる女の子。

 気配を探ってみるが、近くに俺たちと女の子以外の気配は無し、この子からも敵意のようなものは一切感じられない。

 この子の笑顔は信じても良いのか? いや、まだ信じるには早い。

 どちらにせよ、この場所を幼い女の子が歩いていたと言う事実が大問題だ。ならば、俺がヤるべきことは一つだけ。


「俺が道を案内してあげるから、家に帰ろう、な?」


 この子と一緒に居れば監視も出来るし、それに俺もこの役目から解放されることが出来る。

 多分、今日はここに犯人は居ないんだろうしな、俺は早く眠りたいんだ。自分から役目を買って出た手前、弱音を吐くことは出来ないけど、今眠気が最高潮でその上酔ってるからまともに思考が回らないんだ。

 帰ってきた理由もユイたちに話せば分かってくれるだろう。


「良いの?」


「ん、なにが?」


「だってお兄さん、この先のえっちなお店に用があってここまで来たんじゃないの?」


「違うよ……」


 まぁ、向こう側から歩いてきたことは気づいていたし、娼館の存在も知っている可能性あるなとは思っていたけど、この小さい容姿からえっちという単語が出ると頭がバグりそうになるな。

 ただ、俺は本当にその店に行こうとしていたわけじゃないから、普通に否定した。だが、女の子は俺の考えを見透かしてますよとでも言いたげに口角を上げた。


「隠さなくても大丈夫だよ。私はお兄さんがえっちでも幻滅しないから。だって男の人ってそういうものなんでしょ? 大丈夫、私は理解のある女の子だから……さ?」


 すると女の子はゆっくりと俺の眼の前にまで近づいてきて、まるで囁くような口調で言った。


「えっちなの……我慢しなくても良いんだよ?」


「俺はえっちじゃないわ!!」


『え、えっち!? えっちってなんですか! ハルトってえっちだったんですか!?」


 あーもうめんどくさい。

 俺の声はメルバードに聞こえているため、俺が叫んだ声がメルバードに筒抜けとなり、通信機の向こう側で騒いでいるのが聞こえる。


『ユイさん、ルリハさん、ハルトってえっちらしいです。はい、はい、そうなんですよ。もしかしたらボクたちは狙われているのかもしれません』


 おいそこ、二人に報告するな。

 それと俺はみんなを狙ったりとかはしていないから勘違いを吹聴するな!

 後で弁明がめんどくさいことになりそうだなと思って肩を落とした。だが、後のことは後で考えることとして、今はこの少女だ。


「本当に俺はあの店に行こうとしていたわけじゃないんだ」


「私、知ってるよ? ここを通る人たちはみんなえっちが目的なんだって」


「いや、確かにそういう人は多いかもしれないけど、俺は違うんだ」


「否定はしなくても大丈夫だよ。私、別にお兄さんがここに来たことなんて誰にも言いふらしたりはしないから。ここに来たっていうことはお兄さんも溜まってるんでしょ? ならさ――」


 この子、まるで人の話を聞かないな。

 さて、この子にどうやって納得させるか。そんなことを考えていると、女の子は更に俺との距離を詰めてきて、俺は思わず後ずさってしまった。

 そして俺の耳元で囁くように一言。


「私が……してあげようか?」


「なっ」


「怖がらなくても大丈夫だよ? お兄さんは何も考える必要なんて無いんだから。全て私に任せれば大丈夫だから」


 な、なんだこの子、やばい。

 小さくか弱い女の子かと思っていたらそんな発言が飛び出してきたため、俺の思考はショートしてしまう。

 ただでさえ回らなくなっていた思考が更に回らなくなってしまう。

 でも、理解した。全てが分かった気がする。


 ちょっと調子に乗りすぎたみたいだな。


「私ね、お兄さんみたいに強い人『だいす――」


「『突風(ウィンドインパクト)』」


「へ、きゃあああああああああああああああああああああああああああ」


 俺は少女が喋っている所を不意打ちのような形で腹に手を当て、突風を放つと少女の軽い身体はいとも容易く風によってぶっ飛ばされて、正面に見える壁に激突した。

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