1-4『不覚』
「おっとっと」
俺は急ブレーキをかけ、前のめりに倒れそうになったが、何とか体勢を立て直して何とか立ち止まる。
「とうちゃーく。時間は午前六時、出発時刻は昨日の午後三時頃……よし、大幅に一日切り達成!」
俺は一人で目標を達成したことに喜び、草原の真ん中で両の拳を突きあげて喜びを露にする。
この場に俺以外居なかったことが幸いだ。こんな姿を他人に見られていたら不審者として冒険者ギルドの掲示板に掲載されることとなっていたかもしれない。
ふと我に返って背後を見てみる――いや、見なかったことにしよう。抉れている地面と薙ぎ倒されている木々なんか俺は見ていない。
かくして俺は約十五時間で王都へ到着した。
王都というだけあって、城壁もとても立派なもので、その上に大砲のようなものも設置してある。
城壁の上からはチラッとだけ王城が覗いている。あそこに一度だけ、賢者の任命式の時に行ったことがある。正直あの謁見の間の雰囲気苦手だからもう二度と行きたくない場所だ。
さて、この街でも同じようにDランクというデメリットを背負いながら門番から許可証を貰い、街の中に入る。ただし、この街の許可証はバッジのような感じではなく、カードとなっているため、道行く人々にランクがバレるようなことはない。
俺はこの王都の冒険者学園に通っていたのだが、その通っていた期間がとても短かったせいでとてもここが母校のある街には思えなく、まるで初めて来た土地の様に思ってしまう。
卒業後は自分でギルドを立ち上げるためにこの街をすぐに出たしな。
ちなみに冒険者ギルドは街の中央付近にあるボロ看板の巨大な建物だ。この冒険者ギルドがこの国最大の冒険者ギルド。このギルドを拠点にしている冒険者パーティーも多いので、その分荒くれ者も多く、よく暴れるので色々と壊れては補修しているから、色々とボロボロなのだ。
一回か二回しか入ったことないので、あんまり慣れていなく、おずおずとギルドへ入っていくと、入って真正面の丸テーブルで朝っぱらから酒を飲んでいる冒険者パーティーの皆さんが居た。
このギルドは冒険者に食料の提供もしているから依頼が終わって帰ってきた冒険者パーティーがあそこで祝杯を挙げているのをよく見る。
かなり騒いでいるようだが、こんな光景は他の冒険者ギルドでもよくある光景なので、特に気にする事は無く、パーティー募集の掲示板へと足早に向かう。
「さすがは国内一のギルド、募集数も他のギルドとは比べ物にならないな」
結構大きめなコルクボードの掲示板なのだが、コルクボードが見えなくなるくらいにぎっしりとパーティー募集の張り紙があった。
思い出すな~。
昔来た時もこの光景に圧倒されたものだ。やっぱりいつ見てもこの光景には圧倒される。
ひとまず一つ一つの張り紙を確認して勇者パーティーの募集を探していく。
「勇者パーティーの募集だから大々的に宣伝しているのかと思っていたけど、案外他の募集と同じ扱いなんだな」
このギルドのギルドマスターにはちょっと感心する。
ほかのギルドなら特別扱いをしていたかもしれない。でも、勇者パーティーは選ばれた勇者がリーダーというだけで普通のパーティーと同じだ。特別扱いするのはよくない。
その点、このギルドはしっかりしている。
昔、いろんなギルドを周ってギルドを発足するときの参考にしたから、このギルドが如何にしっかりしているのかというのが分かる。他のギルドを見てみると、一押しのパーティーなんかは大々的に宣伝していたりするからな。
そういうのは本来良くなく、国からもそういう特別扱いはしないようにとお達しがあるはずなのだが、それを守っているギルドというのは少ない。
ちなみに俺がやっていたギルドには所属パーティーそのものが居なかったため、一押しのパーティーなんか居ないから、そもそも贔屓できるような状態じゃなかった。言い換えてしまえば俺も贔屓なんかしたことが無いと言えるな。
どうやら一年で学園を卒業した俺のことを冒険者たちは信用できなかったらしい。だからずっと一人で依頼を受けては解決していたんだが、それをずっと続けていると俺のギルドはそういう方針なのかと勘違いされ始めて、結局ギルドを畳むまで誰一人として所属してくれることはなかった。
昔のことを懐かしみつつ、掲示板を探しているけど全然勇者パーティーの募集が見つからない。
「ど、どういうことだ。もうすでに十週は端から端まで全部の募集書を見ているというのに、勇者パーティーの募集だけは見つからない……まさか、出遅れた?」
勇者パーティーの募集人数は二人、凄まじく狭き門だ。
この街に応募者が居れば、俺がここまでくる時間で埋まってしまったとしても何もおかしくはない。
「俺が……出遅れた? そんな、馬鹿な」
ショックのあまり俺は掲示板の前で膝から崩れ落ち、両手を地面につけて項垂れた。
ギルド内にいる冒険者たちの視線が俺に向いている気がするけど、そんなことを気にする余裕は今の俺にはなかった。
俺はすでに勇者パーティーに入る気満々だった。勇者パーティーに入ったらどんなポジションに着こうかということまでずっと考えていた。そして、ユイという少女がどんな人物かもすごく楽しみにしていた。
勇者パーティーに入るというのは俺に初めてできた夢だったのだ。だが、その夢は出来てから一日も経たずして崩れ去ってしまった。
夢とはこれほどまでに儚く、そして虚しいものなのか。夢が破れた人の気持ちを今日初めて理解したかもしれない。
「えっと……だい、じょうぶですか?」
突如として横から聞こえてきた女性の声。俺は涙が溢れてきそうになっているところ何とかこらえて顔を上げ、その声の主を確認する。
その女性はしゃがんで俺のことを見てきていたが、その顔を見た瞬間に俺は固まってしまった。
「おーい、どうだった? 応募者は来てた〜?」
「まだ、これから確認するところ~なんだけど、倒れている人が居たから」
「本当じゃん、大丈夫?」
呆然としている俺を他所に、俺の近くにもう一人女性が増えた。多分この二人の女性は冒険者仲間ということなんだろう。それもかなり親しげな話し方のため、昔からの友達なんだろうと推測できる。
だが、そんなことはどうでもよくて、俺が勇者パーティーに入れなかったというショックとか一瞬で吹き飛んでしまった。
最初に俺に話しかけてきた女の子は綺麗な艶のある金髪ロングの緑眼少女。優しそうな丸っこい眼に小ぶりではあるがプリっとしていて柔らかそうな唇。そして身長としてはそこまで高い方ではなく、小柄な部類に入るとおもうのだが、そんな小柄な体躯に似合わないほどのとても素晴らしく立派な胸部装甲。
間違いない。この少女、リアだ。