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3-12『一人じゃない』

 酒自体はあまり好きではない。

 飲みすぎると酔っ払って思考力が低下、魔法の精度も下がってしまうから、俺は基本的に酒を飲むことはない。

 完全にゼロというわけではないけどな。酒が好きじゃなくても酔っ払いたい気分の時くらいはある。


 だから、今のこのテンションの状態で飲むということは滅多にないからちょっと新鮮な気分だ。


「お、この煮付け美味いな」


「ですよね! 私もこれ好きなんです」


 俺は作戦通り、晩飯はみんなの泊まる宿で食べていた。

 ここでなら酒も飲めるし、美味しい料理も食べることが出来るということで、俺は泊まっているわけじゃないけど、みんなの勧めに従ってここで夕食にする。

 最近は店の料理は久しく食べていなかった。食べていたものと言えば、探索中に作ってくれるユイの料理か、適当に狩った魔物の料理くらいなものだったからな。料理と言っても俺は焼くか煮るかしか出来ないわけだが。

 そんな状態だから酒も暫く飲んでいない。飲みたいとも思っていなかったというのもあるけど、こうして眼の前に出された金色に輝くエールを目にするとちょっと感慨深いものだ。


「でも、本当に酔っ払う必要はあるの? 演技でも良いんじゃない?」


「いや、相手がどんな能力を持っているかわからない。酔っ払っているのかを見破れるほどの能力なのだとしたら俺が捕まえようとしているということがバレてもう二度と俺たちの前に姿を表さない可能性もある。だから、本気で酔っ払っていたほうがいい」


 それに酔っ払っていても、解毒魔法を使えば少しは緩和できる。ベロベロに酔っ払わなければなんとかなる。

 そして俺は金色に輝くエールが注がれたジョッキを手に持ち、口の中にエールを流し込む。

 シュワシュワと弾ける感覚、エール特有の苦み、奥に感じるアルコールの香り。

 面白い感覚で俺は結構好きだ。酔っ払うという点が無ければもっと飲めるレベルなんだが、酔っ払うのが嫌だから程々にしておこう。


「そう言えば私、ハルト君が魔物料理以外を食べているのは初めて見たかもしれません」


「確かにそうかも。ハルトって魔物以外も食べれたんだ」


「俺のことを何だと思ってるんだ。普通に他のものも食うぞ」


 ただ、食材が魔物に偏っていると言うだけで、賢者をやっていた時は普通に店で昼食を摂ったりしてたからな。


「ハルト、護身用にこれあげます」


「要らん」


「うえええええ、なんでですかぁっ!」


「どうせそれ入っているのはエクスプロードだろ? 俺は使わないし」


 メルバードが渡そうとしてきたのはエクスプロードが入った魔石。

 あんなものを使うくらいだったら普通に戦ったほうが俺的には戦いやすいから、本当に要らない。魔法をぶつけるか殴りつけたほうが早い。

 メルバードなりに気を使ってくれたのかもしれないけど、俺にとっては要らなすぎる。


「な、ならこれはどうですか!?」


 続いてメルバードが取り出したのは小型の機械。特殊な形状をしていて、今まで見たこともないものだからどういう効果があるのか想像もできない。


「これは?」


「ふっふっふ、これはとっておきですよ。これはですね、丁度耳にピッタリハマりやすい形状に作ってあるんですよ。ちょっとつけてみてもらってもいいですか?」


「あぁ」


 メルバードから受け取った魔道具を俺は片耳に装着した。耳の中に入る部分は柔らかい素材で作られていて、長時間耳に入れていても耳が痛くなりにくそうだ。

 ただ、これを両耳に入れると完全に音が遮断されてしまうから、両耳に入れるのは危険だな。機器察知能力が低下してしまう。

 だけど、これがなにか。


「これはですね、通信機です。これに魔力を流し込むことによって思い浮かんだ相手が所持している通信機に声を送り込むことが出来、通信機から音を出して離れたところに居ても通話が可能にする魔道具なんですよ! すっごくないですか!?」


「それはすげぇな」


「じゃあ、お試しに、ちょっとボクの部屋から通信をかけてみますね。ハルトはそこでじっとしていてください」


「おぉ」


 俺がいい反応を示したからかちょっと嬉しそうだ。ウキウキとまるでスキップでもしそうなテンションでメルバードは自分の部屋へと戻っていった。

 でも、メルバードの今の説明が全て実現できているのだとしたらこれはすごい。

 今まで手紙という遠くからの伝達手段はあったものの、手紙に関しては一回読むというフェーズが挟まるから受け取る側が緊急事態だったら読むことはままならない。

 だけど、聞くだけなら簡単だ。

 それだけでもこの機械の価値は相当なものになる。こんな効力のある魔道具は今まで見たことがない。


 少し待っていると通信機を取り付けた右耳から音が聞こえてきた。


『あー、あー、聞こえてますか? ボクです、メルバードです』


「うお、すっげぇ。本当に聞こえてきた」


「ホントですか!?」


「これはとんでもない機械ね」


 俺とメルバードのやり取りを静かに聞いていたはずのユイとルリハも我慢ができなくなったようで興奮した様子で反応を示した。

 なんだか通信機の向こう側でメルバードが得意げな顔をしているような気がする。現に今、鼻を鳴らす音が聞こえてきた。

 ただ、この通信機を通しているからか、生の声とは違ってちょっと枯れたような音になっていたから、ちゃんとはっきり喋らないと聞き取りにくそうだ。

 今みたいな簡単な言葉だったら良いけど、小難しい話とかをしている時はちゃんとハキハキ喋ることを意識しなければならない。


『とまぁ、こんな感じで、ボクはこれをハルトに提供します!』


「すごいけど、これ何に使うんだ?」


『ハルトはどうやって自分の状況を伝えるつもりだったんですか?』


「いや、みんな多分近くで見ているだろうし」


 最悪の場合、俺が戦い始めたのを見てからでも来てくれればいいかなくらいに考えている。

 だが、このことを伝えたらユイとルリハに呆れたような視線を向けられ、そして通信機の向こう側からはため息のような音が聞こえてきた。


「ハルト君はナメてますね」


「えぇ、どうやって私たちに伝えるかも考えずに作戦をしようと思っていたとは呆れて言葉も言えないわ」


「そんなに?」


『助けてもらうんです。なら、助けてもらう側なりの心構えというのも必要です。なので、危なくなったと思ったらこれを使ってボクに合図をしてください。そしたらボクらは一瞬で助けに行きますので』


「みんな……」


 あまりにも一人だった時期が長すぎて色々と一人で解決することばかり考えていたけど、みんなは本気で俺を死なせないように頑張って策を巡らせてくれているのに、俺は楽観視してしまっていた。

 そうだよな、みんなが助けてくれるって言ってるんだから、俺もみんなの希望に答えなければいけない。みんなが覚悟を決めているんだから、俺もそれ相応の覚悟を決めなければならない。


 やっとここでこの作戦の責任の重さを理解した。

 今の俺は一人じゃないんだ。元賢者という事で引っ張ることばかりを考えていたけど、俺はもう賢者じゃない。ただの冒険者、ハルト・カインズだ。

 なら、みんなを頼ったとしても何も不思議じゃない。


「んじゃあ、改めて。俺を助けてくれ」


「もちろん!」


「やっと言ってくれたわね」


『フッフッフ、ボクの実力、見せちゃいますよ! ハルトの出番なんて無くなるかもしれませんがね』


 みんなの言葉が心強い。

 正直、さっきまでは不安もちょっとあったけど、今だったらもう不安なんて無い。

 俺はただ、犯人をおびき寄せてみんなでとっ捕まえる、ただそれだけだ。

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