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3-9『ギルドからの依頼』

 なんとかダンジョンを脱出した俺たちは馬車に乗り込んで一息ついていた。

 本来はもう少し探索する予定だったが、さすがにあれだけ狂暴化してしまっている魔物が居る状態で探索を続けるわけにもいかない。

 幸いにも近くにほかの冒険者の気配はないから、狂暴化した魔物に襲われるという心配はないだろうけど、この間に入ってしまう可哀そうな冒険者が出ないように、暫くはダンジョンの入り口を見張っておくことにする。


「お願いだから、リスクがあるなら早く言ってちょうだい」


「ごめんなさい……早く魔道具を披露したいという気持ちが」


「わからないでもないけど、その行動一つでパーティーメンバー全員を危険に晒すことになるんだから、もうちょっと考えて行動して頂戴」


「ま、まぁ、ルリハちゃん。私たちみんな無事だったんですから、それくらいで」


「ユイは甘いのよ……私たち二人で冒険しているわけじゃないんだから、ちゃんとするところはしておかないと、大惨事になってからじゃ遅いのよ」


「う、うん、そうだね」


 ユイはあまり誰かを注意するということは慣れてないだろうし、代わりにルリハがメルバードに説教をしていた。

 さすがに今回の失敗はまずかったと理解しているからかメルバードも大人しくその説教を受けている。

 パーティーで行動する以上、自分勝手な行動をし続けるわけにもいかない。

 今回は何とかなったからいいものの、最悪俺たちは全滅していた可能性だってある。もちろん、俺がそんなことにはならないようにするが、俺の力は基本的に使わないようにしたいし、彼女たちには彼女たちだけの力で俺と張り合えるようになってほしい。

 こんなところで死んでほしくは無いんだ。


 俺も何か言ってやろうかと思っていたけど、ルリハが全部言ってしまったため、俺は傍観に徹することにした。

 ただ、一つだけ聞きたいことがあったからこれだけは聞いてみる。


「なんで自爆機能なんてつけたんだ? いや、あれに助けられたには助けられたけどさ、要らないだろ」


「ナニ言ってるんですか?」


「うわっ、近い」


 ちょっと疑問を投げかけただけだというのに、すごい剣幕で顔がぶつかるまで数ミリくらいの距離にまで迫られたため、ちょっと気圧されて仰け反る。

 なんでそんな当たり前のことを聞くんですかとでも言いたげなトーンで眼の光を消しながら言ってきているからちょっと怖い。


 でも、俺そんなに変なことを言ったかなぁ?


「さっきも言いましたが、爆発は芸術なんですよ」


「は、はぁ……」


「芸術なんです、自爆機能はロマンなんです。爆発の色、威力、爆風、そして跡地。その全てが織り成すハーモニー。爆発こそが究極の魔法であり、魔法の全てである」


「そんなことは無いと思うが」


「何か言いました?」


「……何も」


 こっわぁ。

 何この子、今暗殺者のような瞳で見つめてきたんだけど。

 爆発系魔法に脳が支配されてるんじゃないかと思うほどの信仰ぶりに引いてしまう。

 さっきまで説教をしていたルリハも引いているようで、助けを求めて視線を向けるが、眼を逸らされてしまった。


「ハルトはわかってないみたいですね。この際です、爆発の魅力をハルトに解きましょうか」


 まずい、このままだと俺はメルバードに爆発教へ入信させられてしまう。

 俺別に爆発魔法をあんまり使わないんだけど。

 どうしよう、このまま全力疾走で逃げようかな。


 そんなことを考えているとユイが声を上げた。


「あ、手紙が来ました」


「手紙? 魔王から?」


「ううん、ギルドからみたい。一応私がリーダーだから、連絡事項は私に来るからね。本当はルリハちゃんの方がこう言うの向いてると思うんだけど」


「私たちは勇者パーティーなの。なのに勇者のユイを差し置いて、私がリーダーする訳にはいかないじゃない」


 ルリハの言葉にちょっとだけ残念そうに「そっかぁ」とだけ呟いたユイは突然現れた手紙を開いてみる。

 手紙は相手がどこにいるか分からなくてもイメージするだけで飛ばせるから、連絡事項などを伝えるときには便利だ。あとは、ユイとマナみたいにお互いの居場所がわからない相手と文通したりとか。


 それにしてもギルドからの手紙かぁ。嫌な予感しかしない。

 俺も賢者時代にはよく手紙で仕事に駆り出されたわけだが、他の冒険者とかとは違ってスゲー広範囲で面倒で他の冒険者に安易に投げられない依頼を叩きつけられたりしたからちょっとだけ嫌悪感がある。

 一度だけ手紙を破って逃げ出したら他の賢者たちを派遣して捕まえられ、依頼に強制連行させられた。

 俺たちは別に賢者というわけじゃないから、あの時ほどの面倒なものは無いだろうけど、でも嫌な予感がする。


「えぇっと……『勇者パーティーに依頼をしたい。一度ギルドへ戻ってきてくれ』とのことです。手紙にはその依頼内容っていうのは書いていませんね」


「なにそれ。直接じゃないと話せない依頼っていうこと?」


「なんかちょっと秘密のミッションって感じでワクワクしますね」


 俺、逃げていいかな。

 いや、マジでさ、俺が賢者の時に受けていた手紙の文面と全くおんなじ文面が送られてきたものだからユイの言葉を聞いて意識が飛びそうになったよね。

 もうダンジョン探索は終わって今日の仕事は終わったんだから俺は自由行動って言うことでいいよね。なんだったら魔王領に匿ってもらいに行こうか。


 面倒くさい予感しかしない。


「それじゃあ、ダンジョン探索も中途半端に終ってしまいましたし、この後はこの依頼について聞きに行きましょうか」


「そうだね、お金も稼がないとだし」


「行きましょう行きましょう!!」


「いや、俺は行きたくないんだけど」


「ハルト君、ギルドからの呼び出しは行かないとダメですよ? お金も稼がないと行けませんし。


 なんでお前らそんなにやる気があるんだよ。普通に行く流れになってるけど、俺は絶対に行きたくない。

 確かにユイの言葉は正論なんだけど、その文面でいい内容だった試しがない。

 こうなったら仕方がない。

 あれをヤるしか……。


「嫌だ」


「え、ハルト君どうしたんですか?」


「嫌だ嫌だ!」


「ちょ、ハルト?」


「嫌だ嫌だ嫌だ!」


 秘技『駄々っ子』。

 俺の全信用と信頼、社会的地位を捨て、自分の要求を通す必殺技だ。

 地べたに倒れ、駄々をこねる。たったこれだけの動きなのだが、大抵の人には効果覿面。その絵面のきつさから折れる人が大半で、俺への信用がゼロになる代わりに要求を飲んでもらいやすくすると言う諸刃の剣だ。

 俺は本気だぞ。このまま何時間もこうしていたって良いんだぜ?


「え、メルちゃん何をする気ですか?」


「まぁ、死にはしないですよ」


 そんな俺の姿を見てメルバードが俺の元へ近づいてきた。

 やっと俺の意見を聞く気になったか? そんな呑気なことを考えていると、メルバードに突如口の中へ何かを放り込まれてしまったため、俺は反射的にその何かを飲み込んでしまった。

 何かの錠剤の様な……。


 ただ、俺は毒や麻痺も自力ですぐ治せるから、なにかを盛られたとしても特に問題はない。薬を飲ませたくらいで俺が大人しくなると思ったら大間違いだぞ。


「ハルト、早く王都まで連れて行って」


「はい……メルバード様」


 そんなことを思っていた時期が俺にもありました。

 俺の口は俺の意思とは反して勝手に動いて返事をすると、身体を動かそうと思っていないのに勝手に動き、俺はいつの間にか御者席に座って手綱を握っていた。

 もう何が起こっているのか全くわからない。


 解毒魔法をかけても全く効果がないことから、毒とはまた違う部類なんだろうけど、まるで自分が自分じゃないみたいで気持ち悪い。

 自分の意思とは関係なく馬車を動かして王都へ向かい始める。

 なんとか首だけは動かせたため、背後に居るメルバードへ視線を向けてみると、勝ち誇ったかのようなニヤけ面を向けてきていた。


 そうだった、あいつ作る魔道具はあれだけど魔道具技師としての腕前は天才的なものがあったんだった。

 俺の解毒魔法が効かない程の薬品を作ることは造作もないって言うわけか。

 催眠薬……あれを飲まされたら最後、メルバードの言うことには逆らえなくなる。


 その事実に涙しながら俺は必死に馬車を走らせるのだった。

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