3-10『不可解な事件』
馬車に揺られること一時間、俺たちは王都へと戻ってきてしまった。
折角己の尊厳を全て投げ捨ててまで決行した秘技『駄々っ子』は効果を示すことはなく、ただただ俺の尊厳を破壊しただけで終わってしまった。
こんなことになるのならば、あんな奇行には走らず、素直に従っておけばよかったと後悔するけど、後悔既に遅し。
俺は涙を流しながら、三人をギルドに連れてきた。
そこで俺の催眠が解け、身体に自由が戻ってきたため、逃げようかとも考えたものの、ここからだともう逃げることも叶わない。
仕方がなく俺は三人の後について大人しくギルドマスターの元へ向かった。
「お待たせいたしました、ギルドマスターがお見えです」
「四人とも、わざわざ済まないね。今日は遠征をするってユイ嬢に聞いては居たけど、どうしても急ぎの案件でね。賢者がこの街に居れば賢者に頼んだんだけどさ、今は居ないから君たち勇者パーティーを頼るしか無いんだよ。困ったことにね」
ここら辺のエリアを担当していた賢者っていうのが俺だからなんか結局は俺に仕事が回ってきてるみたいだけどな。
正直、俺はこのおっさんがちょっと苦手だ。
このギルドに来たことは賢者時代にはほんの少ししか無いのだが、いつもいつの間にか俺の最寄りのギルドにまで出張に来て依頼を押し付けて帰っていく。
面倒な案件は全部俺にぶん投げてくるっていう癖は本当になんとかしてほしい。
他の冒険者たちがやりたがらなくて売れ残ってしまった依頼も緊急の案件として俺に投げるのを止めろ。俺はただでさえ賢者としての仕事もやってるんだから、それ以上面倒な案件を増やすのは止めろ。
ギルドマスターの顔を見るだけでどんどんと恨み言が浮かんできてしまう。
「君たちは今朝の事件を知っているかい?」
「今朝の、事件ですか? いえ、なにも」
「そうか……んじゃあ、とりあえずこれを見てくれ」
そう言ってギルドマスターが取り出したのは一枚の写真。
映っているのは一人の兵士。道端で倒れており、外傷などは特に無いため、ただただ酔いつぶれて倒れているようにも見えなくもないが、そんなどうでもいい男の写真をこんな場所で見せるわけがないだろう。
つまりこの写真に写っている男は――
「彼は今朝、死体で発見された男だ。この写真の状態と全く同じ状態で発見されたようだ。検視によると、誰かと争ったような形跡は全く無く、外傷も特に無いことから誰かに襲われたというのもちょっと考えにくい状態なのだそうだ」
「では、病気とかですか?」
一番最初に考えつくのはそれだろう。だが、ギルドマスターの反応的に、どうやら違うらしい。
「僕も最初に報告を貰ったときにはそう思ったんだけどね。彼、心臓が捻り潰されていたらしいんだよ」
「し、心臓をですか!?」
「そんなことってある?」
ユイとルリハは声を上げ、メルバードは目を見開いて驚愕していた。
もちろん俺も驚いてはいるが、この魔法も切り札もある世界ならばありえないことでもないだろうと思えてしまう。
いや、魔法程度の効果ではそんな器用な自称を引き起こすことなんて不可能だろう。そんな魔法は一度も聞いたことがない。
ただ、これが切り札による効果だとしたらどうだ?
切り札の効果は人それぞれだ。俺の『業』みたいに攻撃されたら、そのダメージを次の一撃に込めたりするものもあれば、ヴァルモダのように自動迎撃、マナのように禍々しいもの、ガルガのようにダンジョンを一から作り出すもの、ユイのように属性の剣撃の威力を上げるもの、その数は切り札を使うことが出来る人の数だけ存在すると言われているほどだ。
だから、切り札ならあり得る。
「彼と同じ様な状態の人がもう四人ほど見つかっていてね。僕はこれを同一犯による犯行だと考えている。連続殺人、これは許しておけない。だから君たちに調査依頼をしたいと思った次第だ」
ギルドマスターにしてはちゃんとした依頼だった。
俺が賢者だった時は誰もやりたがらないからって庭の草むしりの依頼とか、ペット探しの依頼とかを俺にぶん投げてきていたイメージだったけど、これはちゃんとしている。
確かに早く解決しなければこの街は終わる可能性が高い。
誰にも気取られず、一晩でそれだけの人数を殺害。常人じゃそんなことは出来やしない。
相当な使い手か、はたまた能力が他にバレにくいような効果なのか……。それはわからないけど、これは厄介そうだ。
そう簡単に姿を見せるようなことも無いだろう。
「雲を掴むような依頼だな」
「む? 君、まるでカルマのようなことを言うんだな。カルマがこの場に居たら今の君のようなことを呟いていただろう」
「…………ハ、ル、ト?」
ギルドマスターは「ま、あいつがこんなところに居るわけ無いか。はっはっは」と笑うが、俺としては全く笑い事ではない。
つい素で呟いてしまったが、ギルドマスターに指摘されてハッとした。その考えが当たっているっていうのが質悪いし、この間ルリハにカルマだという疑いをかけられたばかりのせいで、ギルドマスターの軽率な一言でまた俺に疑いがかかり始めているような気がする。
その証拠に、何やら獲物を睨むかのような視線でルリハが俺のことを見てきている。
ルリハにバレてしまったら俺がもうどこかに身を隠さないように換金されてしまうかもしれないなと軽く考え、意外とあり得るかもしれないという結論に至ってゾッとする。
まぁ、ここで下手に触れる必要はないか。触れたら余計にややこしいことになりそうな気がする。
「ま、そんな訳で、今回君たちに依頼するのはこの事件の調査及び、解決だな。依頼難易度はAとさせてもらう。君等パーティーの最高ランクよりも高いランクではあるが、これを事実上のAランク昇格試験としよう。この依頼を達成できたら、ユイ嬢、ルリハ嬢、メルバード嬢の三人をAランクに、ハルト氏を飛び級でBランクへ昇格させることを約束しよう」
「ありがとうございます!」
「ついに私たちもAランクの大台にっ」
「それでもやっぱりハルトはボクらに並ぶことは出来ないんですね!」
「うるせぇ」
そんな一気にランクアップとか望んでないんだけどなぁ。
確かに三人がAランクなのに俺だけCランクっていうのも格好がつかないけどさ、Bランクになったらなったで色々面倒だよ?
使命依頼が入ることもあるしさ。今でさえ勇者パーティーということでこうやって使命依頼が入って面倒なのに。
「悪いな、一気に三ランクアップっていうのは流石に制度上出来ないんだ。これを達成できたならば間違いなくAランク以上の実力はあると見ていいけどな」
いや、良いんです。
俺はとりあえず適当に上がっていれば、高ランクじゃなくてもこのパーティーで好き勝手出来るならば、俺としてはどうでもいいんですよ。
ちょっと申し訳なさそうな声色でギルドマスターが言ってくるが、俺はランクに関しては全く気にしていない。
体裁的にちょっとは上げたほうが良いかなとは思っていたけど、高ランカーになるつもりとか、もう一度賢者になるつもりなんて更々無いんで。
「それで、この事件でわかったこととかはあるのか? なにかそれぞれの被害者の共通点とか。そういうのがないと流石に犯人を見つけるのは無理だと思うぞ」
「あぁ、そうだな。それはそうだ。この事件の被害者たちは、もれなく昨晩遅くまで酒を飲んでベロベロに酔っ払っていたそうだ。酒屋の店主たちがそう証言してくれた」
「つまりは、被害者たちは泥酔しているところを狙われた?」
「そういうことになるな」
酒を飲んでいるということが関係しているのか?
はたまた、そのタイミングのほうが好都合だったのか。そして、他の被害者の写真も一緒に出してもらったが、全員男性と言うところも共通している。
全員泥酔している男性だ。
犯人は何を目的でこの人選をした?
どんな容姿をしている?
「渡せる情報はこのくらいで済まないが、後はよろしく頼む」
「わかりました! 必ず私たちがこの事件を解決してみせます!」
「うん、私はこの街が好きだし、荒らされるのは気分が良くない」
「ボクも頑張っちゃいますよ!」
三人は張り切っている様子だが、まだ情報が少なすぎてどうしたら良いのかがわからない。
だけど、分かっていることとしては泥酔している男性が狙われたということ。
正直、この作戦を提案したら三人に猛反対されるということはわかりきっているけど、作戦会議で一応俺の案を提示してみることにするか……。
ギルドマスターから依頼を受けた俺たちはそのまま応接室を後にして作戦会議を行うことにした。




