3-7『Cランクの魔物たち』
ダンジョンへ入ると、視界が歪みだした。
Cランク以上のダンジョンとなると、魔素が濃く、空間が歪んでいることが多いから、空間跳躍時の酔いが発生する場合がある。
苦手な人はこの酔いで気持ち悪くなって探索不可能となってしまうことも。
こればっかりは実力のある人でもダメな人はダメだから体質の問題だろう。
そして視界の歪みが収まり、周囲を見渡してみると、俺たちは洞窟の中に入ってきたはずなのに、辺り一面には緑生い茂る草原が広がっていた。
上空には空が存在して、眩しいほどの太陽が俺たちを照らしている。
どうして魔素でこんなことになるのかはまだ解明されていないが、俺たち人間では及ばないなにかとてつもないことがダンジョン内で起こっているに違いない。
「ボク、久しぶりにダンジョンに来ました! ずっと魔道具研究に没頭していたので」
「メルちゃん、慎重にね。草原で、隠れるところも無いから囲まれたらどうしようも無くなっちゃう」
これがこの草原タイプのダンジョンの厄介な点で、洞窟とは違って隠れることが出来る場所が本当に限られている。
だから見つかったら永遠に逃げ続けるか、討伐するかしか選択肢に入らないということも結構ある。
基本的にはこのタイプのダンジョンでは魔物に見つからないように動き、見つかる前に不意打ちで先制攻撃をして一気に倒すっていうのが定石だ。
俺も複数相手は得意じゃないから一体一体確実に倒していく。
強い敵と戦うのは好きだけど、大量の敵に囲まれて苦戦するというのは違う。あれはなんにも楽しくないから、そんな状況は避けるに越したことはない。
「それで、今日はどれくらい潜るんだ?」
「そうですねぇ。流石に最初から完全攻略を目指して進みましょう! っていうのは難しいと思うので。私たちもここに来るのは初めてですし。なので、とりあえず今日はこの一階層の階段を見つけ、そして余裕がありそうなら、二階層をチラッと覗いていきたいと思います」
「それが懸命。初めてのダンジョンでは無理をしないことが大事。ハルトをサポートしながら戦うんだし、無理をして死んだら目も当てられない」
俺が書類上では足かせになっているから、みんな無茶をしないように俺のランクに合わせた探索方法をしてくれている。
このパーティーメンバー的には俺目線的には高ランク帯しかいないから、最初からダンジョンガーディアン討伐を目指してもなんとかなりそうな気がするが、みんなの目線からだと俺をなんとかして死なないように守らなければいけないということになってるからな。
これは本格的にちゃんとランクを上げたほうが良いかもしれない。
俺たちは慎重に周囲を警戒しつつ、背の高い草に身を隠しながら魔物を探し始める。
Eランクダンジョンと比べてそれなりに魔物のランクも上がっているだろう。
そして、こういう屋外ダンジョンの場合、擬態系の魔物が多いと言う経験則がある。
例えばちょっと離れた丘の上に居るCランクのトレント。
トレントは普段は木に擬態しているため、間違って近づいてきた相手を木の枝でがんじがらめにして捕らえて締め殺すという魔物。
よく見れば目があったり、根っこが地面に刺さっていなかったりと、普通の木と比べて違和感があるから見分けがつく。
今回は離れた位置にいるからスルーだ。ユイたちもそっちの方面に行く気が無いようだから、助言をする必要もないだろう。
万が一接敵する場合は燃やし尽くしてやれば瞬殺だ。
ちなみにあいつは全身が魔素で出来ているから、スライム同様食べることは出来ない。
「みんな止まって。魔物が居ます」
そこで先頭を歩いていたユイが声をかけたため、俺たちはその場で立ち止まる。
ユイの前方、背の高い草が無くなって開けた場所に三体の草ウルフが居た。
草と見間違えてしまうほどの色の体毛、尻尾はまるで葉っぱのような形状で葉脈まである。性質的には動物よりも植物に近いようで、昼間は光合成をしているらしい。
ただ、光合成の効率は悪く、光合成で作ったエネルギーだけで夜を越すことは出来ないようで、夜は何かを食べて過ごすようだ。
弱点はトレント同様、火。尻尾の部分以外は完全に魔素があるから食べられず、尻尾の部分だけが可食部となる。正直、あれを捕まえて調理したところで一体から得られる可食部は少ないから腹の足しにもならない。
「まだ気づかれていないようです。今のうちに倒してしまいましょう。その方が動きやすくなります」
「了解、じゃあ私のファイアボールで一撃でやる」
まだ俺たちの存在には気づいておらず、呑気に昼寝をしている。
寝ているところを攻撃するというのはあまり絵面としては良くないことは理解しているけど、結構草ウルフって凶暴で、見つかったら近くにいる草ウルフ全員に知らせが行って囲まれる可能性もあるから見つかってない内に一撃で仕留めるのが一番いい。
厄介な敵は目覚めさせないに限る。
「『ファイアボール』」
ルリハの手から射出された火の玉はそのまま真っ直ぐ草ウルフに向かって飛んでいき、寝ている草ウルフに直撃、草ウルフは大炎上した。
そこでようやく自分が攻撃されていることに気がついて飛び起きたが、もう遅い。草と同性質を持っている草ウルフの体毛はよく燃える。あとはもう燃やし尽くされるのを待つことしか出来ない。
「が、きゅううううううん」
最後に攻撃されていることを仲間に知らせようとしたのだろうが、それも失敗に終わり、そのまま丸焦げになって力尽き、力なく倒れた。
危なかった。
ちょっとでも倒れるのが遅かったら仲間を呼ばれて取り囲まれるところだった。
「さて、探索の続きをしましょうか」
草ウルフを倒し、安全が確保できたと判断したユイは再び歩き始める。だが、俺はそんな不意の腕を掴んで引き寄せた。
爪が甘いところがまだ初心者なんだなと思う。
俺がユイを引き寄せた直後、元々ユイが立っていた場所に何かがものすごい勢いで突撃してきて、ユイに攻撃が当たらなかったことを悟ると直ぐに上空へと飛んでいった。
「アイアンホーク!?」
そう、俺たちの上を飛んでいて、俺たちのリーダーを一番に狙ってきたのは鉄のような翼とくちばしが特徴の鷹の魔物、アイアンホーク。
獲物を狙う際の最高速度はBランクを凌ぐとも言われ、その速度から繰り出される鉄製のくちばしからの突撃攻撃は一撃で人体に風穴を開けることすら可能にしている攻撃力、速度共に増し増しの魔物だ。
ま、屋外ダンジョンだし、ワンチャン居るかもなとは思っていたけど、こうも直ぐに遭遇するとは思っても居なかった。
あいつは目も良いし、どれだけ逃げようとも絶対に見失ってくれはしない。
正直、Cランク詐欺の魔物ではある。なのに、Cランクダンジョンの屋外タイプでは浅瀬でも普通に出てくることから、Cランクの登竜門とも呼ばれている。
いわば初心者殺し。
「うわぁ、面倒なのが出てきたね。あれ速いから遠距離当たるかわからないよ」
「うぅ……結構相手するの大変そうですね。私は全然遠距離攻撃の手段なんて持ってないので」
確かにルリハとユイの攻撃手段だったらあれを倒すのは骨が折れる。
遠距離は当たるかわからないし、遠距離攻撃じゃなければあれに攻撃を当てることなんて不可能。常に一定の距離を保って様子をうかがってくるからな。
あと、虫系の魔物よりも賢いというのも厄介なポイントだ。
賢いから絶対に攻撃の時以外は近づいてこないし、攻撃も普通に回避してくる。
俺も普通に面倒。
そんな風に困っていると、いつの間にか俺の隣に立っていたメルバードが声を上げた。
「ふっふっふ、今こそボクの出番というわけですね」
「メルバード、なにか策でもあるのか?」
「もちろん、こんなこともあろうかと作っておいた魔道具があるんですよ!」
得意げな顔をして鞄の中に手を突っ込むと、その中から取り出したのは四角い箱のような見た目の魔道具。
上面にはいくつかのボタンと魔石の様な石が着いていて、側面には網目状になっている面が存在する。
今まで見たことも聞いたこともないような魔道具だから、多分メルバードが作り出した魔道具なんだろう。
「これはですね、超音波を発生させる機械です。魔物によって嫌いな音っていうのが違うんですよね。例えば、人間だと甲高い音とかがそれに当たりますね。そんな感じの音を発生させて周囲の魔物を弱体化させるっていうのが目的の機械になりますね。試作段階なので、まだ実戦で使ったことはないんですけど」
「すごいですね! それが成功したら今よりも楽に魔物討伐が出来るようになりそうです」
「リスクとかはないの?」
ユイは純粋に感心している様子だったが、マナはそこまで都合が良すぎる話は無いのではないかと考えてちょっと疑っているようだが、俺もちょっと怖いと思うのが本音だ。
これが完全に成功したら今ユイが言ったように、間違いなく今後の魔物討伐がものすごく楽になるだろう。だが、デメリットが有るならばそのデメリットの大きさ次第だ。
ルリハの質問に答えながらメルバードは魔道具の設定をしていく。
「リスクですかぁ。そんなに無いですけど、周波数によっては一部の魔物を弱らせる音でも、他の魔物を興奮させてしまうものとかありますね」
『へ?』
俺たちの声が重なった。
今、この緑色はなんて言った?
「じゃあ、いっきまーす!」
「ちょっと待て緑!」
メルバードが魔道具を起動させるのを止めようとした。だが、俺の判断はちょっと遅かったようで、メルバードの指は軽快に魔道具の起動ボタンを押してしまった。
直後、メルバードの魔力をエネルギーとし、装置に取り付けられていた石が紫色に怪しく光り輝く。起動してしまったようだ……。
止められなかったことを後悔してももう遅い。起動してしまったのだから、これが上手く動くことを祈ることしか俺たちには出来ない。




